米の安定供給どう支える? 直接支払めぐり論戦 共助の「基金」提案も2025年12月3日
2027年(令和9年)からの水田政策見直しを前に、米農家の所得安定策をめぐって国会での議論が本格化している。鈴木憲和農相は食料システム法にもとづく「合理的価格形成」を重視し所得補償に慎重姿勢を崩していないが、中山間地や多様な農業者の役割とも関わって野党からは直接支払拡充を求める質問が相次ぎ、「米安定基金」創設も提案された。
水田政策見直しに向け現場の声を聴きたいと話す鈴木憲和農相(11月20日、参議院予算委員会)
「市場任せに限界」VS「価格は市場で」
11月20日に開かれた参議院農水委員会では米農家の所得をどう支えていくかについて重要な質疑が交わされた。
米価を市場任せにすることの限界を指摘する石垣のりこ参議院議員(立憲民主党)
石垣のりこ議員(立憲)は、生産者にとっての再生産可能な価格と、消費者にとっての買いやすい価格とが乖離、矛盾していると指摘。「所信で(鈴木)大臣が言われた『先の見通せる農政』を確立していくためにも、立憲民主党としては所得補償制度、食農支払という制度を提言している。食料安保の基本は農業であり農家であるという観点から、すべて市場に任せるということの難しさというか限界がある」と農相の見解を質した。
鈴木農相は「米に限らず物の価格は需給バランスを踏まえて市場の中で決まっていくものであり、価格は市場に任せるものと考えている。ただ、米の安定供給のためには生産者の再生産が可能であり消費者も安心して購入できる価格であることも同時に必要だ」とした上で、6月に成立した食料システム法を受け、米の合理的費用を考慮した価格形成に向け生産、卸売、小売の関係者からなる米のコスト指標作成のための準備会合を設置した経緯にふれて、こう続けた。
「コスト指標については、生産から販売に至る各段階でどれだけのコストがかかっているのかを明確にし関係者の理解の下でコスト割れでの供給を抑制しようとするものである。まずはこのコスト指標の作成に向けた検討が着実に進むよう後押しする。また大幅な農産物価格の下落等に伴い農業収入が減少した場合には収入保険やナラシ対策を現行制度の下でも措置をしている。令和9年度以降の水田政策見直しにあたって、よく現場の話もうかがいながら、農業経営の安定のための施策の充実をしっかり検討していきたい」
この答弁は、農水省の現時点での基本スタンスを示すもので「コスト指標」作りは重要だ。ただ、スポット価格が下落を始める中、産地や取引関係者は不安が拭えない。
大臣所信「稼ぐ農業」に込めた思い
多様な農業者が営農でも重要と説く舟山康江参議院議員(国民民主党)
舟山康江議員(国民)は、農政では産業政策と地域政策とが大切と確認した上、鈴木農相が所信で「農業で稼ぐ」と力説した点を取り上げ、「稼ぐ」の意味を問うた。鈴木農相はこう答えた。
「国民への安定供給など農業の役割が果たされるためには、まずは農業者が収益力を高めることで農業経営の安定性、継続性が確保され産業としての農業の発展に結びつけていくことが重要だ。加えて農村において農業者による営農活動が行われることにより、結果として多面的機能という農業の役割が果たされるとの地域政策の観点も重要と認識している。このため中山間など条件不利地域では農業で稼ぐための施策だけではなく、中山間地域等直接支払交付金など農業を広い意味で支えるための施策も具体的に講じることで、営農し稼ぎ暮らしていける農政を展開していきたい」
鈴木農相は、ここで答弁メモから顔をあげ、「今のは役所が作った答弁だが、私が『稼ぐ』ということをなぜ強調しているかというと、たとえば私の地元の若者に、東京に出るのではなく地元に残って農林水産業に携わろうと思ってもらうには、他産業と比べても遜色ない稼ぎがないと第一歩目が始まらない。それと地域に対する貢献も含め、それがイコール幸せなんだという価値観をしっかり作れるように努力をさせていただきたい」と自身の思いを付け加えた。
「直接支払制度の設計」検討状況は
舟山議員は、中山間地に限らず農地が「価格に載らない役割」を果たした時、この役割をどう評価するかという観点の施策も必要だと指摘した後、3月25日、参議院農水委員会で、基本計画の閣議決定に先駆けて全会一致で挙げた決議に言及し、質問した。
「決議の中で『農地維持のための支援策』として『直接支払制度の設計』を求めている。これに対する検討状況と今後の取り組み方針は」
鈴木農相はまず、2027年度からの水田政策見直しの中で既存の日本型直接支払制度をどうしていくかの方向感を説明した。
(1)中山間地域等直接支払交付金「条件不利の実態に配慮し支援を拡大する」
(2)多面的機能支払交付金「活動組織の態勢を強化する」
(3)環境保全型農業直接支払交付金「導入リスク等に応じた仕組みとすることに取り組んでいく」
3月の農水委決議では「農地の維持のための支援策を講ずることによってもたらされる効果、他国における同様の制度の実施状況を十分考慮し、納税者の理解を図りつつ、直接支払制度の設計を行うこと」とされていると言及し、「こうしたことも踏まえ、現場の実態を調査研究している。令和8年(2026年)6月までに検討を進める」と答えた。
担い手以外の多様な農業者の役割
舟山議員は、「担い手」(認定農業者)だけでなく「多様な農業者」が「農地保全だけでなく営農活動でも大きな役割がある」と指摘した。
鈴木農相は「大変大切なご指摘だ。担い手以外の多様な農業者が農地保全だけでなく営農の面でも重要な役割を果たしているというのは、まったくその通りだと思う。そういうみなさんの話を農水省はもう少し積極的に聞かなければならない。担い手が一番重要だが、担い手だけでは地域全体を支えるのは難しい。当事者のお話をよく聴きながら、何ができるか検討していきたい」と述べた。
所得補償の制度設計をめぐっては、補償の対象をどこまで広げるかが論点の一つだ。水利や畦畔、農道の維持も含め担い手だけでは地域を支えきれず、多様な農業者が営農を続けられることの重要性が確認されたことは「補償の範囲」を考える上でも示唆的だ。
米安定基金(仮)の提唱
「米安定基金」(仮称)を提案した高橋光男議員(公明党)
高橋光男議員(公明)は「米の持続的供給を食料システム全体で支え合う『共助』の視点が必要ではないか」と切り出し、生産者と消費者の双方を必要に応じて支える「米安定基金」(仮称)を提案した。
生産者、流通、小売、消費者が少しずつ負担し、米市場規模(約5兆円)の1%程度を積み立てる。「この積み立てができれば、市場価格が生産費を下回った場合、たとえば(スーパーなどでの精米小売価格が)5kg3000円以下になったら農家を補てんする。逆に価格が高くなった場合、たとえば5kg4000円以上になれば低所得者に対しお米クーポンなどで還元する」と米安定基金の概要を説明し、「たとえば3000円台といった適切な価格の幅は、今後コスト指標によって根拠が得られる。こうした仕組みができれば中長期的に安定財源を確保し、必要な支援を届けることができる」と述べた。
鈴木農相は「米安定基金は、今回初めて資料も拝見した。(高市政権がめざす)税で重点支援交付金を出すのと考え方は似ているのかなと思う」と感想を述べ、「いろいろなセーフティネット、安定のためのアイデアがありうるということは私も理解するが、運用によっては『価格が下がってもいいんじゃないか』という仕組みになってしまう可能性もある」と価格政策と所得政策とのバランスに関わる論点を示し、「そういう点にも留意して議論していく必要があると思う」と今後につないだ。
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