農政:GREEN×EXPOのキーパーソン
【GREEN×EXPOのキーパーソン】いけばなの文化と産業の素晴らしさを伝える 華道家・大久保有加氏2026年3月5日
2027年国際園芸博覧会関係者のインタビューシリーズ第3回は、華道家の大久保有加(雅号:州村有加)氏。二つの団体で出展を予定している。聞き手は、2027年横浜国際園芸博覧会農&園藝チーフコーディネーターで千葉大学大学院客員教授・賀来宏和氏
華道家の大久保有加氏
日本は花の産業と文化がある数少ない国
賀来 大久保さんの現在のお仕事と、この世界に入られたきっかけを教えてください。
大久保 母方の家業が草月流のいけばなで、常に植物に囲まれる環境で育ちました。高校の卒業文集に「日本のいけばなと日本文化という美しいものを通して生きていきたい」と書いていて、それを読み返すことで、自分への答えを改めて教えてもらっています。
大学では流通とマーケティングを学び、卒業後は草月出版で契約社員として働きながら家業のいけばなを手伝っていました。いけばなに関する論文で賞をいただいたことがきっかけでフリーのライターになり、「花時間」などの花の雑誌やファッション誌でも記事を書いていました。
しかし、忙しすぎて体調を崩し、心身のバランスが取れていないと花も生けられないと感じ、30代で仕事を少しセーブし、いけばな文化を伝える活動へ軸足を移しました。ちょうどその頃、日本でIFEX(国際フラワーEXPO)が始まり、国内外のアーティスト選定や、日本と海外の花文化を紹介する企画、司会などにも関わるようになり、気がついたら主催者側の窓口のような立場になっていました。
賀来 主催者側に関わっていたのですね。
大久保 2012年にオランダで開催された世界最大級の園芸博覧会「フロリアード」では、日本国政府ブースの運営展示と調査のため長期実務・調査派遣者として、初めて華道枠として半年間通期で派遣されました。そこで、日本の花の産業と文化は世界に誇れるものだと強く感じ、日本の育種技術や栽培技術の素晴らしさも実感しました。帰国後、この経験を未来に繋げて共有するため、一般社団法人ジャパン・フラワー&コミュニケーションズを設立しました。
横浜での国際園芸博覧会は自国開催だからこそチャレンジできます。世界の園芸博はガーデン中心ですが、切り花を屋内で多角的に展開し展示できる国は日本以外にありません。花の産業と文化の両方を持つ国も多くない。国際園芸博だからこそできることがたくさんあります。
多様な人の作品を並べたい
千葉大学大学院客員教授・賀来宏和氏
賀来 横浜での国際園芸博にはどのような形で関わっているのですか。
大久保 二つの団体で屋内出展します。一つは6月に行う「フラワージャパン」プロジェクトです。2015年から「ビジネスリーダーたちのいけばな展」を主催し、経営者の方々に日本の花文化を体感していただき、守り伝えるために一緒に考える活動を開催してきました。花はどの業界ともコラボレーションでき、日本の美意識ともつながっています。
経営者の方々は好奇心が旺盛で、ご紹介のみで参加が広がりました。会場も銀座のポーラミュージアムから代官山ヒルサイドテラスへ移り、蔦屋書店とは本とのコラボレーションも行いました。花道具の産業とも連携できるよう「器と花」をテーマに、ハサミや剣山、工芸も紹介してきました。
国際園芸博では、経営者だけでなく子どもたちや御家元の作品など、プロもアマも関係なく、多様な人の作品が並ぶ展示にしたいと思っています。横浜市長や農水大臣、そして高市総理にも参加していただきたいですね。世代も国境も超えて花と人が創造する空間をつくりたいと思っています。
賀来 屋内展示場のうち10区画150㎡を9日間展示されるのですね。
大久保 「一花一葉」をテーマに、出展者が花を生けます。花を生けるという行為は、植物のエネルギーや時空間を感じ対話し、想いを込めます。同じ花でも組み合わせは何千種類もあり、それぞれにストーリーがあります。自国開催だからこそ伝えられる多様な花の表現が実現します。
花を一輪飾るだけで、植物や環境、地球に思いを巡らせることができます。忙しい日常でも、一輪の花で空間が変わり、気持ちがリフレッシュできる。これはすごい力だと思います。
日本茜で御家元の衣装を染める
賀来 二つの出展に関われているそうですが、もう一つの出展について教えてください。
大久保 7月の後半から、いけばなによる里山保全の取り組みと植物染色と植物顔料の可能性を探る展示を行います。草月流、日本茜伝承プロジェクト、そして私の社団との三社で、全22区画300㎡を使って共同出展します。総合監修は、草月流の勅使河原茜家元です。
日本茜は日本古来の植物で、退色しにくい希少な赤色を生み出しますが、現在は栽培農家がほとんどありません。京都の美山町で耕作放棄地対策と里山保全のために取り組む方々と出会い、草月流へお繋ぎしたところ、創流100周年のテーマの1つに「植物の成長」を取り入れたいという御家元の想いが重なり、本プロジェクトが実現しました。
美山に草月流が畑を持ち、2年かけて種まきから収穫、染色が行われ、御家元が着用する衣装プロジェクトが進行中で、国際園芸博でも披露予定です。植物を育てるところから文化をつくる試みで、農と文化を結び直す契機になればと尽力しています。
賀来 現在、いけばななどに使用される花材の生産についてはどのような課題がありますか。
大久保 山採りの花材や枝物の生産者が減っています。枝物の目利きと山を理解し山に入れるプロがいなくなると市場から良質な枝物が消え、いけばな文化も成立しなくなります。産業と文化のどちらかが失われても復活は難しい。
海外の活躍するフラワーアーティストはいけばなを学んでいる人も多いのですが、今こそ日本人自身が自国の植物の価値を十分に再認識する時だと思います。地域に合った植物を大切にすることは、食料自給率の問題とも同じだと思います。
植物との豊かな関わり方を次世代へ
賀来 いけばなを通じた里山保全という視点もありますね。
大久保 山の悲鳴である藤蔓(ふじづる)は、いけばなでは宝物の花材です。今は自然環境や農業と向き合う時代。枝物を扱ういけばなに携わる人こそ、環境の現状を伝えられると思います。国際園芸博では、園芸と文化、産業、環境を広い視野でつなげる展示ができます。デジタル発信によって世界中と共有することも可能です。
海外では、いけばなを通じて日本の美意識や自然観を伝えられます。花鋏(はなばさみ)一本で日本文化を伝えられるのも魅力です。一方で、花業界には産業と文化を社会へと橋渡しするディレクターやプロデューサー、ジャーナリストが育ちにくい。国際園芸博を通じて新しい担い手を育てることも重要だと思っています。
賀来 次世代へつなぐ取り組みも必要ですね。
大久保 公立小学校で30年近く花育の授業を続けています。切り花による教材は「いのちの授業」となり、植物に触れることで子どもたちは自分の感性に気づき、互いを認め合えるようになります。植物は心の栄養であり、才能を引き出す力があります。
国際園芸博を通じて、多くの人の心に何かの「植物スイッチ」が入る場にしたいと願っています。植物との豊かな関わり方を次世代へつなげていきたいですね。
【インタビューを終えて】
インタビューを終えて(左が賀来氏、右が大久保氏)
大久保さんのご活動や横浜でのご企画がよくわかるお話でした。華道は、今やわが国を代表する象徴的な文化として、世界から注目されていますが、フラワーアレンジなどの花の装飾作品の世界を含めて、実は日本の農業生産とも結びついており、その生産者がいなければ文化そのものが成り立たないことがよくわかりました。今回の国際園芸博を通じて、自然とともにある日本の文化を日本人自身が再確認するとともに、それを支える「農」に関心が高まり、行動に結びつくことを期待します。(賀来)
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