(463)50年後の日本農業を「やや勝手に」展望する【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月28日
以下はあくまで個人的な展望です。個別の数字や項目を挙げるとなるとコラムでは無理ですので、現時点で想定できる「1つの可能性ある将来」と見て頂ければと思います。
「農は国の基」というが、長期的視点、少なくとも50年程度先を見据えた議論は、単なる予測というだけでなく、今日の現実的な政策判断をも左右する重要なポイントである。国連によると、2075年の日本の人口は8,765万人である。現在、111万人の基幹的農業従事者がいるが、将来的には激減が予想される。ただし、農業生産が基本的に土地と結びついている以上、耕作地はそれなりに残る可能性が高い。こうした状況の中では、農業用地を誰がどのように運営するか、これが今後最大の問題となる。
行政やJA、そして地域の農家がそれぞれの立場でこの問題に取り組むが、欧米における農業や他産業の事例を俯瞰すると、2つの大きな方向性が見えてくる。第1は技術による大規模な集約化であり、第2は絶対的な付加価値を生む小規模な農業である。
前者は、大規模法人化やスマート農業に代表される農業と言い換えて良いかもしれない。様々な技術を活用し、少人数で大規模農地を管理する、いわば「農地運営企業型」のスタイルである。これを象徴するのが農業のモジュール化であり、産業化である。この分野では農業生産のほぼ全てが標準化・スマート化、そして契約化される。その結果、サプライチェーンの垂直統合化という世界中の他産業で生じた現象と同様の事態が生じる。そこで最終的に力を握るのは生き残った食品・流通メーカーというよりも、しっかりと垂直統合を成し遂げた企業になる可能性が高い。
ここでの農業は、いわばインフラ維持・運営を兼ねた企業型農業としての特徴を強く持ち、いわば現在の電力会社のような役割に本質が変化する。
一方、後者は一言で言えば職人型農業である。地域ブランドや地場ワイン、果樹・観光農園などがその萌芽として育ちつつある。あれだけ大規模化し大量生産モデルを追及している米国ですら、この職人型農業は決して無くならない。地域ブランド(ワイン、チーズ、果樹)、健康志向(オーガニック、特別栽培)、観光・加工体験、文化的価値(超稀少作物の生産)、あるいは都市住民と連携したCSAや都市型農業など、独特の生き残り策はいくつも誕生し、各地に根付いている。ヨーロッパではフランス、デンマーク、イタリアなどにも同様の傾向が見られる。
こうした農業の二極分化は、恐らく日本でも着実に進展するであろう。試みに前者を企業型農業、後者を職人型農業としてみたい。50年後の両者の比率はどうなるか。おそらく、全国的には生産量でも生産額でも前者が7~8割、後者が2~3割程度で落ち着くのではないか。こういう点は農業経済学者による精緻な試算が求められる分野であろう。
注意すべきは、二極分化を農業の危機ではなく、一種の進化としてとらえられるかどうかである。生存に必要な絶対量としての食を生産・確保するための企業型農業と、食文化や食の多様性・高度な付加価値を担う職人的農業としての役割分担である。言い換えれば、食料安定供給のインフラとしての大規模な企業型農業と、地域文化と地域独特の食の担い手としての職人的農業である。
将来の日本農業の姿をこう考えると、行政やJAの役割は一層明確になる。個々の農家だけでは確実に維持できない生産基盤・インフラの維持、生産から販売に至るサプライチェーンに関する信頼できるデータ基盤の整備と提供、そして次世代の担い手対応である。とくに最後の担い手については、どちらの農業を指向するにせよ、希望者が参入しやすい具体的な制度環境を整える必要がある。
そのためには、個々の農家の支援だけにとどまらず、いずれの農業も地域として持続的に成立する土台を作り上げる、これこそが不可欠であろう。
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