ジネンジョとナガイモ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第348回2025年7月10日

前回の最初に触れたジネンジョとナガイモは、同じヤマノイモ科ヤマノイモ属なのだが、「種」が異なる。
ジネンジョはヤマノイモ種で日本原産、ナガイモはナガイモ種で中国原産なのだそうである。なお、ツクネイモ、イチョウイモともに粘りが強いのでジネンジョと同じかと思っていたが、これはナガイモ種とのことである。
さてこのジネンジョ、漢字で「自然薯」と書くことからわかるように、まさに野生種、山の中の雑木林や薮(やぶ)、荒地に生える。といっても私は見たことも掘ったこともない。しかしその収穫の大変なのは想像できる。まず山の中に行くのが大変、生えている場所を探すのが大変、掘り取るのも大変、折れてしまわないように掘るのはさらに大変等々、だからだろう、めったにお目にかからなかった。
しかし、ジネンジョは滋養強壮食として昔から珍重されており、あの独特の食感を楽しみたいという人も多い。そんなことからジネンジョを畑で栽培し、特産品として販売するところも出てきた。たとえば宮城県丸森町である。その栽培のしかた、あっと驚く。ナガイモのように下にイモを伸ばすのではなく、横に伸ばすのである。
つまり、雨どいのように半分に割った長いパイプ(1メートル強)を畑のなかに横に埋め、そこに種芋をおき、土をかける。するとイモは下に伸びられないのでパイプに沿って横にまっすぐに伸びていく。それが一定の大きさになったときに収穫するのである。これは、ジネンジョがナガイモのように素直にまっすぐ伸びず、くねくね曲がりやすいという性格をもっているので、それをパイプに入れることで曲がらないようにするためとのことである。しかも、畑を深く掘る必要はないし、イモは折れにくい。うまいことを考えたものだ。
ちょっと癖があって私などはあまり好きではないが、この伝統的なジネンジョ、もっともっと需要が増えてほしいものだ。
「麦とろ」(=冷やとろ)、すりおろしたジネンジョをだし汁でといて麦飯にかけて食べる、江戸時代からの料理だそうだが、麦飯にナガイモのとろろでもおいしい。日本の伝統的な麦飯ととろろ、家庭料理としていつまでも残ってもらいたいものだ。
それだけだはない、ナガイモを外国に輸出したらどうか。こんなうまいもの、世界の人々にも味わってもらったらいいのではなかろうか。それは日本の米の消費拡大にもなる。
そんなことを考えていた25年前、私は北海道に7年間移住する(注)ことになった。その頃は北海道でもナガイモを導入して産地として大きく成長していた。
ちょうどここまで草稿を書いて後は明日と思ってパソコンを閉じた日の夕方、私の入所している老人ホームの夕食のおかずに、何とその「麦とろ」が出た。
麦とろの上には青海苔の粉がちょっぴり振り掛けてあった。そうだった、この青海苔がまた味からしても見た目からしてもよかったのだった。
本当にしばらくぶりの麦飯、そして冷やとろ、異常な暑さで食欲もなかった日だったからなおのことうまかった、なつかしかった。
偶然とはいえ、本稿に麦とろのことを書こうとしたその日に、しかも何年ぶりかで、麦とろを食べることができた、しかも東京でだ、本当にうれしかった。
どこの産地で生産したものかわからない。
でも、私がまず思い出すのは青森県十和田市だ。農協が試験場を持ってナガイモ等の野菜の試験研究を行う等、ナガイモ栽培の技術では全国の最先端を行くほどになり、大産地として全国にその名を馳せたのだが、私はもう四半世紀も青森南部におじゃましていない、でも今も大産地として健在、仙台にいるころは生協でよく十和田産のナガイモを買って食べたものだった。なければ北海道産(私の一時期住んでいた網走・北見の産ならもっといい)、そう決めていた。
今回食べたのはどっちなのか、きっとそのどっちかだったのではなかろうか。
またいつか食膳に載せてもらいたいものだ。
ついでに言わせてもらえば、私の入所している老人ホームの食卓、栄養のバランスや高齢者であることを考えてくれているのはよくわかるのだが、予算の関係もあるのだろう、ワンパターンの繰り返しが多い。時々でいいから、今回の麦とろのような変化、喜び、驚きや感激も与えて欲しいものだ(代わりに食費を値上げするよなどと言われたら、少ない年金+諸物価上昇、ちょっと困るのだが)。
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