【浜矩子が斬る! 日本経済】「政見放送の中に溢れる排外主義の空恐ろしさ」2025年7月18日
参院選の投票日が近づく中で、各政党や立候補者たちの政見放送合戦が盛んだ。概ね聞くに堪えず見るに堪えないものばかりだ。だが、だからと言って目を背けてばかりいるのも危険だ。今回、改めてそう思った。
エコノミスト 浜矩子氏
今回の選挙に向けては、雨後の筍のように得体の知れない群小政党が出現して来た。その多くに共通する主張がある。そのことに気づいてはっとした。その主張とは、端的に言えば排外主義だ。「日本人ファースト」を前面に掲げるのが参政党だが、非日本人の排除を唱える新政党や立候補者たちが入れ替わり立ち替わり、政見を語っていた。
一週間ほど前のことだ。友人と夕食を共にした。その時、「日本人ファースト」というスローガンの不気味さと危うさが話題になった。そこには、ドナルド・トランプの「アメリカ・ファースト」さえも凌駕する排外性がある。背筋が寒くなる度合いが、一段と強い。このような認識を共有した。
すると、くしくもその翌日、「『日本人ファースト』国の衰えを感じさせる言葉」という論説に目が止まった(7月13日付毎日新聞朝刊)。多才な放送タレント、松尾貴史氏の「松尾貴史のちょっと違和感」という連載コラムである。この人の感性には常に共感するところ大で、僭越ながら勝手に同志感を抱いている。その人と、今回も波長がピッタリ合って、嬉しくなった。心強くも思った。
だが、喜んでばかりはいられない。「日本人ファースト」を文言として打ち出していなくても、この心情を煽る扇動者たちが、政見放送の画面に次々と登場した。川口市に数多く在住するクルド人たちを徹底的に敵対視して、日本を出て行けという。中国人が大挙して日本になだれ込んで来ている。彼らによって日本の土地や資産が乗っ取られている。そのうち、日本は事実上、中国に支配されることになるかもしれない。このような具合に叫び立てるスピーカーが相次いで視聴者に訴えかけて来る。
この種の主張が全くフェイクで、全く根拠の無いものだとは言い切れない。川口市が自治体として、在住クルド人との付き合い方に手を焼いていることは事実だ。中国資本の動き方には、気になるところが全くないと言えば嘘になるだろう。だが、こうした懸念の種を人々の漠たる不安を温床に育て上げ、針小棒大なストーリラインを作り上げる。その上で、こんな状況の下で、政府はなぜ日本人のためにもっとカネを使わないのか、なぜもっと日本人のために尽くさないのかと拳を振り上げる。この手口が嫌だ。
日々の生活を維持するのに四苦八苦し、先行きに不安を抱える人々が、このような調子で刺激されれば、どうなるか。「日本人ファースト」感が次第に市民権を確立することになってしまうかもしれない。このような方向に向かって日本の有権者をおびき寄せようとする偽預言者たちは決して許せない。
倫理的・道義的に許せないのはもとよりだ。だが、それだけではない。排外主義がはびこる国は、その経済が廃れる。経済が経済ではなくなると言った方が正確だろう。なぜなら、経済活動は人々を幸せに出来なければ、経済活動ではないからだ。偽預言者どもの風説と流言飛語が人々の魂を振り回すような状況の下では、「日本人」も「非日本人」も幸せになれない。疑心暗鬼が溝を生み出し、対立と衝突を生む。そのような環境の中で、人間を幸せにする経済活動が花開くわけがない。
多様な人々が共生出来ていてこそ、創造性が開花する。排他性が支配する中では、硬直化と悪しき平準化が広がるばかりだ。「非日本人」の中に問題行動を取る人々がいれば、それらの行動を取り締まることは必要だ。だが、その取り締まりの在り方が「日本人」と「非日本人」で異なってはいけない。今の日本に必要なのは、賢き大らかさだ。それが大人の在り方だ。
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