JAの活動:2025国際協同組合年 今こそ果たす農協の役割
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(1)2025年9月18日
新自由主義が跋扈する時代、「協同の営み」を前進させるには、協同組合役職員の学びと成長が欠かせない。国際協同組合同盟(ICA)も「教育と研修、広報」の重要性を説く。食と農を支える協同組合、JAの担い手づくりは、どんな課題に直面し、どこに向かうのか。二度目の国際協同組合年にあたり、JA鳥取県中央会の栗原隆政会長とJAみえきたの生川秀治組合長に話し合っていただいた。(司会は文芸アナリスト・大金義昭氏)
改革は情報・教育絡め
JA鳥取県中央会会長 栗原隆政氏
大金 2025年は国連が定めた「国際協同組合年」(IYC)です。何かと困難な時代にJA運動の担い手をどのように育てていくか、栗原さんから早速始めていただけますか。
栗原 鳥取県内でもJAの事業総利益が下がっています。以前は金融・共済事業の稼ぎで営農事業を支えてきましたが、これからはそれが難しい。そう考えて、JA鳥取中央では営農事業の利益を上げる改革を進めてきました。手数料の引き上げや支所の統廃合には組合員の強い反対もありました。しかし、理解ある組合員に「改革しないとJAが持たんというなら」と協力していただきながら、おかげで何とか改革をやり遂げることができた。JA鳥取中央は条件に恵まれ農業が盛んな地域で取り組みやすかった面もあります。金融・共済、営農事業と並んで教育事業もなくてはならない経営の柱です。
経営上の数字ばかり追いかけていると、最後は必ずダメになる。二宮尊徳が説いた「経済・道徳一元」がこの時代にも重要です。経営改革ではどうしたって無理を言わなければならない場面もあるわけですが、組合員あってのJAなので最終的には組合員の結集につながる取り組みが強く求められます。
生川 私も組合長に就任した時に、全職員に発信したメッセージで二宮尊徳について触れています。県信連理事長だった前歴から、職員間では「推進が厳しくなるぞ!」といううわさが流れたとか(笑)。そうじゃないよと。先ずは「道徳」を基本に据えるんだ、ということですね。「道徳なき経済は犯罪」であり、同時に「経済なき道徳は寝言」であるというじゃないですか。両方きちんとするのがJAの役割です。
求められる経営の自立
「失われた30年」の間はデフレでしたから、職員の給料を上げなくても済みました。これからはそうはいかない。JAのビジネスモデルはもともと政府支持価格に支えられた米穀事業で、その後に信用・共済事業の時代が到来しています。この30年、JA経営は何で持ってきたのかといえば、①連合会の力、②組合員の協力、③職員も推進や対話ができたことです。ところが今や連合会頼みの経営は許されない。自立する経営がJAに求められています。
栗原 組合員も世代交代し、JAに対する理解が希薄になっている。「今だけ、金だけ、自分だけ」の風潮がJAの事業・活動の現場にも深く浸透しています。
生川 組合員の考え方がこの間に変わってきましたね。資本主義経済・社会だから、組合員が普段相手にしているのは株式会社が多い。経済事業でもJAの方が良かったら使うよ、といった選択肢の一つに考えている。商業ベースの競争が求められる中で、商系に勝てなければJAから組合員が離れてしまいます。小さな兼業農家の子息などは、集落の草刈りなど共同作業にも出てきませんしね。
栗原 以前は、普段からJAと組合員との間には頻繁な往来があった。コロナ禍の影響も大きい。お互いに今は情報発信も対話も足りない。正組合員はもちろん、准組合員ともJAがどのように親密な関係を築くかが喫緊の課題です。
生川 私が組合長に就任した時は、営農経済事業が8・5億円の赤字でした。四つのJAが合併した時に、手数料を1番低いところに合わせたためにタダみたいなものでした。「手数料を引き上げよう」と提案したら、「JAはこれまで何してくれたの?」と組合員からコテンパンにたたかれた(笑)。ところが職員がメロンの販路を探してきたら、随分喜んでくれて組合員の方から「手数料上げたら」と言ってもらえた。組合員が何を望んでいるのかということなんですね。
直売所もJA合併の前のままで、隣の直売所への出荷もままなりませんでした。そんな時に地元のスーパーから「売り場のいい場所に組合員さんの農産物を出して欲しい」という声が掛かった。出荷先が遠くなるとかブツブツ言っていた組合員もいましたが、「JAみえきたの未来を賭けてやるんだ!」と説得しました。スーパーで売り出したら農産物が1日2回転し、売り上げがどんどん伸びた。売り上げが増えれば所得が増え、やりがいが生まれます。組合員も喜び、消費者も喜ぶ。これが身近なビジネスモデルの一例なんですね。
栗原 農家は作る方は得意だけれど、売る方は苦手です。起爆剤になったのは確かに直売所で新しい結集軸が生まれ、直売所を情報発信基地として有効活用しました。ただ、直売所は少量多品目ですから、産地としては個人で売るよりもJAで、JAで売るよりもJA全農でと大きなロットが強みになり、コストも下がる。
農業体験で生消心寄せ
JAみえきた組合長 生川秀治氏
大金 多様化する組合員に対してJAの価値をどう伝えるかですね?
栗原 やっぱり情報発信と組合員との接点づくりに尽きる。可能な手段をフルに活用して発信すると、「JAってこういうことをしていたんですか」という理解をいただける。農家出身の職員も少なくなりました。そこでちょっと宣伝になりますが(笑)、対話のきっかけづくりに役立てていただきたいのが家の光協会の「JAサテライトプラス」事業です。この事業で提供する多様な体験動画などを対話のきっかけにしてもらいたい。
大金 広告代理店のリーディングカンパニーの商品拡販戦略にかつて「Know me Love me Respect me」というキーワードがあった。「知って、愛して、尊敬して」もらえないと商品は買ってもらえない、というのです。これはJAと組合員との関係にも当てはまりますね。
生川 子どもの農業体験や子ども食堂、フードバンクなど、市民に対するJAの情報発信やアピールはどこでも頑張ってやっています。JAみえきたでは「マッチングギフト」と称して、利用者が寄付をしてくれるとJAが同額を上乗せした合計額を寄付する。それを米でやりました。20俵寄付してもらって、JAが20俵出して、40俵の米を子ども食堂に寄付しました。貯金をすると子ども食堂に直売所で使える野菜引換券を贈れる、という定期貯金も開発しました。そんなことでJAを知ってもらっています。
JA合併10周年では、JAのマークやマスコットキャラクター付きの雨傘を管内の小学1年生全員に寄贈しました。約5000本になります。
栗原 JAの強みは何といっても「食と農」ですよね。この強みを切り口にこれまでも豊富な事業・活動体験をJAは重ねてきましたから、これを切り口にもっともっとJAに心を寄せてもらえるような取り組みを積み重ねていきたい。食料安保について考えてもらうにも、「農作業って実は大変なんだよ」というリアルにも触れてもらう必要がある。総合学習でJAが講師を派遣して食農教育ができれば、親にも伝わりますからね。
ところが農業やJAについてまだまだ知らない人がたくさんいる。最近私は、「PDDCAサイクル」だと考えています。Dには二つの意味があり、従来のDだけで仕事が完了するなら自己満足にすぎません。もう一つのDはディスパッチで、さらに「発信」することで仕事は完了するものです。また、発信して終わりでも自己満足であり、当然どれだけ伝わっているのかというC(検証)が必要です。
大金 ヨーロッパの市民社会などでは一次産業に対するリスペクトが高いのに、この国ではなぜ農業やJAに対するバッシングが繰り返されるのか。トランプ関税などをめぐっても「自動車などのために米を犠牲にするのは許せない!」といったような世論が高まってもいいと思うのですが。
価格でない商品力必要
栗原 国産と輸入品が並んでいたら、農産物は国産を選ぶという人はありがたいのですが、圧倒的に多いとまではいえない。「安い方がいい」という生活者の現実もあるから、それをどうするか。
生川 政府備蓄米を大量に放出し、輸入米も増えましたが、スーパーをみても安い米から順番に売れていくわけではない。安い米を買いたい人もたくさんいますが、銘柄米を買いたい人もいる。価格だけでみんなが動いているわけではありませんね。
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