【スマート農業の風】(20)GAP管理や農家の出荷管理も絡めて活用2025年10月31日
データ活用型スマート農業の活用事例が少ないと言われている。確かに、スマート農業を活用し目に見える成果が発揮できたという事例が少ないのも事実だ。ただ、いつの間にかスマート農業由来のシステムや機構が入り込んでいて、改めて考えるとスマート化になっていたという事案も多い。今回はGAP取得のために営農管理システムを積極的に活用したJAの事例を紹介する。あまりにも基礎的な内容のため、皆さんの周りにすでにできているかもしれない、もしくは、導入がすぐできるという事例になるかもしれません。

千葉県のなかでも、東京近郊に位置するとあるダイコン産地の話だ。ここで生産されるダイコンは、JAの集出荷場で洗浄・選別・出荷されブランドダイコンとして首都圏に直結した販売をおこなっている。このブランドダイコンは、JAの蔬菜(そさい)組合が生産を担っており、組合を担当するJA職員は、組合員のモチベーションを維持するため、GAPの団体認証を取得した。GAPの管理をおこなうため、初期の段階からZ-GISを導入し、ほ場管理に努めた。担当者は「GAP認証に必要なほ場情報を農協が一括管理することで、出荷バランスを把握し計画出荷につなげる」「ほ場管理はZ-GISを活用し、GAP活用に適した野菜作の使用方法を作る」「JA管内のバラエティー豊かな農産物管理にZ-GISを活用する」を念頭に導入した。
今回のブランドダイコンは、JAの集出荷場で洗浄・選別・出荷されたダイコンが対象となる。生産者は、毎朝泥付きのダイコンを集出荷場に持ち込み、共同洗浄選別施設で洗浄や梱包を行う。農家の個人作業時間の大半を占めていた洗浄や選別などを、共同施設での一括作業としたことにより、品質が向上した上、組合員も栽培に専念できるようになった。こうした取り組みが評価され、2013年に日本農業賞(集団組織の部)の特別賞に選ばれた。
このJAの蔬菜組合は、約300筆のほ場を組合員15人で管理し、年間150万ケースを生産している。秋冬ダイコンと春ダイコンを生産しているため出荷時期が10月~6月と長く、100%JAを通じて出荷・販売しているところも特徴だ。2019年、JAの担当者は、生産者の意識向上と安全安心な商品を提供するため、同組合のJGAP団体認証を目指すことにした。畑作の団体認証はまれで苦労も多くあったが、翌年1月に無事認証を受けることができた。組合員の意識が高く、GAPの管理を個々の農家がおこなっており、農家の倉庫には機材や資材のマニュアルに沿った表示が張られ適切に管理されている。また、外国人を含む労働力支援も導入しており、ベトナム人の研修生が、読めるようベトナム語の表記をするなど、適正な管理に努めている。担当者は「GAPを導入することで農家の意識が変わり、倉庫などの整理整頓が普通にできるようになった。記録をつける、書くという作業は苦手だが、若手の農家を中心に意識が変わりつつある」と手応えを感じている。
担当者は、GAP管理の一部にZ-GISを導入している。初期設定は、全農から入手した筆ポリコンを使用し、Z-GISに反映したデータを作成した。ほ場管理は、秋冬作、春作でほ場が移動するため、耕作ほ場一覧表を組合員に提出してもらい、Z-GISに入力した。Z-GISを使用することで、所有者と生産面積、品種、播(は)種日が、ほ場の地図と一緒に表示されるため、管理がしやすくなった。また、Z-GISは入荷管理にも活用されている。この組合では、品種ごとに播種日を決めており、出荷日を予測し収穫タイミングをそろえることができる。この予想をもとに、集出荷場での作業計画を作成し人員の増減をおこなっている。今後、担当者は、投入した肥料の情報や生育予測などにもZ-GISを活用していきたいと考えている。
この組合の生産者は40~55 歳と若いことから、GAPは比較的スムーズに導入できた。生産者はGAP導入で、ほ場や施設の整理整頓ができるようになった。ただ、農作業を記録するという作業には苦労している。今回導入したZ-GISを生産者にも普及させ、スマートフォン等で簡単に記録ができるよう進めていく予定だ。また、JAの現場担当職員にもZ-GISを浸透させ、現在、担当者ひとりで行っている入力作業を分散できるよう進めていく。Z-GISで記録することで、たとえ担当者が代わってもデータが残り、農家の営農支援に役立てることができるよう、業務の承継を目指している。
このようにスマート農業の基本である営農管理システムが、GAP管理だけでなく、JAや生産組合の集出荷管理、地域全体の生産物管理に役立つ事例もある。特にZ-GISは広域にほ場を管理し、ほかのデータと共有しながらほ場図の表示など多面的な活用ができる。GAPで必須のほ場図で活用しながら、導入したGAP団体の初期の総合管理に活用することでデータのデジタル化・スマート化を目指すのもひとつの方法と言える。
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