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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2016.01.12 
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 郷里のM君と、久しぶりに四方山話をした。中学生のときからの友人である。
 彼の村では、最近「働き者番付」を発表したそうだ。彼は第5位になった。相撲でいえば、横綱を別格として東小結になる。82歳でようやく三役入りを果たしたわけだ。
 正月とも重なって、彼は、よほど嬉しいようだった。同時に、村の人たちの、年寄りに対する暖かい眼差しを見たように思った。それは、競争社会では見られない協同社会の暖かさだ。

 第1位の東大関は、92歳の大先輩だという。村のことだから、実力と同時に年功序列も加味したのかもしれない。村の智恵である。そのほうが、若い働き者も納得しやすい。
 君も第1位を目ざして、あと10年がんばれ、とエールを送った。その後も10年くらいは頑張って、横綱を目指せ、と励ましておいた。

 第1位の大先輩だが、彼は毎日トラクターに乗って、上州名物の空っ風の中を、元気よく走りまわっている。なぜトラクターか。
 あるとき、彼は「年寄りになったのだから、車の免許は返上したほうがいい」といわれた。テレビでもそう言っていた。素直な彼は、それに従って免許を返上した。
 だが、すぐに後悔した。車がなければ村では暮らしにくい。田んぼへ出るのも億劫になる。そこで思いついたのがトラクターというわけだ。

 農政でも同じようなことがある。
 年寄りは田んぼを手放せ、という農政が横行している。テレビでもそう言っている。手放した田んぼは、町の企業が集めて大規模農場にするのだ、という。そのほうが強い農業になる、という。そうして、TPPに加盟し、国際競争に勝ち抜くのだそうだ。国際化は避けられないのだそうだ。国際化のために、年寄りは田んぼを手放せ、という理屈である。
 年寄りを邪魔者扱いにする農政である。年寄りは国際化を妨害する悪者だから排除する、という農政である。

 しかし、こんどは素直で村一番の働き者の92歳の年寄りもマユにツバをつけるだろう。彼が田んぼを手放したとして、効率一辺倒の企業が、92歳の彼を雇うはずがない。たちまち、働き者番付の最下位に落ちるだろう。そんな国際化は要らない、と年寄りは考えるだろう。
 村の若い働き者も、年寄りが田んぼにいなくなり、トラクターに乗って、村を颯爽と走り回る年寄りがいなくなるのを、いいことだ、とは思わない。だから、村じゅうでTPPに反対している。
(2016.01.12)

(前回 農協運動のねじれ

(前々回 山下氏の空論が日本の農業を滅ぼす

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