コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
備蓄米が売却されているにも関わらず、一向に値下がりしないコメの価格。農水省が28日に公表した4月14日から20日の週の主要スーパーの店頭価格も前週に比べ3円値上がりして5キロ当たり4220円となり、16週連続で最高値を更新し続けている。また、市中で取引されるスポット価格も関東コシヒカリクラスで、置場4万5000円で買われており、一向に値下がりする気配がない。値下がりしない要因はいくつかあるが、先行きの価格を最も不透明にさせているのが備蓄米の「買戻し条件付き」という運用方式である。第3回目の備蓄米入札では2回目まで参加していた全農県本部が「備蓄米を返す目途がない」との理由で応札を辞退した。慌てたのがそこから備蓄米を購入していた卸で、「応札業者を大手集荷業者に限定せずに、すでに農水省に登録している備蓄米買い受け業者にも入札に参加させるべきだ」と怒っている。
スーパーのコメ売り場を見て回ると、備蓄米を原料としているブレンド米が置いてあるスーパーは少なく、ブレンド米どころか一般の銘柄米もなくなり、売り棚がスカスカになっているところの方が多い。こうしたコメ売り場を見ているとこれから端境に入り、さらに深刻なコメ不足騒動になる恐れも感じる。困っているのは、一般消費者だけではなく、最も深刻な事態に陥っているのが、清酒、焼酎、米菓、味噌、米穀粉、包装もち業界など伝統的コメ加工食品業界で、これらの業界は一般主食用米も使用していることから備蓄米売却を含め5項目からなる要請を農水省に行ったが、いまのところゼロ回答で、このままいくと7年産の加工用米や酒米、もち米の仕入れが困難になると予想されている。
備蓄米運用については与党からも批判する声が上がっている。一つには価格が高いということで、与党議員の中には卸がマージンを取り過ぎているという批判する議員もいる。農水省の調査によると、全農等の備蓄米落札業者から1俵当たり2万2402円(税別)で買い受けた卸業者は中食・外食事業者に3万2902円で、小売業者には3万4112円で販売しており、こうした販売価格を見せられると与党議員は卸がマージンを取り過ぎていると見るのかもしれない。
では、卸業者全体ではどうなっているのか推計してみると、コメ卸業界団体の理事長は全農系統等からの仕入れ量は前年の7割で、残り3割が不足したと言っていたので、これをベースに仕入れ価格を推計してみる。全農系統の販売価格は農水省が公表している相対価格とほぼイコールなので、この分の平均仕入れ価格は60キロ当たり2万3959円になる。残り3割がスポット市場や産地業者からの直接購入等などで、2割を3万5000円、1割を4万5000円で仕入れたとすると、全体の平均仕入れ価格は2万8721円なる。この仕入れコストから諸経費や卸・小売マージン31%を加算すると5㎏当たりの小売販売価格は3632円になる。この価格を見ると確かに現在の店頭精米価格で販売されれば、卸は儲かる。実際、上場している卸の決算では、コメ不足騒動で最高益を計上、株価が3倍になった卸もいる。この卸の大株主は全農や農林中金と大手卸で、この株主構成を見るとコメ業界の構造が良くわかる。最高益を上げたのはこの卸だけではなく、最も儲かったのは他ならぬ農水省で、備蓄米の売却で1俵8000円の利益を上げている。このことを知っている議員の中にはこの利益を買戻しのときの財源に使うべきだと言っている。
買戻し条件の要領では「「1、乙(買い受け業者)は、政府が売渡しを行った政府備蓄米と同等同量の国内産米穀(農産局長が定める産年の米穀に限る。)について、農産局長が定める期日までに政府に対する売渡しを行うこととし、当該売渡しに係る契約を政府と締結する。 2、乙は、前項の農産局長が定める期日について農産局長に対して協議を行うことができる」となっている。これによって農産局長と全農が相談、最も良い時期に備蓄米を買い戻すこと出来る。つまり、買戻しは原則1年以内となっていたが、協議を行えば延長も可能なわけだ。ただし、いつでも良いというわけではないので備蓄米を買い受けた全農系統は7年産米の集荷目標を大幅に引き上げて返す準備をしなくてはならない。ホクレンのように力のあるところは7年産米の主食用米の生産量を引き上げて返す準備に入られるが、そうでないところは3回目からの応札を辞退するという選択をしなくてはならなくなったということだろう。全農系統にとってはコメの集荷にプレシャーを掛けられたわけで、これまでのような集荷対策では目標は達成できないため新たな対策を詰めており、生産者組合員に対してより拘束力のある契約を結ぶ必要に迫られている。
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