JAの活動:農協時論
童門氏の「恕」 混迷時こそ必要 "協同のリレー" JCA客員研究員・伊藤澄一氏2025年12月3日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様などに胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回はJCA客員研究員の伊藤澄一氏に寄稿してもらった。
JCA客員研究員・伊藤澄一氏
今年1月13日。朝のNHKニュースは、童門冬二さん(96歳)の訃報を伝えた。前年1月13日に病気で亡くなり、ご本人の遺志で1年後の公表となった。童門さんは、1999年の当初から全中の『JA経営マスターコース』(1年)の塾長として四半世紀にわたって尽力された。コースの開講・修了など節目の講話が好評で、私は担当常務として3年ご一緒した。
童門さんは、孔子の説く「恕(じょ)」の精神を骨格とする近代武人などの生き方を描く人気作家。その時々の協同組合のテーマを、歴史上の人物論を交えて静かな口調で説いた。なかでも、2012年9月の講話が印象に残っている。前年3月11日に発生した東日本大震災の被災地に寄り添う次の話であり、ご自身の戦争体験も交えたお気持ちが吐露されている。
◇
85歳になろうとする今の私は、燃え尽きた蠟燭(ろうそく)の芯のようなものだ。火は消えて煙が立っている。東日本大震災以後、腑抜けになってしまった。何も手につかない。そんな私を奮い立たせたのは、福島の避難所の「元ガキ大将」だった。中学生の彼は失意した大人たちのなかで、人々のために水や食料を運び、幼い子の世話をして避難所でやれることを黙々と続ける。その姿を報道で見た。激しく心が動かされた。
かつての軍国少年。特攻隊員で生き残った私は、敗戦によって挫折した。教師たちに誉れと言われて戦場へ行き、帰還すると人々や戦死した子の母親らの厳しい視線を感じた。国民教化の象徴だった二宮金次郎の銅像は引き倒された。私はぐれてアウトローになった。あるとき、神田の古本屋で内村鑑三の『代表的日本人』を見つけた。西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮の5人の話だ。
二宮尊徳の報徳仕法は、分度(計画を立てて収入と支出をはかる)、勤労(無駄をなくしよく働いて余剰を出す)、推譲(余剰分を皆のために進んで差し出す)のこと。これにより、修身⇨斉家⇨治国⇨平天下、つまり我が身を修め、我が家を整え、藩を治めて、国を平らかにすることを説く。恒産なくして恒心なしというが、精神主義だけではダメだ。人を動かす条件や環境の整備も必要だ。尊徳は栃木県にある小田原藩桜町領で報徳仕法をつくりあげた。領内の生産量4000石は実は2000石しかない。人々は無気力だった。過去のデータから2000石が限度であることを明らかにして、粘り強く領主側と農民を説得して合意した。すぐにうまくいったのではない。
今に例えれば、組合員のニーズといっても絶対にやるべきこと、やった方がいいこと、やるべきではないこと、絶対にやってはいけないことに分けられ、これらの判断のもとになるのが、「恕」の精神だ。相手の立場への「思いやりの心」だ。孔子の弟子が、「一言で先生の教えを守るとすれば、それは何ですか」と問うたときに、孔子は「恕」と答えた。すべての判断の元になるのが「恕」だ。孟子は「恕」を「忍びざるの心」だとした。他者の苦しむ姿を見過ごさない心だ。これからの日本は被災地復興が最優先だ。阪神・淡路大震災と比べても復興の熱意が足りない。地震・火災と津波・原発事故のあまりの惨さがある。それでも、被災地の農地の再興にJAが取り組んでほしい。私も避難所の少年のようにまだ残っている蝋燭の芯に少しの火をともして生きてみたい。
◇
戦後80年の節目の今年。衆・参両院の選挙を巡る政争や自民党の混乱が、国民各層の分断と対立を激化させた。石破茂首相は敗戦に至る歴史認識を「戦後80年所感」で表明して辞任。高市早苗首相の「台湾有事」の発言は、日中関係の亀裂を深めてしまった。令和の米騒動は手詰まりの農業政策を露呈して終息せず、東日本でのクマ災禍は地方創生とは真逆の様で地域社会を震撼させている。
童門塾長は戦争で青春を失った若者たちの無念の思いを代弁し、「恕」の話では、混迷する日本社会で協同組合運動が果たすべき役割をメッセージしている。私はそれらを「精神のリレー」として受けとりたいと思う。
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