高知のナスでは99% 「天敵」利用の防除に広がり 背景に害虫の「薬剤抵抗性」2025年12月1日
天敵を使った防除が広がりをみせている。天敵導入率No1の高知県の取り組みや研究開発の課題を共有するパネルディスカッションが11月28日、都内で開かれた。高知県での天敵利用は慣行農業にも広がっており、背景には害虫の「薬剤抵抗性」の問題がある。
天敵を使った防除の最前線の取り組みが話し合われたパネルディスカッション(11月28日、東京ビッグサイト)
主催したのは農水省みどり技術ネットワーク全国会議。ディスカッションはアグリビジネス創出フェアのセミナーとして持たれ、京都大学大学院の日本典秀教授がファシリテーターを務めた。
天敵と農薬使い分け
天敵導入のきっかけについて尾原農園の尾原由章氏(高知県安芸市、生産品目はピーマン)は「高知県は冬温かく害虫が越冬する。安全安心な食物を作るのは大前提だが、使わないと長期栽培が成り立たないのが導入のきっかけだ」と話した。

タバココナジラミ(下)を捕食する天敵(高知県農業情報サイト「こうち農業ネット」から)
導入が本格化したのはコナジラミが県内に蔓延したのがきっかけ。それで天敵のタバコカスミカメやクロヒョウタンカスミカメがそのへんにいると「発見」し、採取して増やしながら害虫と闘ってきた。「害虫に薬剤抵抗性がついてきた」ことも、天敵利用を後押しした。
「長期の栽培になると『農薬だけ』というのはかなり不可能になった。『天敵だけ』も不可能に近いが(天敵と化学農薬とを)上手に使い分けたい」と尾原さんは話した。
「1に我慢」から「1に観察」へ
尾原さんたちに天敵導入を指導してきた高知IoPプラス技術アドバイザーの岡林俊宏氏は「本気でやれば必ず成功できるが、尾原さんほどやってる人でも『今年は失敗』ということがある」と難しさにふれた。
岡林氏も昔は「被害が出るくらい害虫密度が上がらないと天敵が増えない。だから天敵で防除すると(多少は)被害が出て当たり前」と思っていた。その「常識」が一変したのがオランダ視察の経験だった。オランダでは、被害を出している農家は1軒もなかった。
「オランダで成功の形を見て、では高知ではどうしたらいいか考えた。『1に我慢、2に我慢』は大間違いで、『1に観察、2に早めの対処』だ」(岡林氏)
静岡県農林技術研究所の中野亮平上席研究員は「実装可能な防除体系を確立するため、出口、生産現場の課題把握が重要だ。現場対応ではJAなど関係機関、農家と綿密に連携しなければならない。特に生産者との対話を重視し、夜中まで電話で話し込むこともある」。果樹で天敵を利用する「W天敵防除体系」作りに携わった農研機構植物防疫研究部門の外山昌敏上席研究員は「天敵は楽しい。天敵も生き物なので理解し、働きやすい環境づくりを」と語った(「W天敵防除体系」とは土着天敵と天敵製剤とを主体とし殺ダニ剤への依存を減らした新しい果樹ハダニ防除体系の概念である)。
天敵製剤の課題、土着天敵の活用
天敵を販売するアグリ総研の手塚俊行社長は「やはり農薬との併用が大事なので、自社の天敵に対してどういう農薬は使えるかを情報として生産者にお渡ししている」。天敵製剤の価格の高さについては「天敵は、使う時期は限られているがピークが見込みにくく、一定数を通年飼育しなければならないため半分ほど捨てている。予約などで飼育した数がすべて農家に渡るようにできればかなり安くできる」と課題にふれた。
カゴメでは、ジュース(加工)用トマトを栽培する契約農家に天敵導入を進めている。加工用で価格を上げられないため、頼みは「土着天敵」だ。カゴメコーポレート企画本部能力開発・戦略企画本部の綿田圭一氏は「トマト畑の脇にトマトシーズンに咲く花を植え、順番に咲いていく。そこで天敵が生き残り害虫を食べる。畝間にポリマルチを敷かず、大麦をまいて生えると天敵の住処になる。天敵を使えばトータルでコストダウンになると示すと、農家も納得しいろいろアイデアをくれる」と説明した。
生態系活用、地域あげて
岡林氏は「害虫だけでなく病気のことも考えないと、害虫は収まったけど病気だらけ、ということもある。栽培技術が基本にあって、そこに害虫と病気の管理をどう組み込むかだ」とし「高知の強みはみんなで頑張っているので、農家さん同士で話ができること。生態系という面でも、地域全体で連携して取り組むことが大事だ」と地域あげた取り組みの意義を力説した。
各地域で活用されているみどり技術を紹介するフラッシュトークの中で、高知県環境農業推進課の担当者が「どの産地でもコナジラミとアザミウマでお困りと思う。高知県でもこれらの害虫に対し天敵が利用されている。主にスワルスキーカブリダニは購入し、タバコカスミカメは野外にいるものを採取、増殖しハウスに導入している。ナスとピーマンではほぼすべてのハウスで天敵が利用されている」と報告した。同県では環境保全型農業を推進し、ナス類の99%、ピーマン・シシトウ類の97%で天敵が導入されているという。
最後に農水省大臣官房政策課の阿部尚人技術政策室長が、「新しい技術の導入では情報共有が重要だ。現場、研究、行政が連携し、研究から普及指導まで取り組んでいきたい」と締め括った。
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