【2025国際協同組合年】協同組合間連携で食料安全保障を 連続シンポ第7回2025年10月22日
2025年国際協同組合年全国実行委員会は10月21日、東京都内で「食料安全保障をめぐる状況と協同組合が果たすべき役割」をテーマに、連続シンポジウム・座談会の第7回を開催した。JAグループ、日本生活協同組合連合会(日本生協連)、全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)が各団体の取り組みを報告し、東京大学名誉教授の生源寺眞一氏のコーディネートで討論が行われた。
シンポジウムの様子
連続シンポジウムは、2025年の国際協同組合年(IYC)に合わせ、日本社会の課題を起点に協同組合の実践と課題、解決に向けた貢献、今後の方向性を明らかにすることを目的としている。今回のテーマである「食料安全保障の確保」は、改正食料・農業・農村基本法の基本理念として位置づけられており、各協同組合がそれぞれの立場から取り組みを進めている。
冒頭、IYC2025全国実行委員会幹事長の比嘉政浩氏(JCA代表理事専務)が改正基本法と食料安全保障の趣旨を説明し、続いて各団体の報告に移った。
JA・JF・生協が実践報告
各協同組合が報告
(左から、JA全中の藤間則和常務、JF全漁連の内田珠一代表理事専務、日本生協連の嶋田裕之代表理事副会長)
JAグループは、全中の藤間則和常務が、①持続可能な生産、②安定供給に向けた流通環境整備、③需要に応じた生産拡大、④国民の理解醸成に取り組んでいると報告。協同組合間連携では、生協との高齢者支援(JAひがしうわとコープさっぽろ)、漁協との共同マルシェ(JA鳥羽志摩〈現JA伊勢〉と鳥羽磯部漁協)を紹介した。地域貢献として、子ども食堂を運営するJAふくしま未来女性部、出前授業や農村体験の受け入れを行うJA山形おきたま青年部の活動にも触れた。
JF全漁連は、内田珠一代表理事専務が、国内漁獲量が1988年から2023年の間に3分の1以下へ減少している現状を提示。沿岸開発や外国漁船の操業、就業者の減少に加え、近年の海水温上昇など海洋環境の変化を指摘した。こうした課題に対し、漁協や市町村等で構成する「地域水産業再生委員会」が策定する「浜プラン(浜の活性化プラン)」に全国580地区(2024年9月末時点)が取り組んでいることを紹介し、「生物多様性のある豊かな浜づくりがJFの役割だ」と述べた。
日本生協連の嶋田裕之代表理事副会長は、生協の歴史を振り返り、1960年代に確立した宅配制度が「生協成長の礎となった」と説明。生協産直の誕生によって「生産者組織とともに発展してきた」とし、買い物困難者への対応、環境・生態系保全、食料自給率向上などの取り組みを具体例とともに紹介した。
一方で、2024年夏の米の需給逼迫については「年間契約で例年並みの数量は確保したが、小売りの品切れを背景に注文が増え、販売を抑制せざるを得なかった」と報告。「改善点を生産・消費双方の視点から検証し、協同組合間の連携をさらに広げたい」と述べた。
子ども支援、福祉連携、災害対応を議論
東京大学名誉教授 生源寺眞一氏
討論では、生源寺氏が「フードバンクや子ども食堂の取り組み」を問いかけ、藤間常務は「全国のJAや連合会が女性組織を中心に連携している。根底には貧困や格差の拡大があり、国の経済対策を求めると同時に、JAも労働力提供などの支援を強める」と応じた。
福祉連携に関して、内田氏は「"水福連携"も必要で、連携を進めたい」と発言。子ども支援については「漁獲物の鮮度保持に課題はあるが、数量を限定しつつ検討したい」と述べた。生源寺氏は「"林福連携"の可能性もある」と補足。嶋田氏は「子育て家庭への支援も生協の使命」であり、「食材提供など協同組合間の連携が不可欠だ」と強調した。
さらに、日本生協連が掲げる「合理的価格形成を、消費者の負担とともに国の財政支出で支える」という提案について、嶋田氏は「農地や里山、水田の保全は国のあり方そのもの。政策としての調整機能が必要だ」と説明。生源寺氏は、EUが農家への直接支払いへ転換した事例を挙げ、「累進課税や富裕層負担による再分配が求められている」と指摘した。
災害対応では、藤間氏が「JAグループは『仲間を助けるDNA』を持ち、全国で被災支援を展開している」と述べ、内田氏は能登半島地震の際に「水産庁と連携して船舶輸送を実施し、その後のJF再編も進めている」と報告。嶋田氏は、阪神・淡路大震災を契機に進めた行政との協定化や、日本生協連におけるBCP(事業継続計画)体制の整備を紹介した。
協同組合の「日本らしさ」と連携の展望
終盤では、IYCで問われる「グローバリゼーションとは異なる、日本らしい協同組合の姿」が議題となった。藤間氏は「JAの総合事業は日本モデル」と述べ、内田氏は「日本は古代から魚食文化を育み、海洋国家として領域保全や海難救助にも役割を果たしてきた」と語った。嶋田氏は「宅配は消費者が声を上げる交流の場でもあり、日本独自の仕組みだ」と強調した。
生源寺氏は総括として、「食料安全保障のリスクが高まるなか、1億2000万人が生活できる備えがあれば、非常時にも冷静に行動できる」と指摘。さらに「自給率の低い国と輸出国では政策の考え方が異なる。東アジアや東南アジアとの連携も可能だ」と述べた。今回のシンポジウムについては「協同組合間連携の第一歩として、情報交換により事実を共有し、相互理解を深めることが重要だ」と締めくくった。
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