(441)「とんかつ」はなぜ各国で愛されているのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月27日
先日、ある学会で「とんかつ」の話が出ました。正式な議題ではなかったのですが、少々考えたことをまとめておきたいと思います。
言うまでもなく「とんかつ」は現代日本を代表する料理のひとつであり、世界各国で愛され、様々なバリエーションが存在する。その理由は、本来であればしっかりとした学術論文などで記すと良いのだろうが、ここでは簡単にまとめておきたい。
「とんかつ」が愛される理由は、少なくとも4つ考えられる。
第1は、「素材の魅力」だ。
料理の基本は何と言っても素材である。これは誰もが思い当たる。豚肉が素材として普遍的魅力があるからだ。
第2は、「調理法のグローバル性」である。
これは「揚げ物」だからという至極単純な理由である。断定はできないが、揚げ物を全く食べない国や地域はほとんどないのではないか。
揚げ物の歴史は古い。人類の誕生、そして火を用いた頃にまで遡ることが可能かもしれない。古代メソポタミアの粘土板にも脂で加熱するという調理法が示されているようだ。
また、脂が貴重品であった時代や地域では揚げ物の習慣は根付いているとは言えないが、それでも完全に食べない訳ではなかったであろう。古代中国は不案内のため、知見を提供して頂ければ嬉しい。
「揚げ物」という調理法のおかげで、「とんかつ」は異文化の食としての壁がかなり低くなり、比較的受け入れやすかったと考えられる。
第3は、「適応力の幅」である。
各々の家庭で作られる独自の「とんかつ」からB級グルメ、普通のレストランの「とんかつ定食」や高級ホテルでの「銘柄豚による豪華とんかつ」まで、場所と相手に応じ、無数のバリエーションが存在する。
味付けも個々人が好みに応じて自由なアレンジが可能となる。異なる文化や歴史・習慣を持つ国や地域の人々にとって、極めて受け入れやすい。自分達が尊重してきた味付けを活かす幅があるということだ。
これら3点は、簡単に言えば「素材」「形態(調理法)」「汎用性」という言葉で表される。是非は別として、何かが広く世界中に普及するための「必要条件」ともいうべきものだ。「とんかつ」と同様、世界中に普及した「寿司」に当てはめてみれば、その妥当性がより明らかになる。
アボガドを用いたカリフォルニア・ロール、色鮮やかなレインボー・ロール、これらの例だけでなく、根本は「コメ+○○」というシンプルな汎用性、これがアレンジの容易さと創造性、そして普及を刺激した訳だ。
第4は、日本食としての独自性である。
これは広い意味での「伝統」、より具体的には「作法」や「習慣」である。
例えば、ナイフとフォークではなく、「箸」を用いて食べる。食べる前に「いただきます」、食べた後に「ごちそうさま」と言う。これらは日本の食習慣の重要な構成要素であり、こうした言葉を口にし「作法」を体験することで、「日本」あるいは「日本的な雰囲気を味わう」ことができる。これが「日本食」としての「十分条件」になる。
世界視点で見れば、「とんかつ」も「寿司」も、未体験の人々にとっては食におけるイノベーションである。例えば、米国の日系レストランでの導入は比較的早かったが、他のレストランでの本格的導入はまだまだ今後の課題である。これに対し、アジア諸国のレストランでは比較的初期から根付いているのではないか。国や地域により受容のタイミングは微妙に異なるはずだ。そうであれば、ロジャースの「イノベーション理論」における5段階が適用可能であることに気が付くであろう。
* *
「とんかつ」に限らず、個別の「料理」をこうした視点で見れば、今後の日本食の展開にも新たなヒントが得られるのではないだろうか。
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