【浅野純次・読書の楽しみ】第118回2026年2月17日
◎佐野雅昭『日本漁業の不都合な真実』(新潮新書、990円)
食料問題とか食料安保というとすぐ農産品を思い浮かべますが、本書はタンパク質の宝庫である魚介類も劣らず重要であると強調します。しかし、世界の魚消費は急増しているのに、日本は逆に減少傾向にあり、日本の漁業は厳しい事態に追い込まれています。
資源減少と乱獲で日本近海では魚が捕れなくなっている、加えて中台韓の大型漁船が日本の領海近辺へ大挙押し寄せて事態は一層悪化しており、日本漁業の未来は暗い、何より漁業者の高齢化は深刻らしい、というのが日本の常識でしょう。著者はこれらを一つ一つ事実によって明らかにしていきます。
ではどう対処すべきか。著者はさまざまな提案をしていますが、最も大事なのは国の支援です。海は、宇沢弘文氏のコモンの思想がまさに該当する分野で大事な社会的共通資本であるとして、国が漁業者に直接支払いして支援することを提案します。農業者への直接支払いと両輪のようにして食の安全保障を守り抜くことだと。ほんとにそのとおりです。
安倍政権時の新自由主義的な漁業政策が批判されるのも、その後の惨状を見れば至極もっともな話です。農業者と漁業者は協力し合って日本の食を確実なものにすることを目ざすべきなのでしょう。
◎高梨ゆき子『「もう一度歩ける」に挑む』(講談社、1980円)
脊髄損傷の患者と医師をめぐる貴重なドキュメンタリーです。交通事故、自転車、ラグビー、トランポリンなどでの深刻な事故例が登場します。
救急車に収容されるのは簡単でも受け入れ病院が見つからないのが大半で、ようやく受け入れられても「しばらく様子を見ましょう」ということで放置され、結果、生涯寝たきりなどというケースが多いのだとか。
本書の中心人物である埼玉医大総合医療センターの井口浩一医師と同僚たちは、脊椎損傷の手術は早く取り掛かるほど歩けるほどに回復する可能性が高いという知見を得て、抵抗勢力などの壁を打ち破るために努力を重ねて成功をつかみ取ります。医師や患者の心の奥深くまで迫っていく筆致は鮮やかです。
井口医師たちは患者搬入の報を聞くと非番でも駆けつけて手術にかかります。これほどの使命感はどうやって生まれるのか。歩けるようになって喜ぶ患者と医師とともに温かい気持ちになり、医の世界の深さを知ることができました。
◎山口二郎『現代ファシズム論』(朝日新書、990円)
ファシズムって日独伊枢軸の頃の昔のことと思う人がいたら認識を改めたほうがいいかもしれません。著者は、2010年以後の民主主義の世界的混乱、少数者への差別や抑圧をみれば、ファシズムの入り口は近いと断言しています。
政治経済からみると新自由主義と格差拡大、収奪的資本主義の出現、金権支配の跋扈などがあり、日本では安倍政治から昨今の右派ポピュリズムの台頭までがシンボリックな流れとして指摘されます。
ファシズムといっても時代背景に即して多少ソフトな形態をとることも多く、それをフェイクファシズムと呼ぶ人もいます。トランプ政権のさまざまな強権政治もファシズムの一種と言えるのかもしれません。
最後に本書はどうファシズムに対抗していくかということで、「わかりやすさの罠」「共同体や市民のあり方」に言及しています。排外主義の高まりからは著者の危機感がひしひしと伝わってきます。
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