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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2018.05.21 
北朝鮮は悪魔の王国か一覧へ

 北朝鮮を「悪の枢軸」といったのは、当時、米国大統領だったブッシュ氏である。「悪」は悪魔の意味であり、悪魔は人間ではない。
 この考えが、日本の一部では、いまも続いている。さしずめ、金正恩委員長は悪魔の頭領だ、と考えているのだろう。悪魔だから、その言うことはいっさい聞かず、話合いを否定して、力ずくで退治することしか考えていない。安倍晋三首相や多くのマスコミは、そのように考えているようだ。
 誰がどう考えても自由だ。しかし、そう考えることによって、外交で孤立し、日本の針路を誤るなら、見過ごせない。
 ここでは、マスコミが伝えようとしない北朝鮮の実状について、朝鮮大学校の李柄輝准教授が、BSフジのTV番組や日本外国特派員協会などで語った論説を借りて考えよう。
 同准教授の論説の一部には、賛同できない点がある。しかし、確かな事実と綿密な論理に基づいて、北朝鮮の考えを正確に説明していると思う。

 あらためて考えてみると、1950年に始まった朝鮮戦争は、68年経った今でも、まだ終わっていない。休戦中なのである。北朝鮮と国連の間の戦争である。国連といっても、実は米国である。
 北朝鮮は米国に対して、戦争をやめて平和条約を結ぶことを、何度も提案してきた。しかし、米国は、そのつど拒否した。だから、米国は、いつでも休戦協定を破棄して、北朝鮮を攻撃することができる。実際にそのための大規模な軍事演習をしている。
 北朝鮮は、これに対して、米ソの冷戦中は、ソ連の核の傘の下で米国と対峙していた。しかし、1991年のソ連崩壊以後、ソ連の核の傘はなくなった。

 それ以後、北朝鮮は米国と平和条約を結んで、米国の核攻撃を避けるか、それとも、自力で核武装して、米国の核攻撃を抑止するか、を選択することになった。
 北朝鮮は、米国に対して平和条約の締結を提案し続けたが、米国は、あいかわらず拒否し続けた。こうした状況のもとで、米国の核攻撃を抑止するには、自国で腰を据えて核武装するしかない、と考えた。「先軍政治」への転換で、1997年のことである。
 米国は、これに対して露骨に干渉した。つまり、北朝鮮の内部崩壊を画策し、あるいは、米軍が北朝鮮に侵攻して政権を倒そうとさえした。
 2003年には、米国は、北朝鮮を「悪の枢軸」とし、核による先制攻撃を公言した。また、昨年春には金委員長の「斬首作戦」を言い出した。
 これに対して、北朝鮮は、軍事力の強化と経済発展を同時に進めるという「併進路線」の名前で、大陸間弾道弾と核爆弾の開発を加速した。そうして、米国の核攻撃を抑止する軍事力を強化した。

 最近になって、この状況が変化した。北朝鮮が「併進路線」の完了を宣言したのである。つまり、大陸間弾道弾は米大陸の東岸まで届くようになり、それに核弾頭をつければ、米国の中枢部を壊滅できる。これは米国にとって、死活的な脅威である。つまり、北朝鮮は米国の核攻撃を阻止するための軍事力を完成したのである。
 こうした状況の変化に対応して、来月12日に両国の首脳が会談することになった。
 この会談で、北朝鮮が要求するのは、米国が、北朝鮮の政治体制の維持を保証することである。米国の要求は、北朝鮮の非核化である。
 会談の事前交渉で、両国は総論では合意しつつある。しかし、各論になると、まだまだ大きな対立がある。

 ここで、総論で合意した背景をみてみよう。日本政府は、日米などの圧力と制裁の強化が主力だと自画自賛するが、そうではない。
 韓国の世論は、4月の南北首脳会談の後、大きく変わった。韓国のMBC放送によれば、金委員長を信頼する、という人が78%になった。また、米朝会談を仲介した韓国の文在寅大統領の支持率は86%になった。
 これは、韓国の国民の圧倒的な大多数が、米朝首脳会談に期待していることを示したものである。
 こうした世論の変化をみて、トランプ大統領も変わりつつある。北朝鮮だけの非核化ではなく、韓国を含めた朝鮮半島全体の非核化という、北朝鮮の主張に歩み寄ろうとしている。また、即時非核化ではなく、段階的な非核化も受け入れようとしている。

 このような状況のなかで、安倍晋三首相だけが、北朝鮮だけの、しかも即時の非核化を主張している。それを北朝鮮が受け入れなければ、圧力と制裁を緩めないという主張を、かたくなに続けている。まさに話合いの否定である。そうして世界中から顰蹙をかい、カヤの外へ出されている。
 そんなことは、万一にもないだろうが、もしも米国が北朝鮮に侵攻すれば、先ず第1に支持と激励の電報を送るのは安倍首相だろう。そうして世界中から顰蹙をかうだけでなく、事実を見ることができない、そして、論理を理解できない首相の反知性主義が嗤われるだろう。恥ずかしいことである。

 最後に、李准教授が想定している朝鮮半島の将来像を、筆者が勝手に描いてみよう。
 それは、韓国と北朝鮮の極めて緩やかな連邦国家である。資本主義国の韓国と社会国の北朝鮮との連邦国家である。荒唐無稽の幻想のように思われるかも知れないが、そうではない。
 1990年には、資本主義国の西ドイツと、社会主義国の東ドイツが統一国家になった。連邦国家どころか、一気に統一国家になった。そして、隣国はこぞって祝福した。
 しかし、こんどの朝鮮半島の場合は違う。隣国の日本が妨害している。安倍首相をはじめ、多くのマスコミが、米国の尖兵になり、北朝鮮を悪魔とみて、朝鮮民族の悲願である統一を、武力を背景にして妨害している。

 こうした状況のもとにあるので、南北の統一は容易ではない。李准教授は、つぎのように構想している。
 当初は、両国がそれぞれを独立した国家として、互いに尊敬し、主権を尊重しあいながら、両国で共同のプロジェクトを発足させる。経済開発を目的にしたものもあるし、技術開発を目的にしたものや、科学やスポーツの振興を目的にしたものもあるだろう。
 それは、北朝鮮の人たちと、1人当たりGDPが北朝鮮の22倍の韓国の人たちとの共同作業になる。そこで活発な人的交流が行われる。こうした共同作業のなかで、相互の理解が進むだろう。
 また、平等を国是にしている北朝鮮の人たちと、多くの国民が経済格差に呻吟している韓国の人たちとの共同作業になる。それは、それぞれの国の短所を克服し、長所を認め合い、それを生かした作業になるだろう。

 こうした共同作業が広がれば、やがて、資本主義国の韓国と、社会主義国の北朝鮮との、ゆるやかな連邦国家を目指すことになる。そして、朝鮮民族の統一国家へ近づくことになる。
 それは協同組合地域社会の考えに親近性が強い。協同組合国家の萌芽ともみられる。協同組合である農協の多くの人たちは、北東アジアの、この歴史的な快挙を、親しみを込めて暖かく見守っている。
(2018.05.21)

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