【農協時論】農作業事故は地域農業を担う人材の損失に直結 宮永均JAはだの組合長2023年9月14日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回はJAはだのの宮永均代表理事組合長に寄稿してもらった。
JAはだの 宮永均組合長
国内の農地および農業の担い手の減少に歯止めがかからない状況にある。そのため国は食料の安定供給、持続可能な農業生産を確立するために施策内容の見直しや新たな施策展開をすすめている。
農水省の試算では、農業就業者は2030年には131万人となり、2015年から約77万人減少することが見込まれている。このうち49歳以下が28万人の見込みだが、基本計画目標において国内農業を維持するには、49歳以下の農業従事者を37万人確保することが必要であるとしている。食料・農業・農村基本法の見直しをはじめ、様々な施策内容の見直しは必至であるが、なかでも食料安全保障を第一級の課題として捉える必要がある。食料生産は農業者の「担い手なくして生産なし」、「生産なくして販売なし」であり農業の担い手確保は最優先課題である。
この農業者の担い手確保においての喫緊の課題が農作業事故防止である。農作業中の死亡事故が多発している現状を「農業者の命の非常事態」として重く受け止め農業機械作業での事故防止を重点に、農作業安全確保に向けた安全対策を講じる必要がある。農水省の報告によると、農作業死亡事故は毎年300人前後で推移し2020年には10万人当たりの死亡者が過去最悪になった。農作業中の死亡事故の割合は2020年以降も他産業より高水準で推移し、2021年の農作業事故による死亡者は242人となっている。これら死亡事故のうち乗用型トラクターによる転落・転倒による事故が84人と最も多いことを把握している。このため基本的な安全対策として、ヘルメットやシートベルトの着用をはじめ、転落・転倒のリスクが高い箇所の安全対策を講ずる必要がある。具体的には(1)農道では、ブレーキ連結の確認(2)曲がり角では特に速度を落とす(3)路肩の除草や補強などを挙げ2023年春の農作業安全運動を展開してきた。しかし、運動の成果が上がらない状況である。死亡事故撲滅に向けさらなる施策展開をすすめなければならない。
筆者の調査によると、例えば韓国では2016年に施行された「農漁人安全保険法」により農作業安全災害予防事業の法的根拠が用意され、農業振興庁や自治体、農協が中心となって取り組んでいる。また、農作業安全災害予防推進強化法により2027年までに取り組むべき安全災害予防開発、技術普及指導、教育・広報、分野別に詳細な推進計画を立てた専門人材養成などがある。
このように国を挙げた横断的な取り組みにより、農業労働災害保険加入においては加入率80%(全国平均36.6%)と高水準な実績を上げている京畿道内の畜産農協がある。これは自治体の農業労災保険料の内半額を助成する制度が後押ししていることが考えられる。さらに、農業現場で活動する「農業人安全教育リーダー養成」の計画もあるというから驚きだ。韓国の農業現場も日本と同じように、農村は高齢化と空洞化に伴う労働力不足で農業者の労働時間及び労働負荷が継続的に増加しており、農業機械や農薬の使用頻度が増加している。このため農作業事故の危険度が高くなっていることから安全対策に余念がないようである。日本においても国・地方自治体・JAが連携して農作業事故撲滅に向けて取り組むために、韓国の事例に学び農業者の死亡事故撲滅を目指した制度化を急ぐことである。
日本農業労災学会は、「農作業事故の撲滅-死亡事故ゼロを目指して-」を2021年に発出した。農業者の命の非常事態の解消を目指して、産官学連携のプラットフォームの中核学術団体として、高い危機意識とヒューマニズムをもって、実践的な労働安全実現手法を開発普及することを目標に取り組んでいる。目標達成にはこの学会が目指す国・地方自治体・JAの連携が必要不可欠であり、取り組むための法制度の整備をはじめ十分な財政措置が求められている。農業者と接するJAにおいては、農業者自らの農業労働安全意識啓発を計画的かつ積極的に行い農業者を命の危険から守ることだ。
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