ブロックチェーンによるコメ取引システムを作るというIT企業【熊野孝文・米マーケット情報】2020年11月3日
米穀業者が集まった席で「未検査米でも精米に銘柄表示が出来るようになるって本当ですか?」と聞かれた。それを所轄する消費者庁の食品表示基準の改正案にそう書いてあるのだからそうなるとしか言いようがない。この米穀業者でなくてもあまりにも速いテンポでコメの商取引の中核部分で大きな変革が起きつつあり、ついていけない。その変化を譬えるなら小学生をいきなり大学の金融工学部に放り込んだようなもの。
その大きな変化を伝えるのに最もわかりやすいのは農水省が令和3年度の予算で新規要求した「AI画像解析等による次世代穀粒判別器の開発」。開発の背景と目的について(1)農産物規格・検査について規格項目の見直し、検査の高度化を行う事としている。現在の農産物検査は、精米原料となる玄米の被害の有無等を検査員の目視で確認されているが「地域や検査員のバラつきが発生すること」や「具体的な測定データを示せない」等の課題がある、(2)令和2年の秋から一部検査項目への穀粒判別器の活用が開始されることから、その画像データと測定数値、各用途での利用適性をビッグデータとしてデータベース化し、検査員による鑑定の相当部分を代替できる次世代穀粒判別器を開発する、(3)これによりAI画像解析により規格項目を数値で精密に示すことが可能になり、着色粒・胴割粒の含有量等を考慮した、等級のみではない実需者ニーズに応じたコメ取引が可能になるとしている。
生産現場の課題解決に資する研究内容としては、次世代穀粒判別器の開発メーカーと連携して(1)穀粒判別器から取得されるコメの画像・検査データの農業データ連携基盤(WAGRI)等への蓄積、(2)ビッグデータと連動する次世代穀粒判別器の開発、(3)AI画像診断によるデータに基づく取引を提案するプログラムの実装などを行う。
社会実装の進め方と期待される効果については(1)次世代穀粒判別器を用いた新たな検査項目体系を構築、(2)玄米外観品質の等級に加え、新たな指標による用途別のコメ取引が実現(3)民間機関が実施する農産物検査への活用を積極的に進めるとともに先進農業法人や都道府県普及組織等とも連携した普及活動を全国展開(4)検査等級のみによらない用途別のコメの取引が実現。海外日本食レストラン向けコメ輸出が1万トン増加としている。(アンダー線は筆者)
今のコメの検査制度やそれに基づくコメ取引の商習慣は何なのか? と思えるほどビックリするようなことばかり記されている。今や農水省は「穀物の画像取引の分野で世界最先端を行く」と高揚しているだから止めようがない。農水省はこの開発を実現するためにノウハウを持つ企業や研究機関によるコンソーシアムを作ると計画を立てている。その中の1社が穀粒判別器の画像解析技術を活用して「ブロックチェーンによるコメ取引システムをつくる」と言っている。
ブロックチェーンとは何なのかをネットから引っ張り出して記すと、ブロックチェーンは、ネットワークに接続した複数のコンピュータによりデータを共有することで、データの耐改ざん性・透明性を実現することで、単に送金システムであるにとどまらず、さまざまな経済活動のプラットフォームとなり得る。パブリック・ブロックチェーンとは、さまざまなデータのやり取りを複数のネットワーク上のコンピュータ同士を接続し、処理記録するデータベースの一種で、主に以下の特徴を備えている。
(1)取引データが暗号化されている
(2)合意された過去の取引データの集合体がチェーン上に記録されている
(3)データの改ざんが難しい仕組みを持つ
(4)中央管理者がおらず、分散的に運用されている
(5)ネットワーク上の複数のコンピュータが取引データを確認・合意するために送受信する
(6)システムダウンが起こりにくい
こうした特徴があることから仮想通貨の売買が出来るようになったのだが、仮想通貨とコメとは全く別物で、ブロックチェーンでコメの取引が出来るとは思えない。ところがコメを画像解析することでデータ化が可能になり、しかもそのデータは解析度が格段にアップしたことから一つとして同じものはない。つまりデータ化されたコメのサンプルは指紋と同じ役割を果たすわけで改ざんが出来ない。仮想通貨も改ざんが出来ないことによってブロックチェーンによる取引が可能になった。
カルトンにコメのサンプルを入れ、目視で確認しながら売ったり買ったりしていた時代が懐かしいと振り返る日が近づいている。
重要な記事
最新の記事
-
米の作況指数の公表廃止 実態にあった収量把握へ 小泉農相表明2025年6月16日
-
【農協時論】米騒動の始末 "瑞穂の国"守る情報発信不可欠 今尾和實・協同組合懇話会委員(前代表)2025年6月16日
-
全農 備蓄米 出荷済み16万5000t 進度率56%2025年6月16日
-
「農村破壊の政治、転換を」 新潟で「百姓一揆」デモ 雨ついて農家ら220人2025年6月16日
-
つながる!消費者と生産者 7月21日、浜松で「令和の百姓一揆」 トラクターで行進2025年6月16日
-
【人事異動】農水省(6月16日付)2025年6月16日
-
3-R循環野菜、広島県産野菜のマルシェでプレゼント 第3回ひろしまの旬を楽しむ野菜市~ベジミル測定~ JA全農ひろしま2025年6月16日
-
秋田県産青果物をPRする令和7年度「あきたフレッシュ大使」3人が決定 JA全農あきた2025年6月16日
-
JA全農ひろしまと広島大学の共同研究 田植え直後のメタンガス排出量調査を実施2025年6月16日
-
生協ひろしま×JA全農ひろしま 協働の米づくり活動、三原市高坂町で田植え2025年6月16日
-
JA職員のフードドライブ活動で(一社)フードバンクあきたに寄贈 JA全農あきた2025年6月16日
-
【地域を診る】「平成の大合併」の傷跡深く 過疎化進み自治体弱体化 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年6月16日
-
いちじく「博多とよみつひめ」特別価格で予約受付中 JAタウン2025年6月16日
-
日本生協連とコープ共済連がともに初の女性トップ、新井新会長と笹川新理事長を選任2025年6月16日
-
【役員人事】日本コープ共済生活協同組合連合会 新理事長に笹川博子氏(6月13日付)2025年6月16日
-
【役員人事】2027年国際園芸博覧会協会 新会長に筒井義信氏(6月18日付)2025年6月16日
-
農業分野で世界初のJCMクレジット発行へ前進 ヤンマー2025年6月16日
-
(一社)日本植物防疫協会 第14回総会開く2025年6月16日
-
農業にインパクト投資を アンドパブリックと実証実験で提携 AGRIST2025年6月16日
-
鳥取・道の駅ほうじょう「2025大大大スイカフェスティバル」22日まで開催中2025年6月16日