【米価高騰 今こそ果たす農協の役割を考える】生産費割れ米価が招いた農家の米離れが真因 JA糸島 山崎重俊代表理事組合長2025年6月27日
JA糸島は1962(昭和37)年に、当時の糸島郡内の14農協と2連合会による広域合併で、1市2町の全国最初の1郡1農協として誕生以来、60年余の歴史がある。地産地消を推進する生産者との多様な連携が全国トップの40億円超の売上高を誇る農協直営直売所「伊都(いと)菜(さい)彩(さい)」を生み出している。以下は、米価高騰に対する小泉農相のやみくもな「価格破壊」対策にあきれるJA糸島の山崎重俊代表理事組合長(69歳)の緊急発言である。(聞き手=村田武・九州大学名誉教授)
JA糸島・山崎重俊代表理事組合長
食料安全保障を掲げた「改正基本法」ではなかったのか
農業者の減少・高齢化が著しく進展した原因はどこにあるのか。若者が農業に魅力を感じられないからでしょう。小泉農相は財界団体の経団連・経済同友会に「企業が農業に参入してほしい」と要請したといいます。農政の失敗が土地利用型農業から後継者を忌避させ、若者が参入できない原因をつくったことに、小泉農相はほおかぶりしています。新規就農者を増やす目標ももたず、企業参入とは、これこそ「災害便乗型構造改革」という以外にありません。
近年の生産者米価の生産費以下への低落が、多くの農家の米離れを引き起こしたのです。
これが今回の米価高騰の最大の原因です。米生産の拡大には、ほぼ60kg玄米の生産費が2万円になっているので、それに見合う農家の出荷価格が保障されることが不可欠です。それがあれば、後継者は残れます。食料安全保障はむずかしいことではありません。若者にとって魅力ある農業、まともな所得が得られる農業をつくり、農家の育成・確保に力を入れればいいのです。
ところが「改正基本法」にもとづく「基本計画」は、水田政策を見直して、とくに米については、水田の大区画化と集積・集約で大規模経営が担う30の輸出産地づくりをする。それには輸出可能な価格9500円(60kg)をめざして低コスト化を図るというのです。そんな米価に魅力を感じる若者はおりません。地産地消を推進してきた糸島水田農業を「大規模な輸出産地」にするなどはまったく考えられません。
水田農業の担い手経営は育っている
糸島の水田面積は3900haあります。そのうちの1520ha、ほぼ4割は、JA糸島と緊密な連携関係にある「糸島稲作経営研究会(稲研)」(全国稲作経営者協議会に参加する福岡県稲作経営者協議会の主力支部)の会員33戸が担っています。その平均的な経営は、自作地は3ないし5ha、これに小作地が20ha超で、経営面積は平均で25haを超えます。
栽培面積は水稲が20ha余り、麦が25haから40haといったものです。麦の栽培が大きいのは、裏作麦の期間借地があるからです。水稲は主食米に加えて地元酒造業者向けの酒米、さらに飼料米もあります。機械化が相当進んでおり、家族経営としては無理のない経営レベルとみていいでしょう。特徴は会員農家の大半は後継者を確保しており、会員の平均年齢が若返っていることです。
麦作を拡大しているのは、23年産米までの低価格では採算が取れず、麦の助成金が所得確保にとって大きいからです。
メディアのなかには、「主食の安定供給を確かなものにするには、官依存から自立した産業をめざすべきだ」といった主張がありますが、製造業の大企業こそ農業以上に官依存ではありませんか。
JA糸島は、早くから農業を「生命産業」と位置づけ、土地利用型農業と園芸農業の地産地消産地育成をめざす農業振興計画を確立して、産地育成に力を入れてきました。ますます気候変動の影響を受ける農業はエッセンシャル産業です。「基本計画」では小さな扱いになっていますが、私たちには「みどりの農業システム戦略」に応えて、地域内資源循環の推進で地域農業のオーガニック度を高めることが課せられています。稲研の会員がしっかりした経営規模を確保し、家族経営で糸島の土地利用型農業を守るんだと頑張ってくれているのは嬉しいかぎりです。
私たちは、農水省が農業財政を「農産物の輸出拡大によって『海外から稼ぐ力を強化』する」ことにシフトさせることを望んではいません。「基本計画」の「麦、大豆、飼料作物は、水田、畑に関わらず、生産性向上に取り組む者の支援へ見直すべく検討する」が、これらの作物の助成金の削減を狙っているのであれば、これにはJAグループが全力を挙げて反対するようJA全中に要請しなければなりません。
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