平和的国防産業の寿命【小松泰信・地方の眼力】2025年12月3日
農業経営体の減少が続く中、法人経営体は5年前に比べ7.9%の増加。1経営体当たりの経営耕地面積は3.7haとなり、0.6haの増加。また、経営耕地面積20ha以上の農業経営体の面積シェアが、初めて5割を超えるなど、規模拡大が進展。

農政版大本営発表が教える不都合な真実
冒頭で紹介したのは、農林水産省大臣官房統計部2025年11月28日公表「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」(2025年2月1日現在)のリード文。法人経営体が増え、経営耕地面積も増え、大規模経営体が5割を超える、農林水産省が目指す望ましい構造改革が徐々に進んでいる、そんな印象を与えたいようだ。
ニッポンの農業はWowWowWowWow♬、セカイがうらやむYeahYeahYeahYeah♬と踊りたくなる農政版大本営発表。
しかし本文に目を通すと、農業の将来への不安が募ってくる。リード文には記されていない、不安材料は次の3項目。
(1)農業経営体は82万8000経営体。2020年から23.0%減少し、初めて100万を割った。うち、個人経営体(個人(世帯)で事業を行う)は78万9000経営体となり、同年比23.9%減少。団体経営体(個人経営体に該当しない者)は3万9000経営体となり、同年比2.9%増加。団体経営体のうち法人経営体は3万3000経営体。
(2)販売目的での水稲作付農業経営体数は53万3000経営体で、同年比25.3%減少。なお同年比で15ha未満の各層が減少し、15ha以上層は増加した。
(3)農業経営体のうち個人経営体の基幹的農業従事者(自営農業を主な仕事としている世帯員)は102万1000人で、同年比25.1%減少。
以上より、農業生産に携わる人も経営体も激減している。2015年から25年の10年間に毎年5万4900経営体ずつ減少している。もちろんあり得ないことだが、直線的にこのペースでいけば、15年先にはほぼゼロとなる。
水稲経営もしかり。2015年に95万2000経営体であったから、この10年間に毎年4万1900経営体ずつ減少している。このペースでいけば、12年先にはほぼゼロとなる。
そして基幹的農業従事者を見ると、2015年に175万7000人であったから、この10年間に毎年7万3600人ずつ減少している。このペースでいけば、13年先にはほぼゼロとなる。
要するに、それくらい危機的状況にあることを、このセンサス結果は教えている。だとすれば、冒頭の能天気なリード文は書けないはず。もし深い意味を含んでいるとすれば、暗に「農転機」の必要性を教えているのだろうか。まぁ、そんな知恵者はいない。
離農と向き合う正念場
もちろん農水省の発表資料を見て浮かれている社説はない。
日本農業新聞(12月2日付)の論説は、農業経営体が初めて100万を割ったことを憂慮し、「農業者は、この国の食料安全保障を担う重要な存在だ。規模拡大を上回るペースで農業者が減っている現実を、政府は重く受け止めるべきだ」と訴える。
法人をはじめとする「団体経営体」が増えたことや、1経営体当たりの規模拡大が進んだとしても、「多様な経営体がなければ地域は成り立たない。中山間地域などの農地や水路を維持することもできない」と畳みかけ、「政府の進める農地の集約だけで、農業者を確保するのは難しい」ことから、「農地集約と経営安定の両面から農業者を確保する必要がある」と提言する。
高知新聞(12月2日付)の社説は、「農業を取り巻く環境の厳しさを見せつけるようだ。離農を食い止めなければ地域社会の維持に関わり、食料安全保障を揺るがせる。状況を真剣に受け止め、実効性のある対策を急ぐ必要がある」から始まる。
65歳以上の構成割合が7割に迫り、70歳代が4割弱を占め、最も多いことから、「若者の新規就農がなければさらなる減少は避けられそうにない」と危機意識を隠さない。また、農家の減少は供給力の低下に直結し、品不足や価格高騰を招き、消費低迷から所得確保の困難さが強まり、離農圧力となる。その悪循環を恐れるとともに、食料自給率の改善困難な状況を憂慮している。
最後に、「不安定な農政は信頼を揺るがせる」として、「5年間で農業構造転換を集中的に推進する」と宣明する政府に「離農と向き合う正念場だ」と厳しく迫っている。
愛媛新聞(12月2日付)の社説は、20ha以上の大規模経営体のシェアが初めて5割を超えたことを、「農地中間管理機構(農地バンク)などによる集約化の取り組みが成果を上げてきた」と評価した上で、「農地や水路の維持管理は地域の共同作業で成立している側面が強い」ことを指摘し、「集約化の一方でコミュニティーが消失すれば、地域全体の農業が立ちゆかなくなる可能性もある。定住促進などの過疎化対策が同時に求められるのは言うまでもない」とクギを刺す。
聞け!農業者の切実な声を!
日本農業新聞(11月20日付)の同紙農政モニター調査概要(農業者を中心とした同紙農政モニター1030人を対象に行い、715人が回答)が、「能天気」な農水省に対して、「農転機」の必要性を伝えている。注目した調査結果は次の4項目。
(1)コスト上昇の農業経営への影響は、「大きな影響がある」58.7%、「やや影響がある」26.3%、「影響はない」3.1%、「分からない」9.8%。85.0%が「影響」を受けている。
(2)農畜産物の価格は「再生産価格」の水準に届いているかについては、「全く届いていない」39.7%、「やや届いていない」29.5%、「やや届いている」18.0%、「十分届いている」3.4%、「分からない」8.8%。大別すれば、「届いていない」69.2%、「届いている」21.4%。
(3)米政策で政府が最も力を入れるべき政策(選択肢13)の上位5項目は、「所得補償の新設」23.8%、「需給見通しの精度向上」20.8%、「価格保障の新設」13.7%、「中山間地域支払いの拡充」9.4%、「水田集約の支援」6.3%。
(4)農業予算の規模は、「大幅に増やすべきだ」60.7%、「やや増やすべきだ」30.6%、「現状のままで良い」6.3%、「やや減らすべきだ」0.6%、「大幅に減らすべきだ」0.1%。大別すれば、9割が「増やすべき」としている。
投資すべきはここだ
他産業同様、高コストの影響を受けている。しかし、再生産価格は保障されていない。こんな産業や仕事に、人が集まる訳がない。市場メカニズムに依存したらそうなるよね、鈴木大臣。そして、所得補償は価格介入ではないよね。米は米でもアメリカに80兆円投資する気があるなら、農業に投資しろ。あと10年ほどしか持たないんですけど、この国の平和的国防産業は。
「地方の眼力」なめんなよ
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