【生乳需給で中酪要請】酪農9700戸割れ 家族経営支援に重点、離農高止まりに危機感2025年6月27日
中央酪農会議は、非系統を含めた「全参加型」生乳需給調整の強化、家族経営に重点を置いた支援の拡充などを求めている。24日の総会後の会見で、農相宛の要請内容を示した。直近の受託酪農家戸数が9700戸割れ、減少率5・9%と高止まりの実態も明らかにし、持続可能な酪農経営施策拡充に力を入れる方針だ。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
写真=離農が高止まりする中で、中酪の求めに応じ「酪農有事」を訴える生産者
(2024年12月、東京・JR有楽町駅で)
■今夏に都府県5000戸大台割れか
中酪は24日の会見で、直近の指定団体受託戸数が9697戸(4月現在)となったことを明らかにした。昨年12月の会見で受託戸数が1万戸の大台割れとなったとしたが、「経営離脱、酪農離農の高止まりが続いている。前年度で5・9%の減少率だ」と危機感を募らせる。
酪農は、大規模経営の多い加工原料乳主体の北海道と飲用向けで家族経営主体の都府県と分けて対応する必要がある。特に深刻なのは都府県の地盤沈下だ。
4月現在の都府県の受託戸数は5427戸(沖縄含む)、減少率6・9%。毎月350戸以上が酪農経営をやめている状況だ。このままでは今夏までに5000戸の大台を割り込むことは確実だ。この中では、後継者が比較的多いとされる東北、関東、九州でも離農が目立つ。東北で1300戸割れ、関東で1600戸割れ、九州に至っては900戸割れが目前に迫ってきた。
都府県の酪農生産基盤の弱体化は、自民党でも認識している。酪肉近のフォローアップを論議した先日の自民党畜酪委で、鹿児島選挙区選出の参院議員である野村哲郎総合農林政策調査会顧問(元農相)からは、加速する酪農家の離農を踏まえ「農水省は全戸調査を行い後継者有無の実態把握を急ぐべきだ。酪農家が減れば消費拡大どころか生乳が足りなくなりかねない」との問題提起もあった。
〇2025年指定団体別受託戸数(中酪調べ)
・北海道4270(95・4)
・東北 1324(94・2)
・関東 1616(92・9)
・北陸 178(91・3)
・東海 442(91・7)
・近畿 266(91・1)
・中国 420(94.4)
・四国 199(93・9)
・九州 936(93・1)
・都府県5427(93・1)
・全国計9697(94・1)
※2025年4月現在、都府県は5381戸+沖縄46戸の合計値
■小泉農相宛に「持続可能な酪農経営」要請
中酪は総会後に農水省要請を行い、小泉進次郎農相宛に持続可能な酪農経営の確立と生乳需給安定確保対策を求めた。酪肉近を念頭に5年後、10年後を見据えて内容だ。キーワードは「持続可能性」だ。
〇酪農経営及び生乳需給安定確保に向けた要請
・「別枠予算」確保と酪農生産性向上の推進
・酪肉近目標実現へ家族経営の維持・拡大などの施策充実
・国産飼料基盤の拡充は食料安保上も重要
・指定団体のリスク偏在を念頭に、生処一体となった生乳需給調整の環境整備
・生乳生産コストや生産状況を反映した合理的な価格形成の仕組みの構築
・「みどり戦略」なども念頭に、酪農経営の直接支払いなど政策的援の構築
特に、酪肉近目標実現に向けた施策の充実では家族経営の維持、振興を意識した。生産振興の支えとなっている畜産クラスター事業の規模拡大制限の撤廃や家族経営向けの施設・機械整備の支援、経営継承支援、暑熱対策支援などを求めた。
酪農経営安定には過不足に応じた機動的な生乳需給調整の実施が欠かせない。生乳流通自由化を促す改正畜安法に伴い、さまざまな課題が起きている。要請の中で、生処一体となった生乳需給調整の環境整備は、それへの対応だ。問題は過剰期の対応と打開策だ。現状は、脱脂粉乳在庫が積み上がり、酪肉近でも「需要拡大」を最大のテーマにせざるを得ない。改正畜安法で非系統の生乳流通が拡大する半面で、指定団体のリスクへ偏在の是正が大きな課題だ。
こうした中で、今年度からは農水省が補助事業の採択要件に「需給対応」を組み込むクロスコンプライアンスに動き出したほか、生処販で構成するJミルクは非系統傘下の酪農家も含む全国参加型の需給調整基金造成を具体化している。
ただ、現在の農相は、2015年前後の安倍一強体制下の「官邸農政」を自民党農林部会長として担った小泉進次郎氏だ。株式会社への転換も選択肢とした全農改革、現行指定団体制度廃止と複数生乳出荷先を認めた酪農制度改革を断行した一人でもある。家族経営への配慮や畜安法規律強化、国主導の生乳需給調整などにどれほど理解を示すかは不透明だ。
■輸入飼料依存と国産振興
畜酪最大のアキレス腱は輸入飼料依存だ。酪肉近でも国産飼料振興は焦点の一つとなった。今回の中酪要請でも「国産飼料基盤の強化は食料安全保障上も重要な柱だ」と位置づけだ。
特に課題となっているのが、「令和のコメ騒動」で主食用米増産に伴う飼料用米の大幅減産や耕畜連携解消の動きだ。飼料用稲以外にも青刈り水稲、発酵稲粗飼料をはじめ濃厚飼料代替の子実用トウモロコシ作付けなど、水田農業と畜酪の連携は、輸入飼料依存からの脱却には欠かせない。
■非系統流通48万4000トン指定団体を圧迫
改正畜安法下で非系統、自主流通業者の生乳取扱量が拡大している中で、24日の会見で寺田繁中酪事務局長は指定団体以外の直近の数量を「48万4000トン」と試算していることを明らかにした。
2024年度の指定団体受託乳量は682万8000トン、前年度実績対比100・2%とかろうじて前年度を越えて「着地」した。年度当初の出荷目標数量に対し13万9000トン少ない。北海道が脱粉在庫削減での減産の影響がまだ続いているのに加え、やはり都府県での急速な生産基盤弱体化、離農加速が響いた。
一方で非系統、自主流通の生乳は年々拡大し、24年度は50万トンを超えたとも見られている。中酪は自家消費などを差し引き「48万4000トン」と予測したが、いずれにしても50万トンの大台突破は目前だ。これは九州生乳販連の24年度実績53万5000トンにほぼ匹敵する大きさ。
問題は、自主流通の生乳拡大が飲用向けにほぼ特化し、用途別需給調整の混乱要因、特に年末年始、年度末の飲用不需要期の処理不可能乳の対応に支障が出ていることだ。北海道からの都府県送り生乳はホクレンを逆転することもあり、それだけ道内乳製品仕向けが増え、北海道全体のプール乳価抑制ともなりかねない。指定団体へのリスク・コスト偏重の典型だ。
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