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シリーズ:農協改革元年

2015.06.10 
漁業者主役で漁業再生 浜プラン動き出す一覧へ

インタビュー 岸宏 JF全漁連会長

 水産業の分野では、漁業・漁村の再生に向け各地域の「浜」が主体となって「浜プラン」を策定している。プラン策定の主役は漁業者と漁協だ。全国の浜の9割が地域特性を活かした生産・販売、地域活性策を打ち出した、今年度から実践に移るという。JF全漁連の岸宏会長は各地の浜の取り組みに「漁業者にはまだまだ夢があるし、自ら変わってがんばらなければと思っている」とさらなる取り組みに期待し、地方創生を実現するには、農業、漁業など第一次産業をしっかり位置づけることが大事だと強調している。

――漁業の立場から「地方創生」についてどうお考えですか。

岸宏 JF全漁連会長 われわれも食料供給産業として歴史を重ねてきましたが、この20年、漁業生産は落ち込み漁業者も少なくなっています。ただ大事なことは、われわれの大きな使命は食料の供給産業であるというだけでなく、漁業や漁村の多面的機能の発揮、あるいは国境を守るという意味も含め国土を守る役割だと思っています。それを通じて日本社会に貢献してきたという自負心も持っています。
 地方創生とは、こういう役割を果たしてきた地方、つまり、田舎が元気にならなければ日本の再生はないということでしょう。しかし、これは今まで何回も言われてきたことで新しくもなんともないと思います。竹下総理のふるさと創生をはじめ、ずいぶん昔から言われてきたことで、言葉こそ違え基本的には中身は同じで結局は変わらなかった。 ただ、われわれ自身もその時代時代の要請に応えてきちんと課題に取り組んできたかといえば、漁業の場合は必ずしもそうではなかったと思うんです。漁協系統運動の大きな反省点です。自ら努力して汗を流すということをやってきたか、です。計画はいっぱい立て地域がよくなるため、浜がよくなるために考えてはきました。しかし、それをしっかりと実践してきたかとなると必ずしもそうではない。
 そういう反省点をふまえて地方が元気になるために何をすべきかといえば、われわれ漁協系統として漁業者、漁協、漁連が自ら変わって、まず動くということだと思っています。そのための処方箋をつくる。それが今回の浜プランの取り組みです。各地域で検討を始めたのがちょうど1年前からです。


――浜プランの策定は政府が地方創生を本格的に打ち出す前に、漁業と漁村の再生に自ら取り組み始めたということですね。現時点ではどんな状況でしょうか。

 国は「まち・ひと・仕事創生」を打ち出しましたが、まさにわれわれも同じ考えで自らが変わろうという姿勢で取り組んできました。
 「浜プラン」は漁協と市町村を中心に構成する地域水産業再生委員会で検討し、今は約456地区でプランが作成されています。
 大きな数値目標としては漁業者の所得を「5年で1割以上あげる」です。そのための処方箋が浜プランであり、浜が作成したプランについては国や都道府県もしっかり支援するということです。プラン作成に取り組むことを決めた浜は全部で570ほどありますからこれからまだ100地域で作成してもらうことになります。ただ、日本の浜の数を考えると9割を超える地域で自らプランをつくろうと真剣な取り組みが進んでいるということで、これは他にはない例ではないでしょうか。


――具体的にはどんなプランが示されているのでしょうか。

 安心・安全な鮮度のいい魚を消費者に届けるというのが大きな使命ですから、そのための生産、流通、販売まで一貫した取り組みや、他産業事業者との連携による販売強化策、あるいは観光や交流も含めた地域活性化策などそれぞれの地域が特性を持った施策を出そうということが実感できます。
 今までは国がメニューを示し、そのなかからどれかに丸を付ける、という施策のあり方でしたが、今回は最初にメニューはないということでした。それでも当初はどこも同じような金太郎飴的プランになるのではないかと言われました。ところが作成されたプランをみるとかなり地域の特性が出ている。ということは自分たちが発案しプランをつくったということです。
 また、われわれの実践を通じ、漁村の文化というものをしっかり消費者、国民に受け止めていただくことが大事だと私は思っています。あわせて魚の価値も認識してもらう。 漁村は食のふるさとだと私は思っていますが、潮風にあたり浜で捕れたて魚の味を東京でも、というのはなかなか難しい。しかし、今は保存技術も発達してきましたから、それを活用して浜の旬をいかに都会で食べてもらうか、そのマッチングはこれからの日本の食の流通の大きなポイントだと思っています。こういう課題も含めて各地域ごとに頭をひねった。漁業者が初めて変わってきたといっていいと思います。


――浜プランの取り組みには漁協の役割も重要ですね。

 われわれ協同組合は地域のコミュニティですから、いろいろ意見は違ってもそこは議論しながら方向性を共有するものを見出して、最終的には浜プランというかたちにまとめたということです。 それをさらに進化させるような取り組みとして位置づけられているのが「広域浜プラン」です。隣の漁協や市町村とも共有するようなプランです。  私は市町村行政には人口3万人ほどがいちばんよく、合併して大規模になることが取り柄だというのは違うと思っています。そこは広域行政としてカバーし合って、きちんとコミュニティの住民福祉を守っていくということが大事だと思っています。 同じように浜のコミュニティである漁協も適正な規模の組織だと思いますが、販売や物流を進めていくには施設を共有したり、同じ特産物であれば共同して販売力をつけたりすることが必要です。各浜が持つ荷さばき、加工・冷凍施設などの再編・強化、共同輸送、共同出荷などの連携でそれぞれの浜の活性化につなげ漁業者の所得増を実現しようということです。


――各浜で自ら変革に取り組もうというきっかけは何だったのでしょう。
 
 やはり燃油の高騰です。漁業経営はこのままでは瀕死状態になっていずれだめになってしまうから、たとえば省エネ構造に転換していかなければいけないといった危機感がありました。もちろん政策的な支援は必要ですが、燃油が上がっても下がっても、少々の動きは自分たちで吸収できるような構造改革をして体力をつけていかなければいけないというのが原点にあったということです。
 それからもともと浜の前に広がる海は個人所有ではなく、どう全体を活用していくかは浜全体で考えることが求められています。これも今回の取り組みの背景です。
 そういう意味では浜プランをつくらないということは戦闘意欲を失ったということになる。だから9割を超える浜がプランを作成したということは、漁業者にはまだまだ夢もあるし、自ら変わってがんばらなければ、と考えていることの証左だと思います。


――今回の取り組みを通じて、漁協としての課題はどう考えていますか。

 漁協そのものも今回の浜プランの取り組みのなかで漁業者に対するスタンスも変わったきたと思います。今後は組織のあり方、体制整備、漁協職員の人材育成ということも大事な課題だと思います。
 漁業者に本音を話すような組合長であり職員であってほしいですね。今まで漁業者から言われたことをやればいいという感覚でしたが、やってはいけないこともあるわけです。たとえば過大な設備投資になっていないか、その投資で経営が成り立つのかどうか、本音で語り合って将来のあり方、進むべき道を漁業者に言えるような職員でないといけない。そのためには漁協そのものも力がなければいけない。だから漁協の経営の強化も大きな課題だと思いますが、組合員と職員が本音で話せるのが漁協だと思います。


――今日は漁業・漁村の再生に向け大きく動き出しているお話を伺いました。改めて地方創生はどうあるべきかお聞かせください。

 やはりきちんと第一次産業を位置づけることが必要だと思います。農村も漁村もよくならないと日本の飛躍はないと思っています。そのためにはわれわれ自身も変わっていかなければいけない。ただし、漁業による海の管理は営々としてわれわれが培ってきたノウハウによって行われてきたし、それで漁村も守ってきた実績がある。こういう点についても評価をしっかりしていただきたい。そこは農業も同じだと思いますから、そういう面では第一次産業の連携が大切だと思います。
 それから地方はそれぞれの地域が特性を持っていてそこが元気を出そうとしているということです。ですから国としても発想の転換が必要で既存の政策を活用するのではなく、地方への権限委譲もふくめて思い切った政策が大事だと思います。行政自体も変わるということ。それが地方創生を実現する道だと思いますし、漁村、農村に住んでいる人たちが自信とプライドを持っていけることが大事だと思います。


【浜プラン】 
 各浜の実態に即した具体的な解決策を策定・実施
◇収入向上の取り組み(高鮮度出荷・冷凍加工・直販・輸出など)
◇コスト削減の取り組み(省エネ機器導入・省燃油活動、漁獲情報把握による操業効率化など
→漁業者の所得(5年間で10%以上増)
→他産業(加工業や観光業)との連携
※各地の浜プランのなかには農業者と連携した活動や農協直売所での販売などのプランもある。

【広域浜プラン】 
 高齢化や人口減少が進んだ複数の漁村集落で浜の機能再編や協業化などに取り組み地域全体の活性化をめざす
◇産地市場、加工、冷凍施設等の機能再編
◇地域の共同ブランドの開発、高付加価値化など。

 

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