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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2014.10.20 
農協を全面否定する中央会監査の廃止案一覧へ

 安倍晋三首相は、農協の中央会制度を法的に否認する、と言い続けている。
 そこで浮上してきたのが中央会監査である。全中と県中から、その主要な業務である農協監査を取り上げるという。農協の監査は、農協監査士ではなく、一般の企業と同じように、公認会計士に任せる、というのである。
 中央会監査は、その歴史的役割りを終えた、という。だが、それは戦後まもなくのデフレ経済による農協経営の悪化が終わった、というだけである。農業者が経済的弱者から経済的強者に変わったわけではない。

 経済的弱者の集まりである協同組合に、独自の監査制度が必要なのは、古今東西にみられることである。
 日本の農協の中央会監査制度は、ドイツを見本にしたものだし、戦後になって作ったものでもない。すでに明治のころから、農協の前身である産業組合は、監査を重視していて、90年前の1924年(大正13年)には、産業組合中央会に監査部を作った、という歴史がある。
 こうして、先人たちが創り上げた歴史的成果を、実態を見ぬままに、ドリルで破壊し、捨て去ろう、というのが政府の考えである。

 農協の監査と一般企業の監査とは、監査の目的が違う。
 公認会計士が行う一般企業の監査は、法令に基づく公正な財務処理と、投資者、債権者の保護が目的である。
 一方、農協中央会が行う中央会監査は、それに加えて、農協の健全な発展を目的にしている(農協法第73条の22、第73条の15)。農協の健全な発展は、農業者の経済的社会的地位の向上による、国民経済の発展が目的である。
 業務の目的が違う。だから、その内容も違う。

 ことに日本の農協は、その多くが総合農協で、多くの部門の有機的な関連のもとで活動している。消費生活活動などの利益を出さない部門も含んでいる。これらを総体的にみながら監査し、その目的を達成することになる。
 こうした監査は、農協の業務を熟知し、かつ、農協運動の目的の実現に使命感をもつ農協監査士こそが適任である。

 それにもかかわらず、なぜ政府は中央会監査を廃止しようとするのか。
 それは、農協を利益追求のためだけの一般企業と同じにしたいからだろう。だから公認会計士の監査で充分と考えている。ことに最近、西川公也農水相は、農協は利益追求を唯一無二の目的にせよ、という考えのようだ。

 この考えの先には、中央会制度の否認と、連合会制度の否認がある。
 単協だけは、協同組合として法的に認めよう、という。だが、その業務部門から信用、共済部門を剥ぎ取り、また、消費生活部門を別組合にするなどして、購買部門と販売部門の経済業務だけにしようとしている。そうして、経営的に成り立たないようにし、農協を跡形もなく無くしてしまおう、というのだろう。
 そうして、経済的弱者を経済的強者と1対1で競争させ、経済的弱者を屈服させよう、というのだろう。

 政府は、今年中に農協改革法案をまとめたいようだ。全中は政府に急かされて、来月中旬に自己改革案を決める、といっている。あと1か月もない。
 農水相は、一方で、自己改革を求める、といいながら、他方で、「安倍内閣は方向性を打ち出してある。…(全中は)同じ方向を向いてもらって改革していかないと駄目」(BS日テレ、9月29日)と明言している。これでは自己改革にはならない。権力を背景にした強権改悪というしかない。
 いま、農協に戦後最大の危機が迫っている。


(前回 農業者を愚弄する所得倍増計画

(前々回 米価下落でほくそ笑む人たち

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