作況指数公表廃止よりもコメ需給全体の見直しが必要【熊野孝文・米マーケット情報】2025年7月1日
神奈川県の米穀小売店主によるとコメを買いに来た主婦から「お金がなくても不安にはならないけどお米がないと不安になるのよね」と言われたそうである。令和のコメ騒動は終わったわけではないが、一番の罪は国民を不安にさせたことだろう。市中で取引される6年産米のスポット価格は下値が見えないほど値下がりし続けている。また、外国産米も採算ラインを割り込むような売り物も出ており、状況は一変した。そうした中、小泉農相はコメ政策の見直しにも言及し始めている。その中の一つが水稲の作況指数公表廃止。これは事務方からの提言とされているが、廃止の理由は「生産現場の実感と合わないため」だそうだが、統計上のふるい目と農家が出荷する際に使用するふるい目が違うのだから実感と合わないのは当然だが、そのことと主食用米の供給量に誤差が生じるというのは別問題だ。
農水省は「水稲収穫量調査の課題と見直しの方向性について」と題して、作況指数と10a当たりの収穫量及びコメの収穫量に関して以下のように見直しの方向を示している。
① 作況指数
・作況指数は、過去30年のすう勢で算定した平年収量と比較した数値であるが、生産現場では前年や直近の収量と比較して作柄を判断。
・ 収穫量全体が平年と比べ多いか少ないかを示したものであるとの誤解を与えている面あり ⇒令和7年産から公表の廃止(今後、統計委員会での審議・ 総務大臣の承認が必要)
② 10a当たり収量及び米の収穫量
・ふるい目
生産者は、品質向上を目指し、収穫基準のふるい目(1.70mm) より大きなふるい目(1.85mmや1.90mmなど)を利用しており、それにより選別したものが生産者の認識する収穫量 ⇒収量基準となるふるい目を生産者が利用するふるい目に変更することの検討
・ 気象災害等による影響
生産者は、高温障害による未熟粒の発生や、精米歩留まりの 低下により、製品ベースでの収量の減少を実感 ⇒情報収集の強化や、精度の向上に向けた人工衛星データや収量コンバインなどの新技術を活用した取組の検討
生産現場の実感との整合性確保(公表内容の見直し)(イメージ)
・作況指数については、過去 30年間の収量のトレンドである平年収量との対比であり、 比較する傾向の高い生産者・関係者の実感とのずれの大きな要因(作柄)は前年との対比で示すよう変更し、作況指数の公表を廃止
・収穫量調査におけるふるい目については、1.70mmから生産者の用いる 収穫量の出来不出来を直近年比較する傾向の高い生産者・関係者の実感とのずれの大きな要因 (作柄)は前年との対比で示すよう変更し、作況指数の公表を廃止
・収穫量調査 におけるふるい目については、1.70mmから生産者の用いる1.80mm~1.90mmへの変更を検討
以上のような内容になっている。
単純にこの内容を読むとライスグレーダーの網目1.80mmから1.90mmを使った収量調査を
行うのだから、より生産者の実感に近い収量になると予想されるが、そのことと主食用米の供給量の相関とは一致しない。農水省はふるい目別の収量を調査して公表しており、それによると6年産米は1.85mm以下のふるい下米は25万t、1.7mm以下は15万t、合計40万tのふるい下米が発生したことになっている。すべての稲作農家が1.85mmの網目を使用したとするなら40万tは主食用供給量から除外しなければならない。しかし、実態はふるい下米を再選別して主食用増量原料として使われるためその分が減るわけではない。その相関は主食用米の価格が高くなればなるほど主食用増量原料になるものが増えるという構造になっている。裏を返せば本来主食用には向かない米菓、味噌など加工原料に向けられるものまで主食用途に吸収される。つまり生産統計の基準を現在の1.7mm上から1.85mm上に変更して、生産者の実感にあった収量に変更しつつも主食用の供給量が減るわけではないのだ。
それよりももっと根本的な問題は、農水省はコメの需給を発表する際、子実用と主食用を分けて発表していることで、コメの需給と言う場合「主食用」としてカウントされる生産量を指している。しかし、主食用米とはいったいどのようなコメを指すのか極めて曖昧だ。例えば同じ加工米飯であっても冷凍米飯は主食用ではないがパックご飯は主食用にカウントされる。もち米は、以前、包装もちは主食用にカウントされていたが、いつの間にか主食用扱いではなくなった。清酒用のかけ米も主食用にカウントされたり、されなかったりする。つまり何をもって主食用米と認定するかは農水省のさじ加減と言うわけだ。こうしたことが「用途限定米穀」の名のもとに平然と行われているので、まともなコメの需給見通しなど出来るわけがないのである。用途限定米穀と言う法律を廃止してコメを全体として需給を捉えなければ再びコメ不足騒動が起きる。
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