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便利だった「はけご」【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第98回2020年5月14日

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【酒井惇一・東北大学名誉教授】

私の生家でかつてつくっていたわら工品の話をこれまでしてきたが、もう一つ、「はけご」もつくっていた。この「はけご」は山形独特のもののようだ。他の地方で見たり聞いたりしたことはないからである(私の見聞の狭さのせいなのかもしれないが)。しかし今では山形でも見られなくなっている。そこで若干説明しておこう。

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「はけご」とは、一言で言えば、稲わらで編んだ腰籠兼背負い籠兼手籠、容器兼運搬用具である。
一般に籠と言えば竹ひごや蔓を編んでつくるのであるが、はけごは稲わらを使って編み目の細かい菰のように編んでおり、ここに特徴がある。
もう一つの特徴は、わらで編んだ縦長の立方体の上の開いている口の片側に縄紐が二本つけられ、それと対面するもう片方には縄紐が半円形につけられていて、それを両方から結べば手で持てるようになり(つまり「手提げ」になり)、二本の縄紐を腰に回して結べば腰に提げても利用でき、さらに二本の縄紐を向かい側の半円形の縄紐に入れてその縄紐を両肩にそれぞれ回して背負えば「背負い籠」としても用いることができる。
しかも稻わらだからきわめて軽く、しかも柔軟で弾力性があり、閉じたり開いたり、膨らませたり縮めたりが容易にでき、量に応じて膨らせあるいは小さくし、二本の縄紐を向かい側の半円形の縄紐に通して持ち運びできるので、きわめて便利な使い勝手のいいものだった。

大小さまざまあり、用途や容れるものの大小、使う人の身体等に応じて使いわける。生家にもいくつかあり、そのうちの一部を祖父が作り、後はそうしたわら工品の製作に力を注いでいる遠隔地の農家が売りに来るのを買っていた。なお、荒物屋でもはけごを売っていたが、町場の非農家が使っているのはあまり見たことがない。

私がこのはけごをもっとも利用したのは、1950年代(私の中学から大学にかけて)の夏休み期間、トマトやナス、キュウリなどの収穫のときだった。はけごの二本の縄紐を腰に回してお腹のところに結んで後ろ(お尻のところ)に容器部分=籠がくるようにし、収穫に適するようになった実を見分けて右手で取ってその中に入れながら畝間を歩く。ナスの収穫のときにはへたのところの鋭いトゲ、キュウリのときにはイボイボのトゲ、それになるべく触らないように収穫して歩く。はけごが一杯になり、腰に回したはけごの縄紐がお腹の柔らかいところに食い込んでくると、あぜ道にもどり、腰に結んでいた縄紐を解いて、そこに置いてある大きな竹かごもしくはリンゴ箱(木箱)に収穫物を容れる。それからまたからになったはけごを腰に下げてもとの場所に戻り、実を穫りはじめる。この繰り返しである。
真夏のことだから、朝飯前の約2時間はキュウリ、午後3時以降暗くなる寸前までトマト、ナスの収穫に家族ぐるみでやったものだった。このようにはけごは不可欠だった。

夕闇が迫る頃、大きな竹かごやリンゴ箱に入れた収穫物をリヤカーに山のように積み、家まで運ぶ。はけごには収穫の時に使った手ばさみなどを入れ、リヤカーの上に載せ、あるいは背負う。リヤカーは私が牽く。かなり重い。ちょっとした上り坂になると動けなくなる。すると母が後ろから押す。やっとの思いで登り切り、下り坂となる。汗がどっと噴き出す。やっと家に着く。小屋の中に収穫物を入れ、翌朝の農協への出荷のための選別、箱詰めが始まる。私たち子どもも総動員だ。後片付けをしてきた父と祖父が帰ってきて、それを手伝う。もう真っ暗になる、そのころようやく終わり、台所からいい匂いがただよってくる。井戸で手足を洗い、家に上がる。薄暗い電灯の光がまぶしく感じられる。祖母が卓袱台におかずを載せていく。もうすぐ夕ご飯だ
これが夏のわが家の日常だった。

また、真夏には一升瓶に飲み水をはけごに入れて持って行ったり、三時のおやつの果物や菓子を入れたり、草刈鎌や砥石を入れていって畦畔の草刈りをしたり、その刈った草を家で飼っている山羊や兎の餌にするためにはけごに容れて背負って運んだり等々、はけごは運搬用具としてさまざま便利に使われていた。
はけごは農家の必需品であり、どこの家にも大小何種類もあったものだった。

はけごを見なくなってもう何年になるだろうか。容器はみんな化学繊維・プラスチック製品に変わってしまった。「絶滅危惧」程度なら何とか保全しておいてもらいたいと叫ぶところだが、はけごは限られた地域のもの、しかもその作り手はもう90歳以上、もう「絶滅」してしまった。せめて写真だけでも撮っておけばよかったと思うのだが、かつてはカメラなど持てるわけはなし、あったとしても撮っておく価値があるなどとは誰も考えなかったし、私もはけごがなくなるなど予測だにしなかった。
でも誰か記録してくれているかもしれない、そう思って「はけご」をパソコンで検索してみた。そしたら、出ているはけごはすべて蔓細工もしくは竹細工品で民芸品として売り出しているものであり、稲わらでつくったはけごは見つからなかった。同じ山形でも地域によって竹や蔓でつくったものもはけごと言っているところもあるようだ。こうなると「籠」とどこが違うのか、よくわからない。ただ、よくみると口の片側に紐が二本つけられており、それを腰に回して結んで腰に下げることができるようになっている。要するに「腰籠」のことを[はけご]というらしく、その原材料は何でもかまわないらしい。ということで私のいうはけごと似ているが、残念ながら検索はできなかった。
写真がなければ絵に描けばいい、しかし私には画才がまったくない。試しに書いてみたもののうまくいかない。申し訳ないが想像していただきたい。

地域独特のわら工品、わらの利用の仕方、日本各地にさまざまあったのではなかろうか。それをどなたかきちんとまとめて後世に残していく、そのなかから新たな利用法を開発していく、こんなことを考えてもいいのではなかろうか。

 

そのほか、本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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