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コラム:地方の眼力

【小松 泰信 (岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2017.06.28 
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 『現代農業』9月号に掲載予定の農業生産工程管理(以下、GAPと略)に関する拙稿を送信した直後に、アジアGAP総合研究所(日本唯一のGAPのシンクタンクとして、GAPや農業に関する情報提供を行う公益団体。以下、GAP総研と略)から各種資料を添付されたメールが送られてきた。その資料などを用いて、異なるアプローチからGAP問題を論じる。

◆選択基準は〝国産や産地〟
 GAPが入り込むギャップはあるのか

 GAP総研が、一般市民・消費者のGAPに関する認知度調査を行った。インターネットで国内の男女20歳から60歳代の1034人を対象とし、2017年6月9~11日に実施。(なお、文中矢印は小松のコメントを指す)
 「食品(野菜・果物・米・お茶など)を購入する際、食の安全性についてどの程度意識していますか。食品購入時に気をつけていること」(複数回答)という問いに対し、最も多いのが「国産や産地」(64.6%)、これに「特に気をつけていることはない」(24.4%)、「残留農薬」(21.6%)が続いている。
⇒やはり、主たる選択基準は〝国産や産地〟、
そして第2位の選択肢の存在は意味深長である。いずれにしても、GAPが入り込む間隙はなさそうだ。
 「食品の認証制度『GAP』をご存知ですか」という問いには、「詳しく知っている」(1.8%)、「ある程度知っている」(7.2%)、「名前を聞いたことがある程度」(33.3%)、「知らない」(57.7%)である。
⇒思ったより知られている、と見たい。
 「東京五輪・パラリンピック(以下、東京オリ・パラと略)において、選手村で使用される食材は『GAP』認証を取得していることが必須条件であることをご存知ですか」という問いには、「確かに知っていた」(4.1%)、「聞いたことがあるような気がする」(17.5%)、「知らなかった」(78.4%)である。
⇒GAP普及に関する東京オリ・パラの政治的利用はこれからか。
 GAPを説明した後、「今後食品を購入する際、GAPの認証の有無で価格が異なる場合、どのように購入するようになると思いますか」という問いに、「3割以上高くても購入する」(5.0%)、「1~2割程度高くても購入する」(23.7%)、「認証を受けていない食品と同じ価格ならば購入する」(56.1%)、「1割以上安ければ購入する」(15.2%)である。
⇒高けりゃ買わない、と判断したい。
 これらからGAP総研は、「まだ認知は低い状況にある」としたうえで、「世界中から集まる選手を国産食材でしっかりおもてなしするためにも、一般市民・消費者も巻き込んだGAP普及が望まれます」と、見解を示している。

◆自信過剰のGAP実践者

 2017年4月6日の衆議院農林水産委員会に参考人として出席した丸田洋氏(自民党推薦)に対して、氏がGAPを取得し指導員もしていることから、「GAP取得のメリット」についての質問があった。氏の回答内容は次のように要約される。
 「取得して10年ほど。GAPは社内のルールをつくるための道具。このルールに従っていれば、いつの間にかもうGAPができているような形。農場にとって農産物の安全性を担保するものとして最低限の重要なものであると考えている。GAPが面倒くさいと感じている農業者は経営者として、その農産物の安全を担保する気があるのかないのかというところを、自分自身に問うべきだ。これは取り組む以外にない」(第193回国会衆議院農林水産委員会議録第7号11頁)
 冷静に考えれば、氏は、GAPを実践する以前も、安全安心を強く意識した作り方をしていたはず。だとすれば、GAPを取得しない農業者の生産物を安全安心が担保されないもの、と決めつけるのは自信過剰の問題発言である。

◆自民党からの提言

 自民党のGAP関連方針『規格・認証等戦略に関する提言』(2017年5月19日)によれば、「日本の農産物・食品は、『安全・安心』と言うが、国内外での競争が激しくなる中で、それが取引先や消費者に根拠をもって信頼される状況ではなくなってきている。また、今後輸出等を拡大するには、国際市場での日本の競争力の強化が必須である」とする。そのため、「食品安全や環境保全など『見えない価値』を『見える化』」していくことが必要であり、「ひいては農業者の所得向上につながる」という認識を示している。
 そして、東京オリ・パラを「我が国の食のすばらしさを世界に発信していくまたとない機会である」と位置づけ、「生産現場が変わる」ことを目標に、国際水準のGAPの指導体制を早期に構築するとともに、農業高校、農業大学校等教育機関におけるGAP教育を促進するほか、流通・小売りを含めフードチェーンを通じた価値の共有を図ることを提起している。なお、GAP認証については、平成31(2019)年度末までに国内で現状の3倍以上の認証取得をめざすが、これが達成されることで、東京オリ・パラには余裕を持って供給量を確保できる、とのことである。
 だとすれば、現状が約4500農場ほどだから、あと1万農場ほどで目標達成。平成27(2015)年の販売経営体数が約125万経営体であるから、進次郞君の発信力と農水省のキャラバン隊でガッチリですかネ。

◆看過できない農水省のGAPびいきと評価すべき食品流通業界の見識

 日本農業新聞(6月27日)は、〝GAP取得 支援必要 食品流通業界 小規模経営に配慮を〟との見出しの記事で、農水省が食品流通業界に対してGAPなどの説明会を開催したことを伝えている。前述したように、19年度末までにGAPの認証取得件数を現状の3倍以上にするという目標達成には、GAP取得農畜産物を食品流通業界が積極的に取り扱い、農家の認証取得メリットを確保しなければならないからだ。まさに、説明会と称した積極利用・販売懇願会の開催と言えよう。
 しかしこの取り組みには怒りを禁じ得ない。なぜなら、国内の胃袋容量が一定だとすれば、取り扱われない農畜産物が発生するからだ。GAP取得農畜産物を取り扱って欲しいと言うことは、非取得農畜産物を取り扱わないで欲しいと言うことを意味している。GAPを取得していないというだけで、差別的に取り扱うことを農水省が関連業界に求めることは決して許されるものではない。
 取りあえずほっとしたのは、業界関係者の極めて冷静な姿勢である。日本チェーンストア協会は、認証の費用負担が重く、小規模農家の農業撤退の懸念を示し、丁寧な支援を訴えている。日本スーパーマーケット協会は、消費者に国産は安全だという認識が強く、いかにGAP認証の価値が認められるかが課題だとして、農水省によるGAPの普及、啓蒙を求めている。
 経済的コストと精神的コスト、それに対するリターンを考え合わせる時、小農の多くはGAP取得に向かわないはず。〝GAP無くば農業者に非ず〟の烙印が押されるとすれば、営農意欲は減退し、撤退もやむなしだろう。離農後の田畑は農地中間管理機構を通じて大規模農業経営体へ、とハラのオクで考えているとすれば悪魔のシナリオ。消費者の〝国産や産地〟重視の選択基準は、これまでの安全・安心・高品質をめざした農業者や関連団体による積年の努力のたまものである。
 自民党の提言には、日本の農産物・食品のセールスポイントである「安全・安心」は根拠をもって信頼される状況ではなくなってきていることが記されていた。もちろん農業者や関連団体も、そしてわが国の農畜産物に信頼を寄せてきた消費者・実需者も納得しないはず。なぜなら、積年の努力を愚弄する〝根拠喪失宣言〟だからだ。
 「地方の眼力」なめんなよ

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