【読書の楽しみ】第13回2017年4月18日
★金成隆一
『ルポ トランプ王国』
(岩波新書、928円)
トランプ本がたくさん出ていますが、この本はトランプのサクセスストーリーでもなければホワイトハウスを描いたものでもありません。かつて鉄鋼や自動車などの製造業や炭鉱などで栄えた町々を訪ねて人々に話を聞き庶民の生活を描いたいわば取材手帳です。
著者は朝日新聞ニューヨーク支局員で、当初はトランプなんて予備選で消えていく泡沫候補と考えていたそうですが、アメリカの記者からの助言で自分の考えが甘かったことを知り、選挙戦の初期の段階から中東部の諸州を訪ね回ります。
年金生活者、低賃金に苦しむ労働者、失業者、主婦。庶民たちが次々に彼らの思いと生活実態、そしてなぜトランプかを語ります。みな喜んで著者に近寄ってきます。町を再訪して再会することも再三なのも取材に厚みを加えています。
かつての給料の半分稼げれば上々の人たちばかりで、ミドルクラスが完全に消滅してしまったことがよくわかります。彼らは東西両海岸のエリートとエスタブリッシュメントが大嫌いなのです。ニューヨークやワシントンからは知ることのできないもう一つのアメリカを目線低く報告した記者の努力には敬意を表したいと思います。読みやすくこなれた文章なのも何よりです。
★鈴木邦男
『憲法が危ない!』
(祥伝社新書、842円)
著者の名を聞いておやと思われた人はなかなかです。そう、理論家右翼として知られ、憲法改正に熱心に取り組んできた人です。近年は新聞、雑誌にもよく登場しています。
その鈴木さんがこともあろうに「憲法が危ない」と言う。安倍政権が解釈改憲や憲法改正に前のめりになっていることに強い危機感を抱いたのがこの本を出すきっかけになったのだそうです。
読んでみるとリベラルあるいは左翼系の護憲派の人が言っていることとよく似ているなあ、いやそれ以上かなと感心してしまいました。「憲法に愛国心、家族、道徳、道義を持ち込むな」「自由のない自主憲法より自由のある押し付け憲法のほうがましだ」「強い国家、強い憲法は危険だ」。どれも大事なことです。
家族をめぐる憲法24条についての意見も大いに参考になりました。右翼の人がこれだけ心配しているのに中道や左派の人はもっとしっかりしないといけないのではないか、と感じました。レッテルを貼ってすますのは良くないことです。
★藤ひさし・田中聡
『北斎漫画、動きの驚異』
(河出書房新社、1944円)
「世界を動かした世紀の100人」の中に日本人はたった一人しかいません。この本の主人公、葛飾北斎その人です(もう一人くらいいないものか...)。
北斎といえば「富嶽36景」があまりに有名ですが、北斎の絵の本質は線画つまりデッサンにあります。モネやドガが驚き学んだのは北斎の線画(漫画)の技でした。当時、北斎漫画は多数、出版され大人気を博します。
本書は北斎漫画を歩く・吹く・鍛える・疾(はし)る・食う・遊ぶなど17の動きに分けて多彩な人物の絵(漫画)をそろえ、有意義な解説を加えています。北斎の観察眼の素晴らしさに感嘆し、対象に対する愛情を感じ、ユーモアの精神さえも楽しめるでしょう。
知っているようで知らない北斎の世界が広がっていく中で、私たちの心も豊かになっていくはずです。世界が評価するほどに日本人は北斎を評価していないのだとか。北斎の線画の妙技を楽しむ「読書」もいいものです。
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