JAの活動:2025国際協同組合年 今こそ果たす農協の役割
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(3)2025年10月17日
協同組合のルーツというと、組合員の自主性を重んじたロッチデール原則やライファイゼンの「一人は万人のために」が知られるが、日本史をひもとくと二宮尊徳の報徳社に行きつく。格差と分断が深まる今日、だからこそ輝きを増す尊徳の思想「報徳仕法」は、農業協同組合運動にどう引き継がれ、相互扶助の輪はどんな展開をみせているか。大日本報徳社社長の鷲山恭彦氏、JAはだの組合長の宮永均氏、JAはが野総代の猪野正子氏が縦横に語り合った。司会は文芸アナリストの大金義昭氏。
JAはだの(神奈川)組合長 宮永均氏
損得より道徳・経済一元
宮永 「縁」といったけど、「仲間が仲間をつくっている」ということがすごく大切だと思います。私どものJAは「レールは敷くけれども敷いたら後はご自分たちでどうぞ!」と言う。そこで関心のある人たちが仲間を広げていく。そんな小集団の活動、"島"をたくさんつくっていく。インフォーマルな関係づくりをということで、何度も同じことをやっています。小集団をたくさんつくり、だんだん点が線になっていくと、まだまだやることがある。
JAはだのは遊休農地を借り受け、農業以外の人たちにも100平方mごとに分割して使っていただく特定農地貸付事業にも取り組んでいます。協同組合をご理解いただき、貯金や共済を利用していただく。関心のある人たちが増えることで事業も伸びるのです!(笑)
鷲山 新自由主義のもとで資本主義的な関係が露骨になり、「人格的な関係」が数値主義になり金勘定になり、個別分断化の力が働いて一人ひとりがバラバラになっています。
協同組合の源流である尊徳の「五常講」は、商品流通でお金に困り始めた人たちの相互扶助から生まれました。お金の循環は信義がないとうまくいかないから「仁義礼智信」を基盤に「経済のない道徳は寝言だが、道徳のない経済は犯罪だ」という「道徳・経済一元論」になった。協同組合は「道徳」を表だって言わないけれども、それがないと普通の企業体と一緒になってしまいます。
大金 「五常講」の「仁義礼智信」は包括すると「徳」と考えられますか?
鷲山 「徳」とは何か。どのように形成されるのか。人生ドラマの"エキス"でしょうかね。一言では言えないにしても、「仁義礼智信」を実践していれば「徳」の体現者になる。
大金 そうすると、JAも「徳」の体現者であるべきだ、と?
大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏
鷲山 「あの人の能力は素晴らしい。でも一緒に仕事はしたくない!」(笑)と思われれば、その人には「徳」がないということになるでしょう。「徳」の問題は大きい。組織では理念が大切です。創立の理念は常に新鮮に現時点から魅力的にとらえ返さないといけない。そして実績を積んでいく。「徳」は結果ですからね。そうすれば自然にそこに人が集まってくる!
尊徳の教えと「永安」の道
大金 尊徳がこの時代に生きていたら何をしていますか?(笑)
宮永 恐らくは「富士講」のような仲間たちと一緒に地域に入って車座になり、報徳の教えを広めているんじゃないですか。「積小為大」で当時の門弟たちもよく動いていましたから!(笑)
猪野 「芋こじ」をしながら報徳の教えである「至誠」を学び「勤労」「分度」「推譲」を実践し、トップダウンでなく下から積み上げるような地域づくりや経済成長をめざしていたんじゃないかしら!(笑)。今こそJAがやるべきことかなと思いますし、尊徳さんなら間違いなくやっています!
「地域の芯」が農協の役割
鷲山 おっしゃる通りでしょう!(笑)。同時に「天地の経文を読む」こと、そして「至誠」と「実行」を尊徳は言っていますから、気候変動の因果関係を明らかにし、国際金融資本のメカニズムを探り、多国籍企業や軍産学融合体の問題を解明し、AIの可能性を読みつつ、歴史段階を明らかにして、何をなすべきか、提起していたと思いますね。自然・人間・社会の問題に常に根源から対峙していましたから!
それに経済法則を知り抜いていた人だから、真理を掴めば金もうけができるはずで、国際金融資本を手玉に取って大金持ちにもなっていたはずです!(笑)。『報徳訓』では「富貴」の大切さが謳われていますしね。
尊徳から学ぶべきは"科学的精神"だと思う。そして「誠」。「誠」は天の道であり、それを「誠」にするのが人の道だと説いています。尊徳の「誠」は"科学的精神"です。現実をとことん科学的に究めようとする眼差しが大切です。
宮永 そんなことに思いを馳せながら、私たちのJAは秦野市という地域で、一人でも多くの皆さんに協同組合のメンバーになっていただき、活動していただくことを願っています。
JAはが野(栃木)総代 猪野正子氏
猪野 地域になくてはならない協同組合とはどういうものかと考えると、農業者だけでなく生活者の目線、老若男女の地域の皆さんがフランクに集結できるような組織でありたいですね。営農・経済・信用・共済事業などを中心に地域住民をまとめる力が農業協同組合の「芯」になれば、人はそこにおのずから集まってきます。
鷲山 農業協同組合には「農的生活」の復権を掲げていただきたい。土に親しむ「野菜クラブ」の話をしましたが、参加した児童の一人が、家の庭でキュウリを作り始めました。文化はカルチャー、「耕す」から来ています。大地を耕し自然と対話し、天地の恵みを作物にする。農を営む人は「百姓」、土の知識から肥料・害虫・天候の知識、故障した機械の修理まで"百の姓"を持つ総合知の達人なのです。
環境意識の高まりで、便利さや効率、速さだけではないものが求められています。家庭菜園をつくり、地元の農産物を大切にして季節に応じた暮らしをする。オンラインの普及で「半農半X」の生活が可能になり、「農的生活」は都市と農村のそれぞれの良さを組み合わせたライフスタイルだと言える。
自然と調和する農の生き方は「里山文化」をもたらし、環境保全と資源循環で地域社会を支えてきました。大農経営化も必要な方向ですが、国連も言うように、地域は小規模の家族農業が守っています。
「農的生活」や「里山文化」には自然と人間と社会の「一円融合」をめざす「報徳」も絡む。尊徳がめざしたのは地域社会の持続可能な再生と発展であり、「心田開発」による新しい"人間復興"であり、報徳仕法は相互扶助の実践です。これは都市と農村、経済と倫理、自然と人間が共存する、新しい社会モデルを提示しています。尊徳はこうして地域社会の「永安」を創り出そうとしました。
大金 素敵な結論が出たところで、報徳の輪を広げたいですね!(笑)
【座談会を終えて】
格差と貧困、差別と分断が深刻化する現代だからこそ、幕末の疲弊した農村復興に挑んだ二宮尊徳が輝いて見える。尊徳は常に農民の立場から、商品経済に浸食されて内部崩壊を露呈し始めた幕藩体制と対峙している。その尊徳から協同組合としてのJAはいま何を学ぶべきか。
みやなが・ひとし 1958年神奈川県秦野市生まれ。早稲田大学人間科学部卒業。2009年JAはだの参事、15年専務理事、21年代表理事組合長就任、現在に至る。日本農業労災学会(副会長)、早稲田大学人間科学学術院人間科学会に所属。
いの・まさこ 1952年栃木県生まれ。1970年県立真岡農業高校(現真岡北稜高校)卒業。2011年JAはが野女性会会長、17年JA栃木女性会会長、06~09年JAはが野総代(女性枠)、10~16年同理事(女性枠)、21年~同総代(地区選出)、08~10年栃木県女性農業士会会長、19年~現在栃木県名誉農業士。24年大日本農会紫白綬有功章を女性で初めて受章。
わしやま・やすひこ 1943年静岡県生まれ。1970年東京大学修士課程人文科学研究科独語独文専修修了。東京学芸大学学長(2003年~10年)を経て東京学芸大学名誉教授。14年から大日本報徳社理事、18年第9代社長就任。祖父は嶺向報徳社の創設者で大日本報徳社副社長を務めた鷲山恭平氏、父は大日本報徳社副社長で報徳農学塾講師だった鷲山淑夫氏。
座談会は平易な語り口で身近な実践や話題から尊徳の思想に迫っている。人間味あふれる鷲山さんを挟んで実践家の宮永さんと猪野さんのキャッチボールが弾んでいる。限られた紙幅で三者の熱気がどれだけ伝えられたか。「『仁義礼智信』を実践すると『徳』になる!」と説く鷲山さんの指摘が深くて重い。(大金)
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