JAの活動:プレミアムトーク・人生一路
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
元島根県農協中央会会長で県統一JAしまねの初代組合長などを歴任した萬代宣雄氏。農協は「組合員と共に」が重要と話し、状況が厳しいほど組合員に説明責任を果たし、苦楽を共にする必要があると唱える。新地平を開拓し、今日に至った足跡を聞いた。聞き手は文芸アナリストの大金義昭氏。
■68年には総理府主催の青年海外派遣事業研修(青年の船)でアジアに渡航します。
結婚して2人目が生まれ、母も具合が悪かったのですが、仲間が背中を押してくれた。妻の母も実家から通ってくれたので、今も頭が上がりません。
■71年には会社経営に挑みます。
矢野三葉共同養豚場にて。青年団交流会(萬代氏は前列左)
自前の代表を市や県の議会に送り出すために、選挙資金=「カバン」を築きたかった。水稲と養豚ではたいした金がつくれません。後年、多忙になって養豚経営からは撤退し、専業農家を断念しました。
■最初に立ち上げたのが自動車整備・販売会社の「出雲リペヤー(株)」で、次が農作業請負会社の「出雲ワーク(有)」「出雲生コン(株)」「ツーリストいずも(株)」、さらには社会福祉法人を設立し、保育園・特別養護老人ホームの運営などなど、すべてが地域や時代のニーズを先取りしてきました。
リペヤーは「車社会が必ず到来する」と予期したのと、たまたま弟が整備士をしていたこともあって創設しました。経営者はいつ誰がやっても良いように「萬代自動車」ではなく、「出雲」とさらに「復元」という意味のリペアーをもじって、語尾を「ヤー」に変えました。困った人の声に耳を傾け、周囲の期待に応えるうちに会社が増えてしまった!
保育園や特別養護老人ホーム(特養)などは国や自治体が認可する事業です。保育園は、やるはずだった人が降り、地域の皆さんから頼み込まれて引き受けました。特養も似たパターンです。
■新規事業の見極めがシャープで、思い切って引き受ける「決断」が潔い! 「スタートアップ」の極みです!(笑)
私は「運」だと思っている!(笑)。夜間保育もやっています。夜まで営業している知り合いのすし屋さんや夜勤のある看護師さんから「ぜひ」にと話を寄せられ、やることに決めました。ところが当時の市長は「産んだ者が責任もって育てるべきだ」と反対したので、私は反論した! 保育園を運営している企業から「譲ってくれ」という話があったので快諾したのですが、1週間したら「収支が合わないから!」と翻され、私が経営することになりました。
どの事業も、地域の人間関係から生まれ、地域の人間関係によって支えられ、今日まで続けてくることができました。よくいうのですが、多くの「良き友」に恵まれた。
■サッパリしていて、虚飾がない!(笑)
飾り立てる能力が端(はな)からないからね!(笑)。亡き祖父に似て健康で、病気らしい病気をしたことがない。「感謝」の一字です。(笑)
■遡りますが、75年に出雲市議に立ち、その後、7期28年務めて議長にも就任された。
初めて立候補した時は、親父とひと悶着あるだろうと身構えていたのですが、「ふーん」で終わり。「言っても聞かん!」とあきらめていたのかもしれません(笑)。議員は地域の有力者がなるものだと思っていたので、私自身に話があった時はかなり迷いました。しかし、他に道がなかったのも事実です。まあ、市議会議員は政治家というよりも、農道を管理したり、排水路を修理したりする地域の「土木委員」のようなものです!
■その後、2003年にはJAいずもの組合長に就任します。
JAの非常勤理事を長くしていました。2002年には次期組合長がおおよそ固まっていた。ところが友人が相談した霊感師によると、「その体制では農協がダメになる。萬代なら良い」と言ったと私を説得する(笑)。私は断っていましたが、ある日、飛行場から車で霊感師の家まで連れていかれて話を聞くと、「JA内部の動き」が当たっていて驚いた。そんなうそのような本当の話から始まり、結局、後に引けなくなって立候補し、組合長に選ばれました。
選ばれた以上は本気でやる。「半官半民」意識の改革、販売手数料の1%引き上げ、外部人材の登用、「おさいふカード」、ファミリーマートと提携したアグリマートなどを矢継ぎ早に進めました。販売手数料の引き上げなどは誰もが反対です。だから理論武装して臨んだ。賦課金をこれまで何に使い、営農指導にいくらかかる。必要な活動だから「持ち出し」でもいいが、農協経営が全体としてどう成り立つかなどを理解してもらわないといけない。上から押しつけるのではなく、理解を得ながら改革は進めなければならない。
■10年には島根県農協中央会会長になり、「一県一JA」に取り組みます。
そのきっかけは、島根大学教授が鳴らした「このままでは将来人口が大きく減少する」という警鐘でした。中央会副会長だった時に検討しようとなった。かつて90万人だった人口が当時は70万人、それが将来55万人になるという。これは「国の予測」ですが、その予測通りに減ってきた。検討の結果、「足元の明るいうちに」合併にかじを切りました。反対あっての決断でしたが、反対のない改革は改革ではありません。97%の総代から賛成をいただきました。
■合併したJAしまねの現状は?
状況が厳しければ厳しいほど、組合員に説明責任を果たし、苦楽を共にする必要がある。上からの号令で事業を展開しているように見えるのが気がかりです。
■前後しますが06年には「新世紀JA研究会」を立ち上げました。
ご承知の通り、農林中金や全中の問題が単協にも影を落としています。過去を嘆いていても仕方がないので、やはり「組合員と共に」が重要です。同じことをするにしても、職員も組合員も巻き込み、議論を重ねて方向づけをする努力をしないと禍根を残します。
誠心誠意、何事も基本を貫けば光明が見出せる。思ったようにいかなかったこれまでの経験の積み重ねが肥やしや種になり、今の自分があると感謝しています。「お天道様」は必ず見ているということだわね!(笑)
【略歴】
ばんだい・のぶお 昭和17(1942)年3月島根県生まれ。中学校卒業後、昭和35(60)年就農。多数の企業経営の傍ら、昭和50(75)年から出雲市議7期。平成15(2003)年にJAいずも組合長、平成18(06)年新世紀JA研究会立ち上げ。JAしまね(県1JA)初代組合長、JA全農副会長などを歴任。
【余談閑話】
斐伊川水系を擁した出雲は古来「鉄の国」の異名を誇った。木炭で砂鉄を燃焼させる「たたら製鉄」法は、日本刀の製作に欠かせない最上質の「玉鋼」(たまはがね)を生み出す。
農協運動の優れたリーダーであり、「萬代グループ」を率(ひき)いるたたき上げの実業家の顔を持つ萬代さんは、出雲の「玉鋼」と言ってよい。強靭な鋼(はがね)の輝き、熱鉄の魂、触れれば血の出るような切れ味など「玉鋼」の美質をいかんなく発揮し、常に時代の魁(さきがけ)を務めてきたからである。
骨惜しみをせずリスクを背負い、信義を貫いて嫌われることを厭(いと)わず、決して覇権を求めない萬代さんの限りない優しさ、「一寸坂なし」の苦労人の魅力に引き寄せられた。(大金)
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