二重米価制で農政を刷新せよ【森島 賢・正義派の農政論】2025年4月28日
米価高騰が1年続いている。だが、未だに収まる気配はない。
米価が上がったままでは、消費者のコメ離れが加速する。そして、輸入小麦に代替するようになる。コメは日本の食糧安保の主柱なのに、その主柱が崩れてしまう。
だからといって、米価を下げれば農業者の赤字が続く。だから再生産ができなくなる。そして、脱農が加速する。食糧安保が根元から崩れてしまう。
どうすればいいか。
食糧安保を堅固にするには、消費者にとっては、安い米価を実現し、生産者にとっては、再生産ができるように、手取りの米価を補償する。それしかない。つまり、日本も、以前行っていたし、先進国では、どこでも行っていることだが、主要食品に二重価格制を採るしかない。
安全保障は政府の責任だから、二重米価制の採用も政府の責任である。
◇
農業者は「令和の百姓一揆」と名付けて、毎週、全国の各地でトラクターデモを行っている。それに多くの国民が参加している。沿道で声援を送っている国民も多い。
100年前の米騒動の再来という人もいる。あのときは、軍隊が出動した。それほどの激しい抗議運動だった。そうして、昭和恐慌、世界大戦へ連なっていった。
◇
だが、政治は煮え切らない。多くの政治家は、「令和の百姓一揆」に賛同するでもないし、反対するでもない。
参院選も近いから、賛同している政治家を、広く国民に知らせるために、ネットなどで大々的に公表したらどうか。そうして、惰眠を貪っている政治家を揺り起こしてはどうか。
政府は、いったい何をしているのか。
消費者向けには、どんなフリをしているか。
備蓄米を放出して、米価を下げるフリをしている。それに加えて政府は、農業者との堅い約束を破って、加工用に限定しているMA米を、主食用として市場へ放出しようとしている。また、韓国からの輸入を傍観して、米価を下げるフリをしている。
農業者向けには、どんなフリをしているか。
備蓄米を放出しているが、少量づつ放出することで、米価を下げる効果をやわらげようとしている。その上、放出米を買った業者に対して、1年以内に買い戻す義務を負わせている。そうして、米価をあまり下げないフリをしている。
◇
政府はいったい米価を下げようとしているのか、下げまいとしているのか、まるで鵺のようにみえる。
どうすればいいか。
答は単純である。消費者米価は下げ、生産者米価は上げればいいのだ。二重米価の採用である。それしかない。
◇
政府は、なぜ二重米価制の採用に逡巡しているのか。
一方では、食糧安保を軽視する、大企業中心の財界に忖度し、他方では、食糧安保を重視する国民に忖度していて、その狭間で立ち往生しているのである。
財界は、市場原理主義にしたがって米価を下げよ、といっている。そうすれば、労働力の再生産費が下がり、労働者の賃金要求の圧力を弱めることが出来て、資本による労働者の搾取を強化できるからである。
しかし、米価を下げれば、農業者が脱農して、いまでも低い食糧自給率が、さらに下がり、食糧安保が、いま以上の危機的状態になる。だが財界は、そのことを意に介しない。
国民はどうか。国民は米価を下げることは歓迎だ。しかし、食糧安保が、いま以上の脆弱な状態に陥ることに、強い危機感をもっている。
政治はどうか。財界に忖度しないと、政治資金がもらえない。国民に忖度しないと、選挙の時の票がもらえない。だから、財界と国民との間で立ち往生しているのである。
◇
どうすればいいか。
答は単純である。消費者米価は下げ、生産者米価は下げなければいいのだ。二重米価制である。これしかない。
政治家よ目を覚ませ。食糧安保の危機なのだ。
◇
最後に、幻想と暴論の2つを論評しておこう。
1つは、コメ輸出論である。平時はコメを輸出し、非常時になったら、禁輸して国内消費に廻せという主張である。
これは、輸入国の国民にとって非人道的である。それだけでない。事実に基づく論拠のない、幻しの空論である。彼らは、過去40年の間、同じことを主張してきたが、実現していない。40年間もの長い間、失敗し続けているのに、なぜ失敗しているのか、という分析もない。今度こそ成功するだろう、という根拠のない幻想である。
もう1つは、大規模化によるコスト削減で、生産者米価も下げよ、という主張である。そうすれば、米価を下げても農業者は耐えられる、というのである。これも長い間、主張されてきた暴論である。
これは小農切り捨て論である。切り捨てられた小農は、どうするのか。消えてしまえ、というのか。これは、国民は誰一人として切り捨ててはならぬ、という政治哲学を否定する暴論である。
それだけではない。小農を切り捨てることは、中山間地域の農地を捨てて、国内の生産量を減らすることになる。その結果、輸入食糧に、さらに大量に依存するようになる。そして、食糧安保を、さらに深刻な窮地に陥れる。その意味でも暴論である。
(2025.04.28)
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