農政:東日本大震災10年 命を守る協同組合
【特集:東日本大震災10年 命を守る協同組合】農林水産業の新たな発展誓う 東日本大震災復興祈念大会2021年3月18日
福島県の農林水産業再生のために消費者や行政とともに総力を結集しよう―と、同県内の農林漁業団体や生協連合会は13日、郡山市のユラックス熱海で東日本大震災10周年祈念大会を開いた。大会の決議には、(1)営農の再開、森林・林業の再生、漁業の本格操業の実現などの取り組みの強化(2)次世代の担い手が意欲を持てる農林水産業の構築(3)消費者との強固な絆を構築、地産地消の拡大を図る、などが盛り込まれた。祈念大会は同県の農協グループが主催し、県漁連、県森林組合連合会、県生協連、県農業会議などが共催。関係者約800人が参加し、震災から10年の活動をふり返り、農林水産業の新たな発展を誓った。(取材・構成:元ひたちなか農協専務・先崎千尋※)
オール福島で県民と手を携え全力で
大会では、最初に福島県農協五連の菅野孝志会長が、東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故により農林水産業が大きな打撃を受けたことをふり返りながら、「農林水産業の生産基盤は回復しつつあり、農業面では新規就農者も6年連続で200人を超え、希望の光が見えてきている。生産者の熱い思いを受けとめ、担い手の育成支援や生産・加工・流通を一体的に展開できる産地づくりに全力を投球しなければならない。そのためには、県民と手を携えていくことが大事だ」と挨拶した。
来賓挨拶では、亀岡偉民復興副大臣、井出孝利福島県副知事に続き、全国農協中央会の中家徹会長が、風評被害の払拭(ふっしょく)に向けて「国産国消の考え方で、福島の農産物は安全・安心だというPR活動を展開し、流通対策も含めて復興支援に力を入れていく。協同組合精神で活動を展開し、ピンチをチャンスに変えていこう。農業が元気にならないと日本は元気にならない」と訴えた。さらに、国際協同組合同盟(ICA)のアリエル・グアルコ会長からはビデオメッセージが寄せられた。
決意表明では、飯豊ファーム(相馬市)の竹澤一敏社長(被災地生産者)、あかい菜園(いわき市)の船生典文社長(台風19号被災者)、会津よつば農協青壮年部只見支部の吉津紘二さん(新規就農者)、陽(ひ)と人(国見町)の小林味愛社長(女性農業起業者)が登壇し、岩瀬農高の生徒が動画で発信した(別項)。
共催団体による協同メッセージでは、県漁連の野崎哲会長が「原発事故により水産業は壊滅的な打撃を受けた。これまで試験操業を続けてきて、200種類以上の魚が取れるように回復した。4月から本格操業が始まる。操業拡大を図るには風評対策、流通の回復が最重要課題だ」と強調した。県森林組合連合会の秋元公夫会長は「山林に放射性物質が残り、間伐が半分に減り、荒廃している。山菜やきのこも出荷制限がかけられている。森林・林業の再生を図る取り組みは緒に就いたばかりだが、やめることなく進めていく」と述べた。
消費者代表として最後に登壇した県生協連の吉川毅一会長は「もう10年なのか。まだ10年なのか」と会場に問いかけ、「協同組合運動の先駆者である賀川豊彦は、関東大震災の時に、『組合は被災者の目となり、耳となり、口となる』と言い、被災者に寄り添う活動をした。東日本大震災の復興のために、福島の生協は地産地消を進めるために、オール福島としてさまざまな活動に取り組んできた。生協は、福島を元に戻すだけでなく、協同組合間協同により新しい価値をつくり出し、よりよい社会をつくっていくことを目指していきたい。農林漁業の復興なくして福島の復興はない。『地産地消ふくしまネット』に結集し、皆さんとともに連携していく」と力強く誓った。
協同メッセージに続いて、福島市出身の俳優梅沢富美男さん、会津若松市出身の県しゃくなげ大使大林素子さん、古殿町出身で東京南麻布にある日本料理「分とく山」総料理長の野崎洋光さん※の応援メッセージが動画で放映された。
大会は最後に、県農業会議の鈴木理会長が、大震災と原発事故から10年を経ても残っている課題を解決するために、「農林漁業の復興・再生の取り組みを強化し、国・県・市町村との連携を進め、農林漁業者と消費者の協同に力を結集しよう」という大会決議案を読み上げ、満場一致で採択された。
困難乗り越え種まく 飯豊ファーム・竹澤一敏さん
大震災と原発事故により家族、友人、農地など多くのものを失った。見えない放射能は驚きであり、恐怖であり、不安だった。時の流れは残酷であり、誰もが10年年老い、復興は道半ばだ。しかし嘆いてはいられないので、仲間と農業の再生を目指して、震災の翌年の2012年に「飯豊ファーム」を創業した。地域の農家から復旧できた農地を借り上げ、行政の支援も受け、11haで始め、現在は85haまで規模を拡大した。水稲に大豆や小麦、野菜を作っている。
創業時からの多くの人の支援への感謝を忘れずに営農を続け、地域の人たちに毎年変わらぬ『農の風景』を届けていき、後世につないでいくことが私たちの責務だ。地域全体の農地集積を図り、新規就農のステップとなり、営農の継続、地域農業の振興に努めていく。
持続可能な農業を次世代へ あかい菜園・船生典文さん
農業を始めて11年。その間に2度の災害にあった。1度目は就農した翌年の東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故。10haの温室が被災し、作ったものは市場出荷停止で廃棄処分した。その時に一時農業生産法人を解散した。しかし消費者からの新鮮でおいしいという声に応援され、営農を再開した。
2度目は一昨年の東日本台風。トマト栽培の温室が浸水被害に遭い、ほとんどの設備と作物を失ったが、5か月後には回復させた。GAP認証も取得している。
私たちには震災と台風、コロナなど幾多の困難を乗り越えてきた経験がある。こうした経験を生かし、災害に強い農業を設計することで、持続可能な農業を次の世代につないでいける自信がある。あれから10年。今年も種をまいていく。
南郷トマト絶対守る 会津よつば農協・吉津紘二さん
私の住む地域は味の良い南郷トマトで知られている。2014年に就農した。青年の主張全国大会で最優秀賞になったこともある。南郷トマトの生産地帯は、冬に雪が多いため土壌消毒をしていない。出荷は7月中旬から11月初めまで。
東日本大震災の年、風評被害で売れるかどうかわからないままトマトの栽培が始まった。その年の7月に新潟・福島豪雨で被災し、その後も大雨や雪などによるハウスの倒壊の被害があったが、その度に助け合いながら一歩一歩進んできた。2018年には農林水産物や食品の地域ブランドを知的財産として保護する制度「地理的表示(GI)保護制度」に登録された。
南郷トマト生産組合が困難を乗り越えながらブランドを築いてきたように、福島県全体の農林水産物が特別なものになると信じ、トマトを作っていく。
共存共栄で福島PR 陽と人・小林味愛さん
震災時は国家公務員だった。がれき処理のボランティアに行ったが、役に立たなかった。その後、得意なことで福島に貢献したいと考えていた。2017年に縁があり、国見町で会社を設立した。規格外の果実などを直接東京に卸す物流と商流を始め、あんぽ柿の皮を使った化粧品を製造した。今では、全国の百貨店などで取り扱ってもらっている。
新型コロナウイルスの影響で、生き方とライフスタイル、デジタル化によってこれまでのビジネスモデルが変革期を迎えている。私は福島の地域で競争するのでなく、地域との共存共栄を目指したい。企業も生産者も手を取り合い、地域の伝統や歴史、文化を尊重し、それぞれの強みを生かしながら、新しいことに挑戦し、全国に、世界に美しい福島の力を伝えていきたい。
魅力と安全を発信 岩瀬農業高校生徒代表
グローバルGAP認証は2018年から始まった。きっかけは、福島農業振興に貢献したいということ、そのためには農産物が安全であることの証明が必要だったから。3年前のオランダ研修で福島の農産物は「デンジャラスフード」と言われたこともあった。
6学科で取り組んでおり、最初は米、キュウリ、リンゴなど6品目だったが、翌年には5品目増え、現在は18品目になり、高校では日本一。6次産業化、商品開発にも取り組んでいる。東京のホテル八芳園とも提携し、社会的な評価も得ている。
福島県の農畜産物の魅力と安全性を全世界に発信し、復興や持続可能な地域づくりに貢献したい。
※先崎千尋氏と野崎洋光氏の「崎」の字は本来異体字です。
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