【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日
筆者がタコ市さんと命名した高市早苗首相は、「戦略」という言葉がとてもお好きだ。総理大臣としての初の所信表明演説の中に、「戦略」と「戦略的」が合わせて15回登場する。
エコノミスト 浜矩子氏
タコ市首相の親分だったアホノミクスの大将も、やっぱり戦略という言葉が好きだった。彼は2015年の4月に訪米し、連邦議会で演説を行った。その際、彼はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に言及した。当時、TPPは環太平洋圏における広範な経済連携構想として、大いに話題になっていた。日米両国が特に熱心に協定成立をプロモーションしていたのである。ところが、2017年に発足した第一次トランプ政権がこの構想から離脱してしまった。その後は、アメリカ抜きの何とも宙ぶらりんな形で存在している。
こんな具合で近ごろはあまり話題にならないTPPだが、アホノミクスの大将の訪米時には、とてもタイムリーなトピックだった。このホットなテーマについて、アホノミクスの大将は議会演説の中で次のように言った。
「...しかも、TPPには、ただ単なる経済効果の追求をはるかに超えた意味があることを忘れてはなりません。それは我々の安全保障にかかわるものです。長期的にみた時、TPPの戦略的価値には驚異的なものがあります」(英語版記録から筆者翻訳)
このくだりを読んだ時、筆者は愕然とした。何に愕然としたかというと、それはTPPの「戦略的価値」が「驚異的」だという言い方だった。端的に言って、これはタブー発言だった。国々の間の経済関係に決して戦略性を持ち込まない。これが、戦後の世界秩序を規定する本源的な国際的了解だったはずである。
二つの世界大戦に挟まれた戦間期の時代において、国々は経済関係の構築に戦略性をむやみやたらと持ち込んだ。この場合の戦略性という言葉の意味するところは、各種ある。天然資源の独り占めを実現すべく、資源豊富な国々と経済関係を結ぶ。広域市場を囲い込むことを目的に、相手を選別して経済連携を強化する。敵性国を排除するために友好国と一丸となって経済的要塞を構築する。こういうやり方で経済関係を戦略的に活用する。これを国々が競って追求する中で、ブロック経済化が進行した。行き着く先が第二次世界大戦だった。
この道を二度と再びたどってはいけない。この共通認識の下に、国々は戦後秩序を設計した。そこに、経済関係の戦略的利用が入り込む余地はなかったはずである。ところが、アホノミクスの大将は、TPPという経済連携構想には、経済をはるかに超える戦略的価値があると言い放った。これは戦後外交の基本ルールを大胆不敵に踏みにじっている。当時、筆者は強くそう思った。
この問題については、さらに注目すべき側面がある。ご覧の通り、アホノミクスの大将の発言については、筆者が英語の記録を翻訳した。その上で、公式の日本語訳がどうなっているかについても、見てみた。問題の「TPPの戦略的価値は驚異的」の部分は、英語版では"its strategic value is awesome"となっている。Awesomeは「スゲェー」のニュアンスだ。今時若者風にいえば「ヤベェー」と言い換えてもいいかもしれない。議会演説にはかなり品位に欠けるという問題もあるが、いずれにせよ、TPPの戦略的価値の持ち上げ方が凄い。
さて、そこで問題のこの箇所が日本語訳でどうなっていたかである。次の通りだ。「TPPには、単なる経済的利益を超えた、長期的な、安全保障上の大きな意義があることを、忘れてはなりません」「戦略的価値が驚異的」という表現は消えている。過激な戦略意識が薄められて、「安全保障上の大きな意義」というあいまい表現に入れ替わっているのである。恐らく、これは日本の外務省の慌てた取り繕いだろう。今後、タコ市さんの口から戦略という言葉がどんな形で飛び出すか。目が離せない。
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