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【クローズアップ 韓国新体制】FTA戦略がめざすもの 韓国GS&Jインスティテュート李 貞煥院長(前韓国農村経済研究院院長)―聞き手:農村金融研究会 鈴木利徳専務理事2013年2月13日

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・厳しい国民経済を再建へ
・FTAの「ハブ・カントリー」めざす
・国家戦略は「通商国家」
・直接支払い重視の農業政策へ

 韓国では初の女性大統領、朴槿惠(パク・クネ)新大統領が2月25日に就任する。新体制になって経済政策やFTA戦略、さらには農業政策はどう変わるのか。さらには韓国と日本は互いにどう良好な関係を保てばいいのか。今回は韓国農村経済研究院の院長も務め現在はシンクタンクの代表として農業をはじめとする経済社会分析を行っている韓国GS&Jインスティテュートの李貞煥院長に聞いた。聞き手は農村金融研究会の鈴木利徳専務理事。

成長より「分配」を重視する新政権
―朴大統領は何をめざすか―

厳しい国民経済を再建へ

どうバランスをとるか? 輸出振興と大企業への規制強化


◆韓国大統領の力とは

 鈴木 最初に私から政治制度について整理しますと、韓国は大統領制で任期は5年。再任は認められていないため5年ごとに必ず大統領が代わるという制度ですね。
 日本と同じ議会制民主主義ですが、韓国議会は1院制です。大統領の権限は非常に強く政策にはその意向が強く反映されると聞いています。
 その韓国で初の女性大統領、朴槿惠(パク・クネ)新大統領が今月就任します。大統領の交代は日本の首相交代以上に、韓国にとって非常に大きな変化だろうと思います。最初に大統領制について感じていることをお聞かせください。
李 貞煥院長  ご指摘されたように韓国の大統領は5年間は政権を持ち続けることができるため日本の首相とは違う力があると思います。大臣を任命する権限のほか、それ以外に法律的に必ずしも定められていなくても、各省庁の次官はもちろん、それ以外の官僚、関係機関の人事にまで影響力があります。大臣は大統領が代えようと思えばいつでも代えることができます。
 その意味で大統領の考え方に従わない政策は考えられないということです。国会の与党は大統領の考え方にほとんど従うというかたちになっているので、日本の首相にくらべて韓国の大統領の力は相当強いと思います。
 鈴木 李明博(イ・ミョンバク)大統領と朴新大統領では同じ政党でありながら政策がずいぶんと違うと言われています。そこを解説していただけますか。
  実は与党のセヌリ党は選挙直前にハンナラ党から名前を変えました。それは李明博大統領の政策に対して国民の間で相当厳しい批判があったために、ハンナラ党のやり方を全部変えるということを国民に示すためでした。

(写真)
韓国GS&Jインスティテュート李 貞煥院長(前韓国農村経済研究院院長)


◆前政権への厳しい国民の評価

  少しさかのぼって説明すると盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領時代(03―08年)も国民の間には非常に厳しい批判がありました。それはあまりにも大統領は反市場的、反企業的で成長より分配に偏っている、その結果、韓国経済が相当悪くなったというものでした。
 実際は米韓FTA交渉を始めるなど新自由主義的政策をとったのですが、経済状況が悪いのでそういうレッテルが貼られた。
 そこで李明博大統領は選挙戦のときから、企業フレンドリー政策、減税政策などによって経済成長率を高め国民を豊かにする、と訴えました。それは「747政策」というものです。経済成長率7%達成、1人あたり年間所得4万ドル実現、そして7大経済大国になる、というものです。07年の1人あたり年間所得は2万2000ドルでした。 減税では法人税の最高税率25%を20%に引き下げ、所得税も2%ほど引き下げました。
 そして重要だったのはウォン安政策です。
 李大統領就任の08年はリーマンショックが起きましたからその影響もあるのですが、08年の正月にくらべて年末には45%もウォン安になりました。その年、日本は10%ほど円高になりましたね。一方、韓国は輸出企業に有利な環境にするためウォン安に誘導した。
朴 槿惠新大統領(パク・クネ)ウィキペディアより にもかかわらず任期5年間のGDP成長率は2.9%にとどまり、1人あたりの所得も逆に1万7000ドルに下がった。2012年にようやく07年時点の2万2000ドルに戻っただけです。その間に雇用も悪化して李大統領の企業フレンドリー政策、減税政策は失敗したというのが評価です。
 鈴木 実際には「747政策」はひとつも実現できなかったということですね。
  そうです。そこで朴新大統領は選挙戦ではこのような政策は間違っていたということを強く訴え、そして政党名も変え、大企業よりは中小企業や庶民の生活、福祉政策を重視する、成長一辺倒から分配へ、という方針を打ち出した。

(写真)
朴 槿惠新大統領(パク・クネ)ウィキペディアより


◆庶民重視を打ち出す新大統領

 李 ですから、党は名前だけではなく政策も相当変えたので同じ政党出身とはいえ、朴新大統領は李大統領とやろうとしている政策が違うということです。
 鈴木 大企業よりも中小企業を重視するという政策転換が朴新大統領の方針とのことですが、韓国社会を理解しようとするとき、財閥の強さがなかなか実感として理解できません。私は日本の大企業の比ではないと理解しています。なにしろ10大企業の売上げがGDPの7割を超えるわけですから。サムソンだけでGDPの2割。財閥について解説していただけますか。
  韓国の財閥はいわゆる循環出資をします。財閥のオーナーが出資してA社をつくる、A社が出資してB社をつくり、B社が出資してC社をつくる。そしてC社が元のA社に出資する。そうするとたとえばオーナーはA社に10%出資しただけでも、ぐるっと回って結局はオーナーの支配力が20%になるといったかたちになる。C社にとどまらずD社、E社と次々に会社をつくればそれを全部支配できるというシステムで財閥はどんどん影響力を強めていくわけです。実際、5年間に10大企業が支配する企業は400社増えたといわれています。
 盧武鉉大統領時代には循環出資を規制しようとしましたが、李明博大統領は大企業がよくなれば雇用が増え結局は国民みんなが豊かになるという考え方ですから財閥に対する規制はしませんでした。
 それに対して朴新大統領は財閥に対する考え方も相当違っていて今は「経済民主化」を主張しています。財閥の事業とオーナーに道徳性を強く求める姿勢を打ち出しています。


◆財閥への規制強化が焦点

 鈴木 ただ、韓国の人口を5000万人とすると日本の約半分ですから国内市場が小さい分、どうしても企業は輸出に頼らざる得ないと思います。そうなると財閥の力を政策によって削いでしまうと輸出競争力が弱くなる面もあって、なかなか規制は難しいのではないかと思いますが。
  おっしゃるとおり韓国は貿易依存度が相当高いです。昨年の輸出入総額はGDPの110%にもなります。日本は30%程度ですね。その意味で韓国は財閥を中心にした貿易を軽く考えることはとてもできないということは事実です。
 しかし、財閥が輸出をたくさんすることがどのくらい雇用に役立っているのかというと、そうではない。むしろ財閥の力を規制して、中小企業や“町商売”などを育てていくほうが国民経済にはいいという考え方が今では韓国でも相当広がっています。そこから「経済民主化」という考え方が打ち出されてきたのです。
 鈴木 少し潮目が変わっていくかもしれないということですね。
  ただ実際にどう変わるかはこれから見ていかなくてはならないことです。というのも、やはり与党のセヌリ党と関わる学者グループには李大統領のブレーンもいて大企業優先の考え方は変わっていませんし、彼らが新大統領に何を言うのかによってたとえば財閥に対する規制もどのくらいの強さで実現するのか、これから決まるということです。
 鈴木 その経済問題では若者の就職が非常に厳しいと伝わってきますが。


◆若者も中高年も厳しい雇用

  失業率は統計上は3.3%なんです。しかし、数字だけで判断することは難しい。というのも就業者のうち30%が非正規雇用であり、また、小さな店や食堂などの自営業や町商売などが28%います。ですから失業率3.3%といっても雇用の質は相当悪いわけです。しかも自営業といっても1、2年で潰れてしまい、また新しい自営業が出てくるという状況です。
 雇用で増えているのは50歳代ですが、一方でこの層から自営に移る人も増えています。その背景には年金制度の問題もあります。韓国の年金制度が本格的に整備されたのは90年代で60歳になると年金が支給されます。
 しかし、制度が整備されたのが最近のため60歳を過ぎても年金をもらえないか、もらえてもほんの少しという人がたくさんいます。だから自営業で将来を何とかしようと試みざるを得ないということです。
 そこには定年が50歳代だという問題もあり、定年年齢を延ばそうという議論もある。しかし、そうすると若者の雇用を奪うことになってしまうことにもなりかねない。若者の正規雇用者は07年の410万人から昨年は370万人になりました。5年間で40万人減ったわけです。若者の失業率が高いのは韓国に限らず世界的な現象ですが、韓国の場合は大学進学率は世界でもトップクラスであり、大学を卒業しても就職できないという問題もあります。


◆家計債務が膨らむ国民

 鈴木 そのために海外で働こうという若者も多いわけですね。
  政府の政策も海外に出て働く若者を支援するプログラムをつくっています。
 鈴木 大学進学率が世界のトップクラスということは同時に家計費に占める教育費も高くかなりの負担になっているとも聞きますが。
  どこの国でもそうでしょうが、とくに韓国は教育に対する執着は強くみな一流大学に入れようという希望を持ちます。韓国ではSKY大学、スカイ大学というのですが、ソウル大、高麗大、延世大の3つに入学させようと小学校から高校まで塾など教育に相当なお金を使います。
 それがまた出生率の問題にもつながる。子ども1人を育てるのにあまりにもお金がかかるからです。
 鈴木 教育ローン、住宅ローンも含め韓国の家計負債は世界的にみても高水準といわますが実情はどうでしょうか。
  この5年間に年7.5%づつ増えて、2011年の家計負債は938兆ウォンに達しました。GDPが1240兆ウォンですから、GDP比で76%となっています。
 負債と可処分所得の比率は134%で可処分所得よりも負債のほうが多いということです。米国でサブプライムローン問題が起きたとき、米国民のこの比率は130%程度だったとのことです。ですから非常に心配される状況です。
 この背景には盧武鉉大統領の時代に住宅価格が相当に上昇したことがあります。任期中の5年間にソウルの住宅価格は56%上昇しました。韓国ではマンションを買うことが資産を増やすいちばん手頃な道という考え方がありますから、その需要から住宅価格が上がり、それが住宅は資産という考え方を強め、また価格が上がるという悪循環が強まりました。
 そのとき国民はお金を借りて住宅を買ったわけです。しかし、最近は住宅の価格は下がってこの3年間で7.4%低下しました。今は住宅価格は下がるとみていますから、資産目的で買った人は売りたくても売れない。あるいは売っても取得価格を下回ってしまう。一方で金融機関から借入がありますから、こうした問題が家計負債の増加につながっているわけです。

 

FTAの「ハブ・カントリー」めざす


◆巨大国との締結の意味

 鈴木 韓国社会の状況をいろいろお聞かせいただきましたが、今度は韓国のFTAの現状についてお伺いしたいと思います。
 2011年7月にEU、昨年3月に米国とのFTA発効と進んでいますが、現段階ではどんな交渉状況になっているのでしょうか。
  今までFTAを締結した国はASEAN10か国とEU27か国を含めれば45か国になります。2012年にはコロンビアとトルコとの交渉が妥結、今年中に批准、発効するのではないかと思いますから、そうなれば47か国になります。現在は豪州やニュージーランド、カナダ、とくに中国との交渉を本格的に始めており、交渉中の国は23か国あります。
 韓国は2004年のチリとの締結に始まってFTA締結をものすごいスピードで進めていますが、それは韓国は「通商国家」になる、そのためにはFTAを積極的に進めていくという国家戦略を決めているからです。とくに巨大国とFTAを締結することが目標ですが、そのためにまずは周辺国と締結するという考え方で進めてきました。この考え方は政権が代わっても変わりません。
 鈴木 韓国の最大の輸出国は中国、2番目が米国です。米国とは昨年発効しましたが、中国とのFTAも韓国にとって重要だと思います。一方、日本では日中韓3国のFTAを考えた方がいいという人も少なくありません。
  今は韓中FTAと日中韓FTAが同時に検討されていますが、韓国政府は日中韓FTAにあまり期待していないと思います。それは日本が中国とのFTAをたぶん結ばないと思われるからです。希望としては日中韓がいいと思いますし、いつかは結べるかもしれませんが、現実問題として近い将来には難しいだろう、と。韓国内の論調も中国とのFTAを進めるべきだというものです。


◆世界の投資を呼び込む

 李 では、なぜ中国とのFTAを望むか? 実は韓国のFTA戦略には相手国との貿易関係を強めるためだけではなく、韓国をFTAの「ハブ・カントリー」にするという狙いがあるからです。
 たとえば、米国とFTAを締結しましたが、これによって日本企業が韓国に投資してモノをつくり米国に輸出すれば韓米FTAの利益を受けます。つまり、韓国が巨大経済国とFTAを結べば世界各国が韓国に投資して企業をつくり輸出する、すなわち韓国を通じて巨大国間の貿易がつながる、そういう考え方なんです。
 ですから、中国とFTAを結べば韓国企業が中国に好条件で輸出できるようになるメリットだけでなく、各国が韓国に投資し韓国を通じて中国市場に進出することができることにもなる。そのハブ(中核)になろう、ということです。
 鈴木 しかし、農業部門の反発があるのではないですか。
 李 もちろん中国とのFTA締結には農業部門をはじめ反対する勢力もあります。しかし国家戦略としては中国とのFTAは避けられないというのが指導層の考え方です。
 一方で中国も韓国とのFTA締結を望んでいます。中国からすれば韓国が米国とFTAを結んだわけですから、中国も韓国とFTAを結び経済的影響力を通じて東アジアでの政治的な影響力を維持したいということだと思います。中国とのFTAは、いつかは分かりませんが妥結はするだろうと思います。
 そのため農産物について米韓FTAで除外扱いになったのは米だけですが、中国とのFTAを妥結するためには、私は相当の例外を認めなければ妥結できないと思います。中国もそれは分かっています。


◆お互いに例外を認め合う

 鈴木 お互いに理解したうえで交渉している、と?。
  はい。その代わり韓国は中国が痛みを感じるようないくつかの製造業の品目について例外を認めるかたちになると思います。
 韓国では米のほか、トウガラシ、ニンニクも重要な農産物でそれまで市場開放すれば農業は大きな痛手を受けます。韓国のトウガラシの関税率は270%、ニンニクは300%で、それほど高い関税率で中国産を抑えているのですから、それを開放することは考えられないわけです。

◆   ◆

 鈴木 よく分かりました。それではFTAを進めてきた韓国農業の現状についてお聞かせいただけますか。
  FTA締結では農業界から相当に反発があってそれが政治的にも難しい問題になってきました。
 そこで農業構造を改革し競争力を高めて政府があまり財政負担をしなくてもやっていけるようにしようという考え方で相当力を入れてきました。
 しかし、農業所得は大幅に下がっています。95年に農家1戸あたりの農業所得は約1000万ウォン(約85万円:2月8日時点の1万ウォン=854円で換算)ありましたが、2011年には875万ウォン(約75万円)に減少しました。
 農外所得を加えた農家所得は同時期に3200万ウォン(約270万円)から3000万ウォン(約250万円)に低下しています。都市の勤労者世帯の所得とくらべると95年には95%でしたが2011年には59%と格差が拡大しています。
 ただ、一方では相当の所得を上げている農家も一部にいることも確かです。ですがそれは農業者のなかでの格差拡大にもなっています。95年には農業所得の最上位20%層と最下位20%層(5階層分類)との差は6倍でしたが、2011年には12倍にもなっています。

 

国家戦略は「通商国家」


◆やはり大きい市場開放の影響

  一方、この間に農業自体は相当成長しているというデータもあります。実質農業生産額を95年と2011年でくらべると24%増えました。しかし、所得は実質価格で39%減少した。つまり、農業自体は成長したけれども農家が受け取る分は減ったわけです。
 なぜそうなるかといえば、農産物の価格は名目では27%ほど上昇しましたが、消費者物価全体は72%も上昇したし、肥料や農薬など生産資材の額となると120%も上昇したからです。95年以降、農家にとっての価格条件が非常に悪くなったということです。
 生産資材価格が上昇したのはウォン安政策の影響もあるでしょうが、しかしながら農産物の実質輸入額もこの間に77%増えた。ですから国内生産額が24%増え輸入額が77%増えたわけですから供給量は相当増えたことになる。だから農産物の価格は上昇したといっても消費者物価指数の上昇とくらべれば低い。つまり、実質価格としては農産物価格は低下したということです。 ただ、輸入が増えてたとえば米国産牛肉が韓国産牛肉、すなわち韓牛に取って替わるかといえば、それほど代替性は高くないという結果が示されています。米国産牛肉の価格が10%下がったとしても、韓牛は4%も下がりません。輸入ブドウが10%安くなったとしても韓国産は2%も下がらない。
 これは代替性がそれほど高くないということですが、全体としては農産物の輸入量が増え価格が下がった。つまり、全体として農産物の輸入量が増えるといろいろな面で間接的に影響が出る。たとえばオレンジの輸入量が増えると韓国の柑橘類に影響が出ると思いますが、その代替率は低く、むしろイチゴやリンゴに影響が出る。それらを全部合わせるとやはり相当な影響になることが示されました。


◆まだ見えない米韓FTAの影響

 鈴木 ということは農産物の貿易を自由化したときの影響度を見る場合にあまり単品だけで考えてはいけないということですね。
 ところで、昨年米韓FTAが発効し、今日までどんな変化が起きているのでしょうか。
  農産物の関税は15年間かけて削減していくことになっていますから、農産物輸入がどう変化し国内農業にどう影響するかはまだ分かりません。
 一方で非農業分野では政府は米国向けの輸出が増えたと宣伝していますが、これは為替レートが非常に影響しています。自動車などの米国向け輸出は増えたことは確かですが、それが韓米FTAの影響か、為替レートによるものなのか、分析するのは難しいと思います。FTAの効果を正しく評価することはまだ難しいと思います。
 一方、一部の工業製品や食品の関税率は米国、EUとのFTA発効でただちにゼロになったり大幅に引き下げられたわけですが、店にいっても価格は下がっていません。たとえばヨーロッパから輸入するワインの価格が下がったかといえば全然下がっていない。むしろ上がっている。そこには流通の問題が関わっていて、むしろ関税を撤廃したことの利益が消費者に行かないで流通業者、輸入業者に相当行っているということもある。そこで最近の韓国では関税が低くなれば消費者に利益がいくと単純に考えていたことに対して反省が生まれ、必ずしもそうではないことが認識され始めています。


直接支払い重視の農業政策へ


◆農業の競争力強化策への反省

 鈴木 こういう現状をふまえ将来の韓国農業、農村のイメージをどんなふうに描きますか。
  私は国の戦略として通商国家をめざすということには同意します。そこで農業がどうなるかということですが、結局は悪化した価格条件を政府が財政措置(直接支払い)で埋めるということになると思います。
 これまではその政策が弱く、むしろ規模拡大しよう、農産物を輸出しよう、経営を合理化して所得を上げようということに政府は力を入れた。しかし、結果をみると農家は先ほども紹介したようにここまで厳しくなったわけです。
 ですから朴新大統領は今後の農業政策の中心は直接支払いに相当重点を置くと思いますし、保険や農村福祉政策などにも力を入れて対応するでしょう。
 実際、韓国の消費者の希望を輸入農産物で全部まかなうことは不可能だと思います。
 事実、牛肉は米国から輸入されているわけですが、韓国の消費者はそれより2倍も3倍も高い韓牛を支持しています。韓牛に対しての執着が相当あるということですし、米もちろん野菜となるとますますその傾向が強い。いくら中国から白菜を輸入しても売れません。白菜の関税率は20%程度ですが中国の白菜は入ってこない。ときどき韓国産白菜の値段が何倍も跳ね上がることがありますが、それでも中国の白菜が入ってくることはないんです。
 ですから政府が価格条件の悪化を埋める政策を実施することを前提にし、農家が消費者のこのような志向に応えて品質、安全性などを確保した生産を行えば農業を続けることができるだろうと考えています。


◆農業政策改革に期待

 鈴木 現在、直接支払いを実施しているのは米だけですか。
  実際に行っているのは米だけです。政策としては他の品目でも実施することになっていますが、その発動条件があまりにも非現実的で、たとえば価格が15%以上下がったら、下がった分の85%を直接支払いするなどです。しかし、名目で15%も価格が低下すればこれは本当に大変なことです。一方で米は少しでも下がったら直接支払い制度が発動されます。それを今後、どう変えるかという点を今議論をしているということです。

◆   ◆

 鈴木 さて日本と韓国、さらに中国も含めて今、領土問題で難しい関係にあります。この3か国は良好な関係を保っていくことがそれぞれの国民にとってのメリットだと私は確信しています。これから日本と韓国が良好な関係を維持していくために重要だと思われる視点があればお聞かせください。
 李 韓国の輸出のなかで25%は中国向けです。また韓国が輸出する製品の部品や原料については相当部分を日本から輸入しており、それで韓国の輸出産業が成り立っているわけですから、この3国はお互いに依存しているかたちになっています。こういう現実をもう少しみんなが考えるべきだと思います。
toku1302131903.jpg 私は領土問題については今の状態で凍結することをみんなが考えるべきではないかと思います。お互いに一定の暗黙的な合意が必要で、互いに挑発的な発言、行動をしない。たとえば韓国の大統領が竹島を訪問するようなことを私はやってはいけないと思いますし、日本が尖閣列島を国有化するなど、そういう現状を変えようという試みをすると、かえって緊張が高まることにならざるを得ない。だからといって互いに放棄しますとは絶対に言えないわけですから、お互いに主張することは主張しながら、その範囲を認めて現状を凍結するということだと思います。今は日本も韓国も島の問題でお互いにオーバーヒートしていると思います。
 21世紀はアジアの時代だと言われています。東アジアの経済共同体づくりも課題になるでしょう。私はそれは実現すると考えており、そうなれば島の所有権がどちらにあるかが問題ではなく、3か国が島をどう活用し付加価値を高め域内全体で共有するかが重要になります。それを視野に入れながら今はお互い冷静に考えるべきだと思います。
 鈴木 ありがとうございました。

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