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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2017.02.10 
「ジビエ・カー」に拍手を送りたい!一覧へ

 昨年、12月のニュースで「ジビエ・カー」なるものを見て驚いた。日本ジビエ振興協議会が自動車メーカー(長野トヨタ自動車)と共同開発したものだ。ホームページを見ると、2015年に計画がスタートし、2016年7月末に完成したと記されている(文末にリンク)。
 筆者はジビエ・カーの開発者や関係者達とは何の関わりもないが、こうしたプロジェクトが実現していることが素直に嬉しいと感じられる年齢になってきた。なかなかやるではないか。乗用車を作っていた自動車会社のエンジニアにとってはまさに面白いチャレンジであったのではないかと思う。もちろん、様々な制約はあったと思うが、是非、うまく展開していってもらいたい。

 実は、2014年3月、「食肉加工処理の選択肢と地場産食肉加工に関する諸問題」と題する翻訳冊子を(一財)農政調査委員会から『のびゆく農業1015号』として刊行した。
 原文は米国農務省経済調査局の報告書であり、2012年6月に出されているものである。
 ポイントを簡単に言えば、米国の食肉加工業界では垂直統合が急速に進展した結果、大手の畜産農家が系列化したばかりでなく、食肉処理そのものも企業グループの中で一貫処理される傾向が急速に進展したことである。
 当時の資料を見ると、2010年時点で連邦政府の許可を受けた食肉処理施設が全米で632あるのに対し、年間100万頭以上を処理する施設はわずか14個所にすぎない。それでも、この14個所が全米の肉牛加工処理の55%を占めているという状況であるとともに、当時の米国における牛のと畜数の8割以上が上位4社によるものであった。
 これらの状況については筆者以外にも多くの研究者や業界関係者が様々なところで指摘している。

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 こうした急速な集中がおこる一方で、圧倒的多数の小規模な畜産農家が直面した現実的な課題は、どこで自分の家畜をと畜したらよいかという処理施設不足の問題であった。
 簡単に言えば、食肉加工業者(パッカー)と契約していない小規模な畜産農家は、自ら飼育した家畜の独自販売先どころか、そもそもと畜する施設を見つけることが難しいという状況が米国各地で発生したのである。パッカーの食肉加工施設が目の前にあっても契約農家でなければ家畜は受け入れてもらえないからである。
 この背景は、単純な効率化・利益追求だけではなく、安全性管理の問題や、消費者の意識の高まり、つまり誰がどこで、どのように育てて加工したのかを明確にしてほしいという社会的な要望があることを理解しておく必要がある。定められた品質管理が行われているかどうかが不明な原材料(この場合は家畜)を受け入れることは大きなリスクになるからだ。

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 そこで、米国当局が考えた方法の1つは、移動式の食肉加工施設(MSUs:Mobile Slaughter Units)である。トレーラー型の車で、食肉加工施設のない「過疎地」に対して連邦政府の検査官と一緒に出向き、その場で解体する。これは1日に数千頭以上を処理する大規模施設ではなく、数頭規模である。地場産食肉のニーズが高まっているのは米国も同様であり、先の翻訳書を出した2014年1月時点ですでに複数の州で実践されている。
 筆者はこうした話を当局も含め何か所かで行い、翻訳書籍を出したものの、率直なところ反応は余り芳しくなかったし、「話のネタ」位にしか受け取られず、正直悔しい思いを何度もした。コストがかかる、人件費がかかる、安全性が確保できない...いつもの言い訳を繰り返し聞いた。好意的なものでも、ボランティアとしての社会貢献でなら成立するかもしれないというものであった。コミュ力不足で伝え方がまずかったのかもしれない。

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 そこで、昨年12月の「ジビエ・カー」の報道である。あえて言えば、米国で出始めてから約5年、この間のタイムラグが惜しい。それこそがビジネス・チャンスになる。
 気が付いて話を紹介出来ても自分の手で開発する技術がない純文系人間としては、ジビエ・カーを開発した関係者には本当に素直に拍手を送りたい。
 エンドレスの議論ばかりしなくても、やる気になれば、具体的な対応策を1年半で現場に投入できる。この事実を見れば、何がこうした動きを遮っているのかが見えてくる。

日本ジビエ振興協議会が自動車メーカー(長野トヨタ自動車)と共同開発

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