JAも、SVの配置で店舗経営を改善しよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年9月6日
シアトルで学んだドミナント戦略とSV(スーパーバイザー)
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
30年近く前、アメリカのシアトルでのワークショップに誘われ、一度は行ってみたい都市だったので、仕事とお金をやりくりして出かけた。世界戦略を展開し、急成長を続けるスターバックスの店舗戦略は、刺激がいっぱいでした。これが、アメリカのビジネスのダイナミズムか、と感心したものです。それに、戦艦のような巨大なスタバの本部ビルの威容さは圧倒されました。
ついでながら、その頃のアマゾンの本社は、行政の旧施設を本社としていて、意外に小さいな、との印象でした。わずか20年後、いまや、シアトル中心部の33の高層ビル群すべてがアマゾンだという。恐ろしいほどの激早成長です。
ところで、シアトルの繁華街を歩いていると、スタバの店舗があるわあるわ、およそ100mおきに緑色の人魚の看板が目に飛び込んできます。そこでは、老若男女が大きなソファーで談笑し、店の近くでは、スタバのカップを手にしたビジネスマンが足早に行き来しています。
ここで学んだのがドミナント戦略という出店方法。ドミナント(dominant)は、英語で「支配的な」とか「優勢な」という意味で、ある特定の地域に、集中的に出店すること。繁華街や駅前などの人通りが多い特定エリアに、集中出店することで、認知度を高め、顧客シェアを上げ、強烈な存在感をアピールし、同業他店の出店を抑え、強力なマーケットシェア確保する。一方で、輸送や店舗運営コストを下げる、という戦略です。
一定のエリアのマーケットを前提に新規出店を行う、といった戦略論はどこへ? 経営戦略論は年々進化している、図書や研修での情報では限界があることを痛感。自分の目で確認し、体験し、学習することの大切さを知り、以後、ほぼ毎年、海外に出かけました。シアトルには、もう1社、世界でもっともサービスが素晴らしいデパート(ノードストローム)の本店があります。が、この話は、別な機会に。
8年ほど前までは、仕事でお世話になったJAの常勤役員のみなさんや他の金融・流通業界の幹部社員の方々を対象に"シアトル・ビジネス研修"も行いました。
SV(スーパーバイザー)はJAでも制度化したい
ドミナント戦略による店舗展開とともに、もう一つ、重要な役割を持ち、店舗の実績向上や指導・サポートを行う人の存在に刺激を受けました。それは、スーパーバイザー(supervisor)で、直訳すれば、監督者、管理者の意味です。日本でも、小売業界では早くから、消費者ニーズや産地情報に精通し、商品の仕入れをするプロのスタッフをスーパーバイザーと呼びます。
一般的なSVは、一定の地域で営業を行っているチェーン店舗を7~8店担当し、来客数、売上げ、利益などの詳細な店舗経営のデータをもとに、数値の改善とその最大化のために、店長やスタッフとともに考えます。分析力と経験をもとに、指導やアドバイスを行い、スタッフのやる気を引き出し、能力を高める現場教育も。いわば、店長の手が回らないことを率先してサポートします。もちろん、本部と店舗のパイプ役として、調整機能を果たすことも重要な任務で、他のSVとともに、活動の品質向上や課題解決のための方策の研究も行います。
近年では、SVの役割の必要性への理解が深まり、小売業界や飲食業界に加え、アパレル、医院・医療、理美容、学習塾、介護施設などに拡大しています。
このように書いてくると、JAもSVの設置は必要だと考える経営者も少なくないでしょう。私もJAのコンサルで、支店や事業所店舗の事業・経営改革に際し、日常的なサポート役として、支店長経験者によるエリアマネジャーを設置したケースがあります。
JA組織はトップダウンで物事を決め、指示する組織体質なので、支店などの現場のホットな状況や店長・スタッフの生の声を反映させる役割は重要でした。現場の事業目標は、前年比の数値で示されることが多いのですが、支店独自の調査や活動を仕掛けたり、イベントを実施したり、支店長やスタッフをその気にさせ、ユニークな活動を提案してくれ、大いに感謝したものです。
JA組織における本店と支店・事業店舗の間には、大きな溝があり、それを埋めることは重要で、急がれる課題です。なぜなら、この溝を放置しておくと、現場の前向きな行動や主体的な対策、実行への意欲を削ぐことになる危険があるからです。
JAの事業・経営は、店舗の再編や整備が必要とされていますから、支店や事業店舗の運営は、本店や本部の緩やかな方針の下で、自立的な経営が求められ、主体的な活動や職員の行動が期待されます。それだけに、"JA版SV"の存在は、支店長のサポートも含め、現場組織にとって欠かせない役割ではないか、と思います。
組合員の利用度を高め、利用者を増やし、地域に密着した店舗づくりに取り組む、といった支店の課題を広い視野でサポートし、データ分析と現場感覚による活動の提案、SVへの期待は大きいように思います。現場に強いSVは、将来の幹部、支店長候補であり、経営の枢軸として、期待できる人材に育つでしょう。
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