アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
「世界秩序破壊の100日」という大見出しを1面に飾るのは毎日新聞(4月30日付)。アメリカ・ファースト(米国第一)ならぬ、アメリカ・バースト(米国破裂)を伝えている。
トランプの支持率低下
当該記事のリード文には、「矢継ぎ早に打ち出される政策や発信に世界が振り回されている」と記されている。
国内においては数々の極端な政策を推し進め、外交面では「米国第一主義」を掲げて「同盟国に高関税を課して負担増を求めるなど、世界経済の秩序も揺るがしている」ことなどから、支持率が徐々に下降線をたどっていることを伝えている。
米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」の各種世論調査(4月28日)では、支持率が45.3%、不支持率が52.4%となっている。
米紙ワシントン・ポストなどが25日に発表した世論調査では、トランプの関税政策への支持率が34%、不支持率が64%。関税が物価高に「否定的」な影響を与えると答えた人は71%。
これらから、「関税政策で再び物価高が加速すれば、批判の矛先がトランプ氏に向かうことは避けられない」とする。
秩序の瓦解に拍車をかける
日本経済新聞(4月30日付)の社説は、「世界は安定を取り戻すどころか混迷を深めてしまった」として、「現実に目を覚まし、国内外での秩序の瓦解に拍車をかけるような行動をやめるよう強く求める」と、トランプに呼びかけている。
ウクライナ戦争とイスラエルのガザ侵攻に関する仲介外交に関しては、「歴代の米大統領が重視してきた法の支配や領土の一体性といった原則を軽んじる現政権の姿勢は極めて問題がある」とし、「これらの重要性を改めて確認したうえで調停にあたるべきだ」と提言する。
関税措置については、「朝令暮改の政策決定はマーケットの変調をはじめ、世界経済の混乱を増幅させている。米国民を苦しめてきた物価高も長引かせかねない。標的となった多くの国で対米感情が悪化しており、米国の同盟関係をむしばむ恐れがある」と憂慮の念を示す。
140本超と戦後最多を数える大統領令については、周りをイエスマンで固めた「我流の政権運営」と頂門の一針。
唯一、しかし何とか「歯止め役」となっている司法に期待を寄せ、米国で三権分立が健全に機能することを願っている。
最後はお約束なのか、「世界の安定につながる行動をとるよう米国への働きかけ」「欧州をはじめ同志国と手を組み、自由貿易など秩序を保つ先頭に立ってほしい」と、植民地ファースト国ニッポンへの「無い物ねだり」。
米国と世界の共倒れ危機
「国際秩序と民主主義が、超大国から挑戦を受けている」で始まるのは、朝日新聞(4月30日付)の社説。
約100日前までなら、「超大国」がどこを指すのかと問われたら、誰もがロシア、中国、と答えたはず。それが今は米国。
社説子は、「この混乱の先にどんな世界があるのか不安が尽きない」と嘆息し、「『創造より破壊』の政権」と命名する。
そして、強みとしてきた外交資産、すなわち対外的な同盟・友好関係や世界を引き寄せるソフトパワー(人道主義や言論・学問など)を投げ出そうとしている姿に、「人権と知性を軽んじる米国になるなら、国際社会は離反していくだろう」と警告する。
支持基盤の白人労働層などの訴えに一定の理解を示しつつも、「国内の格差など歪みへの対処を力ずくの対外要求や国際的な孤立に求めるのは軽挙」と指弾。「米国が人口増や技術革新を続けられる源には移民や資本の交流があり、多様性を認める自由がそれを支えてきた」と冷静に分析し、「米国と世界を共倒れさせかねない危機感を米政財界と市民は共有し、政権に強く働きかけてほしい」と訴える。
失敗を繰り返す懲りない国
4月30日でベトナム戦争が終結して50年となる。
沖縄タイムス(4月30日付)の社説によれば、「ベトナムへの軍事介入に当たって米国側が繰り返したのは『南ベトナムが共産化すれば周辺国に共産主義が連鎖的に拡大する』というドミノ理論」だった。しかし、当時のマクナマラ国防長官が回顧録で「『歴史、文化、政治への無知』『ナショナリズムの力を過小評価』など、米国が失敗した理由を11項目にわたって挙げている」ことを紹介し、「米国は過去の過ちに向き合っているだろうか」と皮肉っている。と言うのは、「トランプ政権は、駐ベトナム大使を含む外交官らに対し、戦争終結50年に関連する行事に参加しないよう指示したという」ことからである。
そして、「米国は、またも同じ失敗を繰り返しているのではないか」と急所を衝く。
沖縄が無差別爆撃などの重要拠点であったことから、ベトナムの人々は沖縄を「悪魔の島」と呼んでいたそうだ。
米軍がベトナムで散布した悪名高き「枯れ葉剤」も、嘉手納基地や那覇軍港から輸送されたとのこと。
「米軍基地は、今も加害の拠点になる可能性をはらんでいる」と警鐘を鳴らすとともに、「ベトナムに和平を導いたのは、米国内はもとより、世界中で高まった反戦世論だった」ことから、「平和を求める声を上げ続けなければならないことを半世紀前の戦争は教えている」と記している。肝に銘ずべし。
米国と共倒れせぬために
NHKおはよう日本(4月30日7時台)が、モハマド・ババイ氏(映画プロデューサー、ガザのリアルを伝えるパレスチナ人)を取り上げた。氏が特に印象的な少女と語るのがザムザムさん(16)。この1年半で母親ときょうだい4人を亡くす。
「家族のあとを追って死にたかった。正直言って家族がいない人生は楽しくありません」と語るが、夢は心臓外科医になること。「ガザで起きていることを見て真実を理解してください。一人一人が虐殺を止めるために何ができるか考えてほしいのです。"自分には世界を変えることはできない"などと言うのではなく、真実と何が起きているのかを自分で探すのです。"他の人のために何ができるか"常に自分に問いかけてください」とは、ババイ氏からのメッセージ。
アメリカ・バーストに巻き込まれぬために。そしてアメリカをバーストとさせないために、何ができるか、当コラムも自らに問いかけ続ける。
「地方の眼力」なめんなよ
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