全農改革を考える【普天間朝重・JAおきなわ専務】2016年11月22日
今、規制改革会議による全農改革(解体)が我が国の農業・農協関係者を恐怖に陥れている。農協団体ではさっそく1500人規模の対話集会をもって政府への働きかけを強め、全中奥野会長の言う「世論形成」にも着手した形だ。
さて、「キャラウェイ旋風」というのをご存じだろうか。1963年に米国施政権下にあった沖縄において時の最高権力者キャラウェイ高等弁務官が起こした事件だ。ほとんどの人が知らないこの事件をあえてここで取り上げたのは、この事件の一連の動向がまさに今起きている全農改革騒動と酷似しているからだ。
時の琉球政府(その裏には沖縄に設置された米国民政府がある。そのトップが高等弁務官)により琉球農連(経済連の前身)に突き付けられた勧告は、農連事業の株式移行や肥料事業廃止など。理由は、本土の貿易自由化政策によって沖縄の農業の合理化が急がれており、糖業、パイン、畜産などの合理化を進めなければならないが、農連が協同組合組織のため企業との統合・合併がうまくいかない。だから農連事業は株式移行すべき。肥料事業は農家に安くいきわたらせることが狙い、としている。ところがその後遅々として進まない農連解体に業を煮やした米国民政府は63年7月、農連を抜き打ち検査、農連に業務改善命令を発出するだけでなく会長を背任や横領などの罪で告訴した。
沖縄ではこの一連の騒動を「キャラウェイ旋風」と呼んだ。
やむをえず農連では臨時総会を開催して製糖工場の民間との統合、畜産加工場の売却、パイン工場、農連市場の株式移行などを決議した。こうした中で、農協関係者約1000人が集結して「農協組織擁護総決起大会」を開催し、農連事業の株式移行に反対する決議や農連からの肥料事業取り上げに反対する決議を採択、政府に抗議した。
※ ※ ※
どうだろう。まさに今起きている全農改革の流れではないか。キャラウェイ旋風になぞらえると、貿易自由化(TPP)の推進のためには国内農業の合理化が必要で、農協団体、とりわけ全農がその流れを阻害している。このため政府は、全農の事業は株式会社化し、生産資材事業(特に肥料)からは撤退すべきと提言。これに抗議して農協団体では大規模(1500人)な抗議集会を実施―と、今のところここまでだが、続きを推察すると(50年前になぞれば)、最後まで抵抗する全農に対し政府は抜き打ち検査を実施、独禁法違反などの容疑で役員に捜査の手(規制改革会議提言では「独禁法については徹底して取り締まるべき」としている)、やむなく全農は政府による全農改革案を受諾、ということになる。
背筋が凍りつくような何とも恐ろしい話だが、実はこれには"落ち"がある。
キャラウェイ高等弁務官と時の琉球政府主席の退任後、新たな主席は「農連の事業は従来通り継続してよろしい」という見解を示し、これを受けて農連では株式移行の決議を撤回、逮捕された農連会長には無罪の判決が下された。
※ ※ ※
農連解体の表向き上の理由は先に述べた。しかし、本質的には経済界からの強い圧力があったといわれている。当時の経済界の広報誌「月刊沖縄経済界」64年新年号では「"マンモス農連"のジレンマ―分身、組織替えに動く」として農連を「マンモス」と比喩し、その解体を後押ししている。
戦後復興が主にさとうきびやパインなど農業を中心に行われてきたことから、農連の持つ2つの製糖工場やパイン工場、市場機能(農連市場)、肥料事業などは経済界にとって相当魅力的に思えたはず。そのため企業は再三農連の事業を縮小せよと主張し、政府内でも企業と競合するような事業は農連にやらせないようにすべきだとの意見も出ていたという。
今、全農の置かれている状況がまさにこのような状況ではないのか。
繰り返してはならない歴史が繰り返されようとしている。我々は何を学んできたのか。
重要な記事
最新の記事
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】酪農の地域循環圏の構築は可能か~全中・NHKフォーラムのために準備したQ&Aの概要2024年9月12日
-
外便所、外風呂【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第307回2024年9月12日
-
"IPEFクリ-ンな経済協定"にも本気度を感じられず 肝心の貿易分野は?【近藤康男・TPPから見える風景】2024年9月12日
-
【注意報】大豆、野菜類、花き類などにハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 岡山県2024年9月12日
-
【クローズアップ】どうする離農加速や飼料自給、制度欠陥 課題山積の新酪肉近論議開始 10月には酪農集中審議2024年9月12日
-
稲垣啓太・貴子夫妻がCM初共演『ごはんがおいしい幸せ』篇公開 JA全農にいがた2024年9月12日
-
鳥インフル 米アラスカ州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2024年9月12日
-
斑点米カメムシ類 多発のおそれ 令和6年度病害虫発生予報第7号 農水省2024年9月12日
-
ちぢみホウレンソウ栽培講習会 台風対策万全に JAおやま2024年9月12日
-
JA全農福島 24年産米の仮渡金(JA概算金)、会津産コシヒカリ1万6800円に2024年9月12日
-
横山優代表取締役取締役社長就任 クミアイ化学工業2024年9月12日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第101回2024年9月12日
-
日本育種学会で作物解析「フェノタイピング・サーベイシステム」展示 ナイルワークス2024年9月12日
-
根こぶ病抵抗性のハクサイ新品種を開発 成果を紹介 生研支援センター2024年9月12日
-
J-クレジット創出プロジェクト開始「インパクトレポート」アップデート Eco-Pork2024年9月12日
-
JA全農とやまとコラボ「富山米と食の祭典」開催 日の出屋製菓産業2024年9月12日
-
国連「未来サミット」目前 脱炭素目指し全国アクション開催 パルシステム連合会2024年9月12日
-
長野県飯綱町「りんごdeつながる関係人口フェア」29日に開催2024年9月12日
-
10月12日は「豆乳の日」加盟各社が豆乳月間にキャンペーン展開 日本豆乳協会2024年9月12日
-
第78回全国お茶まつり静岡大会「全国茶品評会」審査結果を公表2024年9月12日