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2017.02.28 
再交渉迫られる韓国【韓米FTA】一覧へ

フリーライター・森泉

 米国のトランプ政権発足から1か月。ドナルド・トランプ大統領は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を始め、大統領選で発言した予想外の公約を着々と進める姿勢だ。当然、韓米FTAも話題のひとつ。韓国では、韓米FTA発効の丸5年を迎える3月15日が再交渉のスタートラインになるのではないかと緊張を高めている。米国が韓米FTAの再交渉で何を求めるかを探ってみた。

牛肉の年齢制限撤廃

◆トランプ側近が言及

与党の強行採決に抗議する農民団体(2011年11月22日)。プラカードには「韓米FTA無効」「李明博(当時の大統領)政権退陣」などの文字。前列の人は葬儀の服装で抗議 トランプ大統領は、大統領選で韓米FTAを名指しで批判した。それは昨年6月、北東部のペンシルベニア州ピッツバーグ市のアルミニウム工場を訪れた時の講演だ。この地域は、かつて鉄鋼と自動車産業で栄えていたが、自由貿易で衰退した。氏は「2012年、ヒラリー氏が国務長官の時、韓米FTAを推し進めた。韓米FTAで貿易赤字が倍増し、米国の雇用10万人が減った」と主張し、支持を訴えた。現在、トランプ大統領は韓米FTAに具体的に言及していない。しかし、そのブレーンの発言からは、韓米FTA再交渉が迫っていることがうかがえる。
 韓国最大通信社の聯合ニュースによると、トランプ大統領の中枢側近である米国シンクタンクのヘリテージ財団、エドウィン・フルナー理事長が現地時間2月14日に同社インタビューに応じ、韓米FTA発効5年を迎え、改めて検討する必要性を強調したという。「(韓国が)我々の知的財産権を尊重しているのか」と疑問を提示し、「NAFTAを見直すように、韓米FTAも同じ線上(トランプの通商政策)で再検討する必要がある」と明言した。
 もう一つ、トランプ大統領は、「為替操作国」に対し繰り返し厳正に対応すると明言した。米国財務部が為替操作国と指定する条件をみると、対米貿易黒字200億ドル(1ドル113円)以上、経常収支黒字が該当国の国内総生産(GDP)の3%以上、自国通貨価値の上昇を防ぐことがあげられている。この条件に米国商務省が発表した「2016年米国主要赤字規模」の資料を照らし合わせると、中国(米国の貿易赤字3656億ドル)、ドイツ(同741億ドル)、日本(同686億ドル)、メキシコ(同483億ドル)、韓国(同283億ドル)が為替操作国の指定範囲に入る。

◆撤廃時期の前倒しも

 韓米FTAは、全商品の99.8%の関税を撤廃する極めて高水準の自由貿易協定だ。農産物においては、コメを除きすべてを関税撤廃対象とした。一見再交渉分野がないようにみえるが、そうではない。非関税障壁や関税撤廃の時間、コメの関税に関する再交渉が議題に上がりそうだ。
 まずは、非関税障壁の輸入牛肉の年齢制限。韓国は2003年、米国の牛海綿状脳症(BSE)発生を受け、米国産牛肉の輸入を全面禁止した。輸入解禁は、韓米FTAの番外編として進められ2008年4月、BSEの特定危険部位(SRM)を除去したすべての米国産牛肉の輸入を認めた。つまり、米国産は、年齢制限なしに輸入できることにした。しかし、子どもを持つ母親や学生などを含め多くの国民が反発。政府は米国と再協議し、30カ月(月齢)以上の牛肉の輸入を保留し、30カ月未満の輸入を認めることにした。ただ当時、「(30カ月以上は)米国産牛肉に対する消費者の信頼が回復するまで」との条件を設けた。韓米FTA再交渉では、この30か月以上を求める可能性がある。米国が「消費者の信頼が回復した」とされる論拠を掴んでいるからだ。
 論拠の一つは、小売り現場で外国産売上高が国産を上回ったこと。ソウル大手食品スーパーでは、米国産を含む輸入牛肉の売上高が2016年初めて、国産をしのぎ55%となった。2013年に比べ13ポイント増加した。店頭の関係者も「FTAで確かに外国産が増加している」と話す。
 米国牛肉輸出協会も、輸入牛肉における米国産シェアが毎年増加していることを発表した。それによると、2008年の15.2%から、徐々に増え、2016年は42.6%に達した。また、米国産牛肉の安全性に対する国民意識も肯定が2012年の38%から52%に増加したという。
 韓米FTAに詳しいソウル大学の任廷彬教授は「このような根拠をもって、米国は『ほらみろ、米国産に対する信頼が回復したのではないか』と年齢制限の解除に臨むだろう」と指摘する。

コメ関税引き下げも

 次に、コメの問題。韓国は、1993年のウルグアイ・ラウンド(UR)交渉でコメの関税化を猶予する代わりに10年間(1995年―2004年)の最低輸入機会(MA)を設けることにした。この期間が終わる際に国内の関税化反対を踏まえ、政府は10年再延長し、初めて輸入米の一部を主食用として輸入することを認めた。2004年には輸入米の10%を、2014年には30%を主食用とした。再延長の両国間協議の中で米国は、輸入米の用途制限や国別割当量に非常に不満を持っていた。米国の割当量は年間5万tと中国の半分にも満たないからだ。韓国は2015年から関税化を進めているが、専門家の間では、コメの関税引き下げも議題になるのではないかとの見方もある。
 そして、関税撤廃時期の短縮問題。米韓FTAでは、コメを除くすべての農産物を関税撤廃の対象とした。米国は、関税撤廃時期が長い品目に関して、前倒しを主張する可能性もある。関税撤廃時期が発効から10年以上の品目は、全農畜産物1531品目の13%に当たる200品目。それには、牛肉、鶏肉、鶏卵、キウイ、リンゴ、ナシ、ジャガイモ、チーズ、ブドウ、オレンジが含まれる。
 その他、植物検疫や遺伝子組み換え(GM)作物の規制緩和も求められるとみられる。

◆発効後輸入が急増

表 韓米FTAは、コメを除き99.8%の商品を関税撤廃対象とし、2012年3月15日に発効した。当時、農業界からは、「農業崩壊論」の声が相次いだ。そのたびに、韓国政府は「即時に関税を撤廃した農産物による国内農産物への影響は微々たるものだ。重要品目も関税撤廃猶予や季節関税、輸入量が指定量を超える場合に発動するセーフカードで保護するため、影響が少ない」と主張した。しかし、現実的には大きな被害が生じている。
 まず、米国産農産物の増加だ。表で見られるように関税削減と共に、米国産の畜産物や果実が確実に増えている。畜産物の輸入量は2016年439000tに達し、韓米FTA発効前の平年値(07年~11年)より40.6%多い。果実も23万6000tと同62.4%多い。
 品目別では、牛肉の輸入増加が目立つ。2016年の米国産牛肉の輸入量は、16万9000tと前年比46%増、発効前の平年値に比べ32%増加した。牛肉自給率も、13年ぶりに40%を割った。韓国農村経済研究院によると、2016年の牛肉自給率は37.7%と、2003年の36.3%に迫った。
 チェリーの場合は、国内にほとんど生産がないため、24%の関税を即時に撤廃した。すると、輸入量は、発効前の平年値である3700tを軽々と超え、2016年には1万2400tと3倍以上も急増した。その結果、京畿道などで計300tを生産するチェリー農家に大打撃を与えたのは言うまでもなく、予想外の果実シェアを奪っている。
 現地報道によると昨年7月、米国産チェリーの勢いはすさまじかった。売上高では、初めてトップの輸入バナナを超えた。夏場の人気果実順位も変わった。これまでは、国産のスイカ、マクワウリの順だったが、チェリーがマクワウリを凌ぎ2位の座に立った。スーパー関係者は「輸入チェリーがマクワウリと競合するとは予想もしてなかった。チェリー輸入が一層増え、夏場の果実の消費構造が変わるのではないか」とみる。

◆  ◇  ◆

 米国が韓米FTAの再交渉を求めるのは時間の問題だ。日本も韓米FTAを鏡に、米国の予想外の厳しい注文に対抗する体制を構築しなければいけない。
(写真)与党の強行採決に抗議する農民団体(2011年11月22日)。プラカードには「韓米FTA無効」「李明博(当時の大統領)政権退陣」などの文字。前列の人は葬儀の服装で抗議

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