病院経営の改善に求められる課題は? 「医療の質と生産性向上」セミナー 日本文化厚生連2025年12月3日
日本文化厚生農業協同組合連合会(日本文化厚生連)は11月28日、「第26回 厚生連医療経営を考える研究会・Kカレッジオンラインセミナー」を開催した。「医療の質と生産性向上の鍵」をテーマに、医療DX、原価計算、2026年度診療報酬改定の三講義とディスカッションを通じ、病院経営の課題と方向性を多角的に議論した。
左から、高瀬氏、小林氏、森實氏
国は2040年を見据え、地域ごとに急性期・回復期・慢性期の必要医療量を示す「地域医療構想」を本格化している。2026年度改定も、急性期偏重から高齢者中心の"治し支える医療"へ比重を移す転換点を迎え、物価高と人件費高騰が医療経営を圧迫している。研究会では、DX・原価・政策の三側面から持続可能な病院経営に必要な視点を整理した。
医療DX、原価計算、診療報酬の改定を講義
第1講義では、山梨大学大学院総合研究部医学域・山梨大学医学部附属病院・特任教授の小林美亜氏が「医療DXで現場が変わる~質の保証と効率性の向上」を講義した。
小林氏は、医療DXは単なる電子化ではなく「仕事の進め方を根本から変える改革」と強調した。少子高齢化で医療需要が複雑化する一方、生成AIは記録作成に有効な半面、もっともらしい虚偽を生む"ハルシネーション"が避けられず、出力の裏付けを医療者が確認する必要があると述べた。個人情報保護のための契約や閉域網の活用などセキュリティ対策も不可欠で、導入効果を得るには課題の明確化、小規模導入、ECRS(統合・簡素化など)による業務改善が鍵とまとめた。
第2講義では、東京科学大学名誉教授(文化連特任指導職)の高瀬浩造氏が「医療機関に必要な原価計算の考え方とコスト意識」を解説した。
高瀬氏は、医療機関が赤字に陥る背景として原価把握の不足を指摘した。医療の付加価値は人件費や減価償却費で構成されるが、多くの医療機関で十分に生み出せていないという。間接費の比率が高い医療では配分が難しく、活動基準原価計算(ABC)が有効と述べた。また電子カルテやRPA(事務自動処理ソフト)の活用によりデータ収集が効率化し、選定療養の適正価格設定や材料費・人件費の最適化など、データに基づく経営改善が不可欠だと強調した。
第3講義では、日本経営・厚生政策情報センターの森實雅司氏が「2026年度診療報酬改定の方向性と論点解説」を行った。
制度・政策の変化が病院経営に与える影響を解説した。収益が伸びない一方、人件費・医薬品・材料費が急増し、約7割が赤字という厳しい状況にある。政府は賃上げ補助や物価高騰分の補填、病床再編やDX支援を含む1兆円規模の財政支援を検討しているが、最低賃金上昇など課題は残ると述べた。
地域医療構想では急性期機能を「高齢者救急中心の地域急性期」と「高度医療を担う急性期拠点」に二極化し、人口20~30万人に1拠点配置が想定される。2026年度改定では、救急受入で赤字が拡大する構造の評価見直し、内科系救急の適正評価、地域包括ケア病棟の実績要件厳格化が論点となる。また「かかりつけ医機能報告制度」で病院機能が可視化され、患者選択が変化するため、自院の役割再定義と収益構造の再設計が不可欠だと述べた。
変化を見据えた経営判断が必要
講義後のディスカッションでは、まず「1兆円規模補助金」が診療報酬改定率に与える影響について議論があり、森實氏は「単純に改定率が削られるとは言えず、今年度予算との線引きが焦点」と説明した。高度急性期の赤字構造については、小林氏が材料費・薬剤費比率の高さを理由に「補助金だけでは維持困難」と述べた。
「選定療養の拡大」では、病院の値付け能力が課題となり、森實氏は材料費だけでなく医師・スタッフの時間、人件費、減価償却まで含めた原価把握の重要性を指摘。AI活用では、小林氏が生成AIの"ハルシネーション"リスクを踏まえ「最終判断は医療者が担うべき」と述べ、森實氏は処方支援など実装領域を紹介した。小林氏はDXを補助金依存の「ブーム」で終わらせず、時間外労働削減などのKPI(重要業績評価指標)で効果検証を続ける必要性を強調した。
ディスカッションは、政策・DX・原価は不可分であり、変化を見据えた経営判断が求められると締めくくられた。
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