複雑化する地政学・政治経済の風景2016年11月24日
安倍首相はトランプ時期米大統領との会談に備え慎重に事前準備をした、と言われる。その際、「保身で豹変するのではなく、国や国民のために面子を捨てて判断することが指導者に求められる姿勢だ」というスタンスを語っている(11月18日付け日経)。筆者は同じ言葉を首相にこそ返したい。そして協定内容の吟味に入る前に改めて、トランプ氏のTPP撤退発言により一変したTPPを取り巻く風景について考えたい。
◆「信頼築けると確信」そして「就任初日にTPP脱退を通告」と突き放された
安倍首相がTPP首脳会合の成果?をアルゼンチンの首都での記者会見で語っていたほぼ同時刻だ。日本時間11月22日の午前8時半頃、英国BBC放送がトランプ氏の動画を配信した。大統領就任初日に最初の100日間でなすべきリストを政権以降チ-ムに依頼した、そしてその冒頭が「通商」。そして「TPPからの撤退通告」だった。NYでの会談から一週間も経っていない。
◆TPP首脳会合と各国思惑
19日、ペル-の首都・リマでAPEC首脳会議と並行して開催されたTPP首脳会合では、安倍首相によれば、米国抜きのTPP論への言及は無く、「TPPの重要性を確認し、国内手続きを進めるべき、との認識を共有した」とのことだ。しかし、報道で伝えられるところでは、「米国の参加・TPP継続に期待」を明確にしたのは日・豪(その後23日には米国抜きに言及)・シンガポ-ルくらいで、メキシコ・ペル-(議長国)・NZ(国内手続き終了)・ベトナムなどは、首脳会合とは別の場で、12ヶ国によるTPP以外の枠組みにも言及している。
一方、同じペル-のリマで開催されたAPEC首脳会合で目標として共有されたのは、「FTAAPアジア太平洋自由貿易圏」だ。そしてそのベ-スとして角を突き合わせることになるのがTPPとRCEP東アジア包括的地域経済連携だ。
◆地政学的思考を吹き飛ばしたトランプ氏
多国間協定には地政学的思惑、政治経済的思惑が入り組んでいる。又各国その濃淡は様々でもある。地政学的思惑への拘りの強い日米両国は、アジアの成長を取り込みたい思惑も強い。日米の市場に視線を向けるNZ.豪州。世界最大の米国市場への参入を期待する途上国とその中でも対中カ-ドとしてTPPの枠組みを期待したいベトナム。NAFTAで獲得した米国市場を中国・ASEANに浸食されて焦るメキシコ等々。
様々な思惑を、トランプ氏の「米国第一」「TPP撤退」「2国間協定」は吹き飛ばしてしまったかのようだ。
◆切れるカ-ドを減らし続けていないか?安倍政権
トランプ氏はどう見ても企業のCEOであり、自社の利益の極大化を求め、力を背景に取引の扉をこじ開けるような交渉に集中する企業家だ。そして米国でPolitical Correctnessポリティカル・コレクトネスと言われる、政治における"正しさ≒建前"を無視した、差別主義的、排外主義的な剛球を投げる奔放さに、各国の首脳も戸惑っているかのようだ。TPP参加の各国首脳も、TPPに止まりつつも代わりの枠組みの値踏みを始めている。
トランプ氏の行く末はまだまだ予測困難で、暫らくは慎重に見守る必要がある。そんな中で安倍首相は、TPP交渉参加のための13年4月の日米合意以降、急速に"TPPの先取り"を進め、大筋合意以降は"TPPプラス"とも言える政策を食の安全・農業・医療・労働などの分野で進めつつある。そしてこれ以上の妥協は無い、と自民党も公言した日豪EPA以上の譲歩をTPPで受入れ、今は日・EUのEPAの年内大筋合意を目指して"TPP以上"への譲歩も囁かれている。
他のTPP参加国の多くは今年に入って国内手続きに一層慎重さを増し、他の選択肢も模索しつつある。あくまでトランプ氏の翻意に掛けて自ら選択肢を狭めている安倍政権は、米国新政権でのTPP復帰にしろ、2国間協定路線にしろ、耐えられるのか?
まるで切るべきカ-ドを撒き散らしながら進んでいるかのようだ。トランプ氏の翻意を促す前に、安倍首相こそ面子を捨てて判断をして欲しいものだ。
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】シキミ、カンキツにチュウゴクアミガサハゴロモ 県内で初めて確認 宮崎県2025年11月6日 -
栗ご飯・栗タマバチ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第363回2025年11月6日 -
輸出の人気切り花スイートピー生産の危機【花づくりの現場から 宇田明】第72回2025年11月6日 -
東京育ち 幻の黒毛和牛「東京ビーフ」販売開始 JAタウン2025年11月6日 -
第6回全社技能コンクールを開催 若手社員の技術向上を目的に 井関農機2025年11月6日 -
豆乳生産量 2025年度7-9月期 前年同期109% 日本豆乳協会2025年11月6日 -
鳥インフル 米イリノイ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年11月6日 -
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年11月6日 -
収穫体験やお米抽選会「いちはら大収穫祭2025」開催 千葉県市原市2025年11月6日 -
実習内容に基づき解説『演習と実習で学ぶ養液栽培』発売 誠文堂新光社2025年11月6日 -
横浜土産の新定番「横濱お米かりんと 黒蜜きなこ」新発売 ミツハシ2025年11月6日 -
液体せっけん量り売り 千葉「デポー園生」で開始 生活クラブ2025年11月6日 -
【特殊報】果樹類にチュウゴクアミガサハゴロモ 農作物への被害に注意 愛知県2025年11月5日 -
農林水産物・食品の輸出額 1兆2000億円 1-9月 15.1%増2025年11月5日 -
米生産 現場は離農増を懸念 経営環境の安定化が急務 食糧部会2025年11月5日 -
コシヒカリ5kg5421円に 新米出回り「高値」拍車 10月の東京区部2025年11月5日 -
「愛ある農政」を求めて【小松泰信・地方の眼力】2025年11月5日 -
【異業種から見た農業・地域の課題】小さい農家も含めて守る発想が大事 地方創生は人材から 元日本生命・坂本博氏に聞く2025年11月5日 -
11月15日の農協研究会開催迫る 「准組合員問題にどう向き合うか」 参加者を募集2025年11月5日 -
JA貯金残高 107兆2325億円 9月末 農林中金2025年11月5日


































