JAの活動:2025国際協同組合年 今こそ果たす農協の役割
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(3)2025年9月18日
新自由主義が跋扈する時代、「協同の営み」を前進させるには、協同組合役職員の学びと成長が欠かせない。国際協同組合同盟(ICA)も「教育と研修、広報」の重要性を説く。食と農を支える協同組合、JAの担い手づくりは、どんな課題に直面し、どこに向かうのか。二度目の国際協同組合年にあたり、JA鳥取県中央会の栗原隆政会長とJAみえきたの生川秀治組合長に話し合っていただいた。(司会は文芸アナリスト・大金義昭氏)
JA同士の連携重要に
JAみえきた組合長 生川秀治氏
大金 OJT以外に取り組んでいることは? これまでの延長線上でいいのかどうか。
栗原 OJTとOFFJTがありますが、やはり外部研修に出るとかいうことは自分で手を挙げて行くくらいでないと学びが身に着かない。営農指導員だった頃、この研修は行かせてくださいと自分から申し出て、いろんなことを学んで持ち帰りました。
優秀な職員に対しては、将来のJAを背負って立つ人間として育ててきた。経営者層もほとんどが職員出身です。だから、職員の時から鍛える必要がある。
生川 組合長になった当時、常勤役員が金融・共済事業の経験者なし、営農経済事業を担ったこともないような人たちでした。どんなに有能でも職員は58歳になったら役定で、夢も希望もない。部長になるのが55歳くらいで、3年で平(ひら)に戻る。それだと55歳で部長になるのがゴールになっちゃう。
「これじゃあ、職員にやる気も夢もなくなるよ!」と、今回は学経理事を2人加えました。正職員だけで670人いるので、JAの未来を担っていきたいという意志や能力のある職員を選りすぐって、育てていく仕組みをつくろうとしています。全職員にまではなかなか目が届きませんが、リーダー候補は時節ごとにしかるべき経験を積ませなければ真のリーダーにはなれませんからね。
栗原 常勤役員になった時に、職員の延長線上でやってもらっては困るということもあります。役員と職員とでは立場が違う。職員の時から教育しておかないといけない。
大金 連合会と単協の人事交流はありますが、単協同士の人事交流は?
栗原 やろうとしたけれど、それぞれに家庭の事情などもあって難しかった。単協・県・全国段階の縦と横同士の交流は出来るだけした方がいい。
生川 JA同士の人事交流は難しい面がありますが、簡単にできることは、参考にしたいJAとパイプをつくり、定期的に交流して意見交換をすることですね。互いに訪ね合って勉強し、一杯飲めば人間関係ができ、電話一本でも話ができるようになる。
栗原 いかに有効なネットワークをつくるかということですね。中四国管内では、JA中央サミットを定期的に開催しています。
数字だけより調和図り
JA鳥取県中央会会長 栗原隆政氏
大金 最後にどうしたら「やりがい」があって、JAを理解していただける組織・職場風土にしていけるか。総括的にどうぞ。
生川 中小企業の経営者って全人生を賭け、社員の生活も双肩に掛かっているじゃないですか。だから命懸けですよね。JAの経営者って命懸けで、人生を賭けてやっているのでしょうか。これは私自身に対する日ごろからの自問自答なのです。マーガレット・サッチャーは「私は戦わない日は1日もなかった」「一つ妥協すると、次々に妥協しなければならない。だから何事も成し遂げられない」と言っていました。
今も52支店あって、店舗統廃合しないことにはもたないですから、どんなことがあってもやる。一度計画したのに、ある地区で統合とりやめを認めちゃったら、うちでも、うちでもと将棋倒しになる。だからやるときには強い気持ちをもってやり遂げないといけないと思っています。地域ごと、あるいはJAごとにどのように新たなビジネスモデルをつくるかを真剣に考えないとダメですね。
大金 「常在戦場」ですね。生き残るためのビジネスモデルの中心に「担い手づくり」「人づくり」があるというのが今日の座談会の位置づけです。
栗原 「経済と道徳」の両立ということで、最終的には組合員も職員も幸せになることが大事です。JA鳥取中央では経営改革を先取りしてやって来ました。計画を立てたら信念をもって計画に挑む。JAは組合員の生活に必要な事業をずっとやってきましたが、これからはJAが自己完結的にすべてを引き受けるのはやめて、任せられるところは他に任せたり連携したりしながら「選択と集中」でやっていく。
国際協同組合年に当たり、協同組合同士の連携をいかに実践していくか。加えて、新しい取り組みではないけれども資材店舗でも他の資材業者の店舗と連携し、JAの資材を売ってもらうとか、互いに連携してウィン・ウィンの関係を築いていく。数字ばかりを追いかければおかしくなるので、そのへんの調和を図りながらやっていくということですね。
大金 男女共同参画については?
栗原 JA鳥取中央は男女共同参画を以前から進めてきました。直売所の店長は全員、消費者目線に長けた女性だとかね。正組合員や総代の女性比率向上にも力を入れてきました。「なりたくない」という人もたまにはいますが、女性管理職は多い。
生川 多分に変わってきていると思いますよ。女性登用に、みんなそんなに抵抗感がない。一人しかいないとなれば大変でしょうが、実際に増えてくれば抵抗感も減っていきます。職員の女性比率も増えているので、これからは自ずと加速すると思いますね。
大金 率直な話をありがとうございました。
【座談会を終えて】
"酷暑の夏"をさらに"熱く"する議論をお願いし、その通りに応えてもらった。栗原さんはJAの営農指導員がキャリアの原点であり、生川さんは県信連をけん引してきた金融畑のキャリアをベースにしている。
この夏、家の光協会会長を退任した栗原さんには「人づくり」に寄せる強い思いがある。職員の成長と幸せを大切にする「人的資本経営」を標榜(ひょうぼう)する生川さんと、どんな会話になるか楽しみだった。
ご両人から期せずして飛び出した二宮尊徳の名前に、協同組合人としての矜持(きょうじ)が感じられた。とかく理念的になりがちなIYC2025の議論が身近に迫ってくるのは、ご両人が優れた実践家であるからにほかならない。その「やる気」や「本気」をお裾分けいただいた座談会である。(大金)
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