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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2016.12.19 
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 農協研究の第一人者である太田原高昭教授が、新しい著書を出版した。「新・明日の農協」である。いまを生きる農協運動人の必読の書になるだろう。
 ここで、私なりの読後の感想を述べてみたいと思う。著者は、以下のように言っている。
 いま、農協は新しい段階に入っている。明日の農協は、昨日までの農協の続きではない。昨日と明日の間には不連続線が引かれている。
 それに対応して、農協運動は、昨日とは全く違った新しい段階に入ろうとしている。それは、かつて農協が政権党と一緒になって農政を動かした、古き良き時代への回帰ではない。政治との関係の結び方の、自由で抜本的な変革である。
 新しい農協運動の象徴的な出来事が、今年7月の参院選での組合員の自主投票である。この選挙で、多くの農協は特定の候補者の推薦をしなかった。

 かつて、農政には、鉄のトライアングル(三角形)といわれる強固な政策決定の機構があった。農協と政権党と農水省との関係である。この3者の関係は、次のようなものだった。

農協運動の不連続な展開

 長い間、政権党は自民党だったので、そのように読み替えてもいい。そのころ、農協は自民党の集票機だ、と揶揄されていた。これを陰で動かしてきたのは日米の財界である。
 この期間が長く続いたが、1986年の総選挙で終わりを告げた。それ以後、農村票に依存しなくても、自民党は政権を維持できるようになった。その最大の原因は、最大の勢力であるべき労組の弱体化、とくに若者や学生の政治的無関心による都市部への自民党の浸透だが、それだけではない。農村部の自民党離れも大きな原因である。その結果、農政のトライアングルは無用の廃棄物になり、切れ切れになって消滅した。
 そして、自民党は手のひらを返すように、農業・農協に対する激しい攻撃を始めた。この年を梶井功教授は農協批判元年と命名した。しかし、それ以後も、しばらくの間、農村はトライアングルの復活を夢見ていた。激しい農協攻撃が行われていたにもかかわらず。

 トライアングルが消滅した原因は、農業の衰退でもないし、農協組合員数の減少による弱体化でもない。組合員数は、それ以後も増え続けている。
 真の原因は、それ以前から現在も続く、財界を発信地にして自民党を代理人にした、無茶苦茶な、しかし権力をむき出しにした不当な農業・農協攻撃と、それに対する組合員の反撃である。労組が傍観姿勢をとったことも見逃せない。連合労組などは、攻撃側にまわった。
 しかし、農協はねばり強い反撃を続けた。農協の政治力は減退したわけではない。組合員数は、いまでも増え続け、いまや1000万人を超えて1027万人になっている。

 今年は農協批判31年になるが、最近になって、ようやく夢から覚めた。そして、農村での与党支持の後退が定着した。
 北海道の衆院補選では与党候補が苦戦し、滋賀、沖縄、佐賀、新潟の知事選では、与党の推薦候補が落選した。今年夏の参院選では、全ての1人区で野党の統一候補が善戦した。これらの原因は、農村票が自民党から離れたことにある。
 そして、これらは、遅きに失したとはいえ、農協が政治的な立ち位置を変えたことを意味している。新しい立ち位置に立って、農協は、自主的な判断で候補者を選択するようになった。
 その結果、自民党は深刻な危機感を抱くようになった。そして、これまでのような農業・農協攻撃を鈍らせてきた。先日の規制改革推進会議の、農協に対する不当な提言の骨抜きや、日本農業に深刻な影響を及ぼす日欧EPAの、年内大枠合意の断念は、その証左である。

 この流れを変えることは、もはや不可能だろう。農協は、協同組合の本来の原則である政治的中立の流れに戻ったのである。これからの農協運動は、こうした不連続で不可逆的な展開を繰り広げるだろう。
 鉄のトライアングルが消滅したいま、農協は、経済的弱者である農業者が集まって、経済的強者である日米の大資本の攻撃に抵抗する、という本来の組織に専念すればいい。
 鉄のトライアングルからの離脱は、強者への屈服ではもちろんない。強者に対する新しい形の抵抗の始まりである。この抵抗を国会の内外で強めれば、強者を震撼させるだろう。そうすれば、農業振興の予算は、政府が頭を下げて持ってくるに違いない。
 いま行われている、いわゆる自己改革の農政版は、切れ切れになった鉄片を寄せ集めて、古いトライアングルを再現することではない。新しい農協運動に対応する、新しい運動組織の構築である。
 新しい酒は、新しい器に盛らねばならない。
(2016.12.19)

(前回 自由貿易の欺瞞

(前々回 新しい労働貴族の誕生

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