「粒すけ」を5キロ1480円で売り出したコメ卸【熊野孝文・米マーケット情報】2020年9月8日
粒すけの初検査の風景(千葉県)
5つ星マイスターの資格を有する米穀小売店主の中には、産地からの依頼を請けて有料で食味テストを行っている店主もいる。この店主、「お米の伝道師」を自認するだけあって各地で開催される食味コンテストの審査委員を務めるほか、マスメディアにも度々登場する。この店主から北海道で開催されたゆめぴりかコンテストでは、同じゆめぴりかでも栽培地区が違うと食味が違い、その違いが分かると言われた時にはさすがに驚いた。コンテストに出品するぐらいのゆめぴりかなのでしっかりした栽培方法で生産されているはずで、その違いがわかると言われるとベロメーターのセンサー構造そのものが著者とは違うというしかない。店主は「意識して食べれば分かるようになりますよ。要は慣れですよ」とこともなげに言う。
産地から依頼を請けたコメの食味テストをどのように行っているかと言うと、評価項目は「香り」「見た目」「硬さ」「粘り」「食感」「旨味」「甘味」「のどごし」の8項目で自ら炊飯して試食し、それぞれの評価値を項目ごとに八角形のグラフに書き込み、わかりやすい形で産地の依頼者に示す。ちなみに日本穀物検定協会の食味ランキングの評価項目は「外観」「香り」「味」「粘り」「硬さ」「総合評価」の6項目で、穀検も産地から依頼があるとデビューする前の新品種の食味テストを5万円で請け負う。請負期間は11月から2月を除いた期間であればいつでも食味テストを行う。11月~2月は既存の産地品種の食味評価テストが行われるためこの期間は新品種の食味テストは行わない。なにせ既存の産地品種だけで155産地品種もあるのだから、この分の食味評価だけで手いっぱいになる。それでも毎年、次々に誕生する新品種の食味テストが行われ、参考として公表される。
そうした新品種の中のひとつが2年産の先頭を切って先週デビューイベントが行われた。
それは千葉県のオリジナル品種「粒すけ」で、当日は知事も出席、メディアにも取り上げられた。粒すけの品種特性は短稈で倒伏しづらく、大粒で多収かつ良食味。千葉県では粒すけの販促費として3000万円の予算を計上、県民に親しまれる品種になるように県内のファミリー層を対象としたプロモーション活動に力を入れることにしており、粒すけの特設Webサイトを4日に開設した。サイトでは粒すけを味わえる料理店や購入できる量販店、農協等の名称と所在地をアップしている。イベント当日は粒すけを売り出した量販店の売り場に買い求める消費者の列が出来ていたという。列が出来たのは新品種が珍しかったと言うだけではなく、販売価格が5キロ1480円と格安だったからでもある。
この価格で量販店に粒すけを納入したコメ卸は、玄米の仕入れ交渉を産地側と行った際、各産地から次々とデビューする品種の販売状況がどうなっているのか切々と訴えた。その模様を再現してもらったが、関西弁でまくしたてられると産地側としても折れるしかなく、こうした店頭販売価格になったのだろう。
それにしてもデビューしたばかりの新米をなぜこれほどまでに安く販売するのか? 他産地の新品種はいずれもブランド米を目指すものばかりで、玄米販売価格も産地の都合で決められるので市場評価とは無縁である。その結果がどうなったかと言うと有機魚沼コシヒカリ並みの価格で販売すると言ってデビューした新之助の例を見るまでもなく、文字通り総崩れと言った状態で売れずに倉庫に眠っている。なのでこの卸も粒すけが売れる値段を付けただけという事も出来るが、果たしてそれだけがこうした販売価格を付けた要因なのだろうか?
今、卸業者の間で話題になっていることの一つに2年産米から大手量販店のコメ納入業者が替わるという出来事がある。この量販店と既存の納入卸はこれまでの歴史的な背景からその卸が外されることはないと見られていた。ところが2年産からあっさりと他の大手卸に替わった。納入数量は年間2万トンと言うのだから納入卸にとってはまさに死活問題だ。こうした例はこの量販店だけではない。極めて利益率の高い有名量販店でも同じようなことが起きている。極めつけは国内最大のコメユーザーの2年産購入契約が入札方式で行われ、エントリーする卸は10月1日までに各産地銘柄の数量と価格を示さなければならない。大げさではなく、今やエントリーするコメ卸は自社の生き残りをかけて「提案書」に数字を書き込まなくてはならなくなっている。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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