JAの活動:米価高騰 今こそ果たす農協の役割を考える
【米価高騰 今こそ果たす農協の役割を考える】値ごろ感に基づく制度設計 政府責任を明確に 横浜国大名誉教授・田代洋一氏2025年6月30日
米価高騰の原因はどこにあるのか。政府の需給見通しなどの検証は進んでいるのか。横浜国大名誉教授の田代洋一氏から見た問題について寄稿してもらった。
農政は、米価高騰の犯人を消費者ないしは流通業者と決めつけてきたが、それは見当はずれで、関心は作況指数の廃止とか、網目問題等の生産量把握に移行しつつあるが、その果てにぶつかるのは米生産そのものの現実だ。農業白書も、2022、23年と2年連続して、単年度需給不均衡に陥っていることを指摘した。
このように問題把握は推移するが、忘れてはならないのは政府責任だ。食糧法は「需給及び価格の安定」を第一に「米穀の需給の的確な見通しを作成」することにあるが、今回、本当にその努力を適切にしたのか。
第一に、年間を通じてフラットな消費者米価が2024年は年明けから上昇傾向にあり、6月ごろには明確になったが、政府はこの市場シグナルを無視した。
第二に、6月の需給見通しにおいて民間在庫158万tとしたが、経験則なり客観的根拠をもって158万tで十分と判断したのか。

注.相対取引価格は農水省「米をめぐる状況について」(2025年5月)、生産費は生産費調査、民間在庫率は農水省「令和7年4月末民間在庫量のポイント」によるもので「対象事業者の在庫量を全体の需要で割ったもの」。
図1を見られたい。4月末の民間在庫率26%は、2011年、2012年ほどではないが、農水省資料も「4月末在庫としては近年では最も低い水準」であることを追認している。6月末の158万tはさらに少なく、経験則的にみて危険水域にあった。図1で、相対取引価格の対生産費比率が100%前後で、その限りで需給がほぼ均衡しているとみられる2016~2019年の民間在庫率は27~29%で、2024・5年はそれより低い。
「値ごろ感」調整
米騒動の「不幸中の幸い」は、消費者は「農家がべらぼうにもうけているわけではない」、生産者も「米価が高ければ高いほどよいわけではない」と確認できたことだ。
その点について、本紙6月15日号はJA常陸の秋山豊組合長の発言を紹介している。生産者は60kg2万2000円は必要で、その場合の精米5kgの小売価格(税込み)は3,400円くらい見ている。2万2000円は、53%を占める1ha未満農家の生産費を踏まえた数字だ。
全国18紙と日本農業新聞の共同アンケートによると(7,110人回答、日農、6月8日付)、消費者の立場からする5kg当りの適正価格は2,000~2,500円が最多、ついで2,500~2,999円が多く、両者で半分近くを占める。そこで真ん中の5kg2,500円を消費者の「値ごろ感」とする。それを先の秋山報告を参考にして生産者米価60kg当りに換算すると1万8000円あたりだ。図1の元となった2023年の相対取引価格は1万5315円なので、消費者から見ても、米価は低すぎるといえる。

表1で、経営体総数の3分の2は1.0ha未満層だ。そこで例えば0.5~1.0ha層の生産費をとれば21,821円。こうして3つの生産者価格が得られた。
A.市場メカニズムに基づく相対取引価格...15,315円
B.消費者から見た「値ごろな生産者米価」...18,000円
C.生産者から見た適切な生産者米価...21,821円
Aについては、現在、「合理的な費用」を価格転嫁した「合理的な価格形成」が問われている。そこで例えば、①価格転嫁が進んで相対取引価格がB程度まで上昇したとして、②<C―B>を直接支払い制度で補てんする、といった制度設計はできないか。
②については、生産性上昇、基準階層の上層シフト等を見込んで、Cをもう少し低く抑え、他方で、実質賃金の引き上げ努力によって消費者のBを引き上げる等を通じて、減額可能だろう。
かつて食糧管理制度下では、「再生産を保障する」生産者米価と、「家計の安定を保障する消費者米価」の差額の食管赤字を国が補てんした。今さら、価格を国が決める食管制度にもどるのは時代錯誤だが、「再生産の保障」と「家計の安定」、その差額を国が補てんするというマインドは今日も引き継がれるべきではないか。
生産過程の課題
冒頭、問題は流通過程から生産過程に移りつつあるとした。都府県の水稲農家は2013~2024年にかけて、平均して△47.5%、1ha未満が△53.9%、1~2haが△41.9%、2~3haが△34.0%だ。水稲作付面積は2012年の164万haから2024年には151万haに減っているので(以上、農水省「米をめぐる状況について」2025年5月による)、規模拡大で離農跡地をカバーできていない。認定農業者や生産法人といった「担い手」に地域の農地を集積集約するという現代版構造政策=「地域計画」の結果は惨憺(さんたん)たるもので、現段階の課題は、集積集約より担い手育成にあることがはっきりした。
稲作農家減少の背後には、農業所得の低さがある。
表1の米生産費の労働費は1時間当り1,597円(製造・建設・運輸等の平均賃金)で計算されている。たとえば平均生産費15,944円近くに相対取引価格が決まれば、1時間当たり労働対価(≒)農業所得は1,597円前後になるはずだ。
しかるに経営統計による1時間当り農業所得はたったの58円! 3.0未満は赤字(表1で、生産費調査の作付け規模は水稲作付け規模、経営統計のそれは水田作付け規模で、前者の経営実像は、後者における1段上の階層のそれに接近する)。生産費調査の時給1,597円をクリアできるのは15ha以上層に限定され、政府はその層だけを「担い手」として支援する政策である。
米生産費調査の経営主の平均年齢は70.5歳だ。「機械が壊れるまでは続けようと思ったが、体が先に壊れた」、2024年の高米価も「離農への見舞金」といった声も聞かれる。
図1で2023年の相対取引価格は生産費の96%まで達し、生産費調査の労働費の時間単価の1,500円程度は農業所得として確保できそうなものだが、現実は58円。この差がどこから来るのかの解明も必要で、それにより直接支払いの設計も異なってくる。
農協の課題
「小泉農政」が言われているが、備蓄米の放出や随意契約は、すでに決められており、小泉の役割は参院選を切り抜けるための広告塔に過ぎない。独自の政策は「買取販売」の強調だが、これは安倍官邸農政時代の規制改革会議答申(2024年)が、農協つぶしの一環として「買取販売を数値目標を定めて段階的に拡大」とした点の蒸し返しに過ぎない。
しかし、買取販売は、共同販売を原点とする農協を、一般の集荷業者化するもので、経済的メリットはありうるが、それを一般化するのは共販組織としての農協の否定に通じる。
「合理的な価格形成」に向けて農協系統に必要なのは、自らの集荷経費、マージン率等を率先して公開していくことである。
今回の米騒動を通じて農協の集荷力の弱体化が改めて露呈した。それは共同販売や金額的な「買い負け」のせいだけではなく、「協同」の緩みではないか。支店拠点主義が形骸化し、農協組織の基盤である生産組合(農家組合)が高齢化等で空洞化した。営農指導職員の減少率は一般職員のそれを上回っている。
農協の2024年度決算は、「金利のある時代」への復帰に伴う有価証券等の評価損を表に出すことで、赤字決算になるところが多いのではないか。貯貸率の低い農協ほど有価証券に依存することになり、ダメージが大きい。
農協は、そういう困難な時期だからこそ、縮小再生産に追い込まれるのではなく、協同の地力を養わねばならない。とくに組合員活動の活性化に向けて教育文化活動等のための基金造成をする、営農指導事業の赤字額(コスト)に歯止めをかける、といった必要がある。また上述の生産現実は、農協が経過的に農業生産に取り組み、新規参入者等に継承していく仕組みを必要としている。
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