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農政:【異業種から見た農業・地域の課題】

【異業種から見た農業・地域の課題】担い手が将来展望を描けること 金融×人材×資源で強靭な地域に 一消費者の視点から 元大蔵省・藤塚明氏に聞く2025年12月3日

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これまで農業や農協と直接的な関わりのない業界の方々に、この分野への印象や課題意識を聞くインタビューシリーズ。今回は大蔵省(現財務省)で主に金融行政に従事し、東北や関東信越の国税局長なども務めた藤塚明氏。長く金融行政や税務に携わってきた経験、また、一消費者として、日本の農業、地域経済に関する意見を聞いた。聞き手は千葉大学客員教授で元JA全農専務の加藤一郎氏。

藤塚明氏藤塚明氏

農地は輸入できない

加藤 藤塚氏とは1978年、静岡県富士宮市の「貿易研修センター」(1967年に「貿易研修センター法」に基づく官民出資の法人として設立)で同室となったことから始まりました。後に三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)の代表取締役頭取になった平野信行氏も同室でした。その縁で、藤塚氏の結婚式の司会を務めたこともあり、旧友として半世紀にわたり交流を続けています。まず、農業のイメージをお聞かせください。

藤塚 縮む農業の現在地に危機感を持ちました。農業のGDPは9兆円弱、全体の1.5%程度。農地も430万haに減少し、自給率は40%弱。逆算すれば、日本人の食料のため海外で1000万ha以上の農地を「借りている」ような状況です。しかも、その農地は輸入も管理もできません。異常気象や紛争、自国ファーストなど、いつ食料輸入が途絶し、手遅れの事態になるか分かりません。

加藤 特に中山間地は農業従事者の減少で危機的です。

藤塚 中山間の農地は、生産基盤のほか、水資源の涵養、洪水や土砂崩れの防止など国土保全の機能を持ち、GDPでは測れない価値があります。日本の国土は狭隘で急峻です。中山間の農地のメンテナンスをはじめ、貴重な生産資源である農地を最大限に活用し、「危機対応力」「安定供給力」「復元力」を備えた農業を期待します。また、「地産地消」はもちろん、「国産国消」、そして「国産国消・外消」にまで日本の食と農業が競争力を持てば、究極の食料安全保障になります。

「利益」は未来をつくる原資

加藤 担い手不足も深刻です。

藤塚 まず、「農業に入りやすい」「農地が利用しやすい」こと。その上で、農業に「意欲が湧き」「安定収入が見込め」、そして何より「将来展望が描ける」ことです。将来の夢を実現するためには「利益」が必要です。「利」は穀物と刃を表し、収穫を意味します。「益」は役立つこと。つまり「利益」とは「収穫で社会に役立つこと」。原資である利益があるから次の投資ができ、夢や将来につながり、一流の農業を目指す意欲が湧きます。

加藤 そうした環境下で起こった「令和のコメ騒動」はどう見ますか。

藤塚 1年で米価が倍以上になる現状は異様です。米は生産面の調整が難しい一方、流通は自由化。限られたパイの奪い合いで価格が高騰しやすい。「市場で決まる価格は適正」と言いますが、納得感がない。「需要に見合う供給の確保」ではなく、「需要を充たす供給の確保」が消費者の願いです。大事な中山間地をはじめ採算性・生産性の高い農業に向け、また消費者が購入しやすい米価の安定が図られるよう、適切な制度設計を期待します。

地域内で資金を循環させる

加藤一郎氏加藤一郎氏

加藤 地域経済にも課題があります。

藤塚 地域経済の核心は、働く場があるかどうか。雇用増により定住・交流・関係人口が増え、コミュニティが生まれます。雇用創造には、お金と人(知恵)、そして地域資源の活用が重要です。実は地域には資金が潤沢にあります。北海道を見ると、国からの移転収支の黒字で大きな資金余剰が生まれていますが、その多くが債券運用などで道外に流出し、地域内で資金がうまく循環していません。地域の金融機関には、お金や優秀な人材が集まり、支店ネットワークもあります。食・農業はもちろん、地元企業や新規事業の育成など、地域へのより強いコミットを期待します。

加藤 そうした地域資源の活用の事例は。

藤塚 奈良県吉野の川上村にある「ホテル杉の湯」は好例です。消滅可能性の高い自治体として話題になった村の村営ホテルが赤字で「村のお荷物」でした。そこに地元地銀の元支店長が支配人として入り、3年で経営を安定させ、従業員も増えました。コストの見直しとともに、必要なリニューアル、地元食材の活用、自治体の枠を超えた観光情報など地域資源の発信によりリピーターが増え、今やホテルは「村の誇り」です。金融・人材・地域資源の力を掛け合わせれば、地域固有の価値が大きく花開くと実感しました。長い時間をかけて育まれた地域の個性は宝です。それを発掘し、磨き、発信し、そこに地域金融機関のサポートが加われば、地道ですが確かな地域創生が進むと思います。

幅広い概念を持つ「園芸」

加藤 最後に、初の首都圏開催となる2027年の国際園芸博覧会を成功させたい。

藤塚 「園芸」は農業まで含む広い概念だと、今回改めて気付かされました。「園」は人が集まり楽しむ場、「芸」は修練した技能。つまり「園芸」とは、人々が芸を持って集まり、自己実現を楽しむ営みです。「農業」はその極み。「田園」、実にいい響きですね。人々が助け合い、その豊かな実りを楽しむ光景が広がります。

加藤 本日はありがとうございました。

【略歴】
藤塚明(ふじつか・あきら) 1953年生まれ。1976年に東京大学法学部を卒業し大蔵省(現財務省)入省。銀行局、証券局など主に金融行政に従事し、公正取引委員会や外務省、内閣府などにも出向。2002~05年に仙台国税局長、関東信越国税局長を務めた。最近は週末、散歩を兼ねてスーパーをはしご。コスパの良い買い物ができたと自負するが、妻からは「無駄が多い」と都度、怒られているという。

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