農政:GREEN×EXPOのキーパーソン
【GREEN×EXPOのキーパーソン】現実の儚さや美しさ、力強さを感じてほしい 秋田典子・千葉大教授2026年3月12日
2027年国際園芸博覧会関係者のインタビューシリーズ第4回は、千葉大学大学院園芸学研究院教授で、同博覧会の各種委員も務めている、秋田典子氏に聞いた。聞き手は元JA全農専務の加藤一郎氏。
秋田典子・千葉大大学院教授
農業、園芸、造園をつなげる
加藤 国際園芸博での役割と、これまでの取り組みについての印象をお願いします。
秋田 国交省が事務局の政府出展懇談会の委員と、農水省が事務局のAIPHコンペティション実施検討委員会の委員を務めています。花博の最大の特徴はコンペティションがあることで、出品を競うことが万博とは異なります。私はたまたま異なる省が事務局を務める委員会に参加する機会があったせいかもしれませんが、花博は全体像を把握することがとても難しいという印象があります。
こうした状況においては、民間の方々との連携がとても重要になってくると感じています。国際園芸博覧会協会には、これまで花や植物に接点が薄かった様々な企業の方々も参画されています。みなさま手探りで運営に尽力されていますが、協会の活動を通じて初めて園芸の魅力や奥深さに出会い、企業で働きながら花や緑、植物をより身近な存在として、知っていただく機会になっています。このこと自体が、社会的なムーブメントの醸成においても非常に大きな意味を持っていると感じています。
加藤 農業についてもアピールする必要があります。
秋田 農業と園芸は、同じようで異なる部分が難しいところですね。横浜で開催されるようなA1クラスの国際園芸博はAIPHの承認に加えて、BIEの認定を得なくてはならないルールがあります。AIPHは、International Association of Horticultural Producers、すなわちHorticulture(花き・園芸)が正式名称であり、Agriculture(農業)ではありません。
実は、私の所属している千葉大学の「園芸学部」の英語名称も「Department of Horticulture」ですが、もちろん花き・園芸だけではなく、様々な農業に関わる技術、仕組み等について研究している先生方も沢山いらっしゃいます。私自身は「造園(ランドスケープ)」と呼ばれる分野に所属していますが、これらの専門分野が全部「Department of Horticulture」に所属しています。
造園職と呼ばれるランドスケープや庭園分野の人たちも含めて、アグリカルチャー(農業)とホーティカルチャー(花き・園芸)とランドスケープ(造園)をどうつなげるか。そこが国際園芸博の難しさでもありますが、改めて考えてみると私の学部も同じ問題を抱えていますね。お互いにイノベーションが必要だと感じました。
とはいえ、私たちは何かを食べなければ生きて行くことができません。加えて、日々の生活の中で一番素朴な笑顔が見られる機会はおいしいものを食べたときだと思います。「おいしい」というストレートな感動や笑顔を届けることができるのが農業の力、魅力だと思っています。特に地域固有の食べ物には潜在的な力があります。タイパ、コスパでぎすぎすする社会の中で、笑顔を届けられるおいしい食べ物や美しい花の力がますます大きくなっています。
植物との一期一会
元JA全農専務の加藤一郎氏
加藤 日本で開催する意義は。
秋田 日本での開催は1990年の大阪花博(花の万博)以来ですが、2025年には大阪・関西万博がありました。園芸博が万博とどう違うのか、どのような意義、目的があるのかをしっかりアピールしなくてはいけないと思います。大阪・関西万博の出展の多くは映像でした。確かに各国の壮大な美しい映像には心打たれましたが、園芸博では本物の植物の姿を直接見ていただくことが一番重要だと考えています。植物は日々変化するので、まさに園芸博の会場では一期一会となります。全く同じ姿を再現することは不可能です。今日、あなたが見た風景は今日、今だけのもので、巻き戻しや早送りができない。現実の儚さや美しさ、力強さを感じていただくことが重要だと考えています。
加藤 過去の国際園芸博との違いは。
秋田 前回は2023年のドーハ(カタール)、その前が2022年のアルメーレ(オランダ)でした。アルメーレは埋立地にニュータウンを作るプロセスをプロデュースする、都市開発の側面が強く見えた印象がありました。ドーハは過酷な環境でどのように農業を行うかがテーマだったと思います。それに対して、今回の会場である瀬谷地区は、米軍の旧通信基地として戦後から約70年間、時が止まった、タイムカプセルのような場所です。「明日の風景」と言いながら、実際には「懐かしい昔の記憶」がそこにあるというパラドクスを含んでいます。
瀬谷地区には地形の起伏や小さな川の源流もあり、埋立地のような人工的に作った場所とは全く違う、土地が物語を持つ場所です。万博のように視覚を軸とする映像などで見せる「明日」と、時が止まった空間を「明日の風景」として実空間で見せる国際園芸博では、未来の意味が全く違うのではないでしょうか。来場者には、その違いも含めて楽しんで頂けると味わいも深くなると思います。
思い通りにいかないことに宿る価値
左が加藤一郎氏、右が秋田典子氏
加藤 東日本大震災後の「花と緑による復興支援」に取り組まれました。自然と人の共生というテーマについては。
秋田 震災のように、衣食住という、生きてゆく上で基本的なものが足りないときに花が必要なのだろうかと思ったのですが、現地で長期に渡りガーデンづくりの活動に取り組み、全くそうではなかったことに気づかされました。人が究極の厳しい状態に置かれたときほど、花や植物の生命力、無垢で咲いている存在の美しさが響くのだと思います。他者に語れないことがあっても、花は黙って美しく咲き、植物は日々すくすくと育つ、植物は「ありのままでいいよ」「誰かの承認を得られなくても素敵だよ」と言ってくれる存在なのです。
一方で、花や植物、農作物は人間の思い通りにはいきません。思い通りにいかないことも人生にはあると教えてくれる、私たちより命が短いけれど、長老のような、先生のような存在だと思います。植物はテーマパークの展示のように思い通りにいく夢の世界として描くことはできません。だけど、そんな、思い通りにいかないことに宿る価値も、国際園芸博で見ていただきたいなと思っています。
【インタビューを終えて】
千葉大学園芸学部では秋田教授をはじめ、彦坂昌子教授、竹内智子准教授がそれぞれのテーマで国際園芸博に関わっておられます。私は70年代の団塊世代でそこから見れば、女性が時代を変えていく印象を強く感じます。農業協同組合新聞のコラム「花屋が1店減ると花農家は4店減る」の現実をもう一度見直すことを含めて、今回の園芸博は時代節目のエポックメーキングになることを期待します。
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