(010)農学部を出れば農家になれるのか?2016年12月16日
官庁の資料には結構良いものがあるが、量が膨大であるため後に探す時に苦労する。現在の食料・農業・農村基本計画を策定した議論の中に興味深い資料がある。時々活用しているため、やや古いがここに紹介しておきたい。
タイトルは「農業関係の学校等からの就農状況」というもので、2014年5月29日の食料・農業・農村政策審議会企画部会に提出された資料「担い手の育成・確保について(新規就農者への支援について)」(注1) という中の1枚である。
現在、日本には農業高校が307校あり、年間約2万7000人が卒業している。卒業後、そのまま就農する人は約800人(3%)である。一方、農業高校からの進学者を含め、農業系大学進学後、卒業する人は年間約2万3000人だが、このうち卒業後に就農する人は約700人(3%)である。
さらに、各都道府県には農業大学校などの実践教育を行う教育施設が46校存在する。大学校であるため、ここに入学する人は農業高校の卒業生などが中心だが、農学部の卒業生、あるいは社会人として何年かの経験をした後に農業のスキルを身に付けようとする人など、実際には様々である。この農業大学校等の卒業生が年間約2000人おり、そのうち卒業後に就農する人は約1000人(50%)いる。これらをまとめたものが、下の図である。
一言で言えば、農業関係の学校・研修機関からの就農者は年間約2500人であり、その内訳は農業大学校等が半分、残りが農業高校と農業系大学ということだ。
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ところで、わが国の新規就農者の全体数はというと、現在約5万7000人である。そのうち、40歳以上が4万2000人、39歳以下が1万5000人である。これも同じ資料の異なる頁に示されている(注2)。
農業関係の学校・研究機関等の卒業生で就農する2500人の大半は39歳以下であろうから、1万5000人のうち8割以上は、実家が農家であることを含め、様々な社会での経験を元に、志を胸に秘めて就農したのであろう。
では、彼らはどこで農業を学ぶのか? 自宅で親から? これは農家出身者であれば可能であるが、勤め人の子弟はそうはいかない。その場合には、一旦既存の農業生産法人等に就職し、何年かそこで修行、つまり知識・技術やノウハウ、そしてネットワークを身に付けた後に就農することが、最も現実的な選択肢ではないかと考えられる。
これに対し、40歳以上の新規就農者は、第2の人生の選択など、全く異なる理由や背景による可能性が高い。これはこれで良いし応援したい。
※ ※ ※
さて、それでは、農業系大学を卒業した2万3000人のうち、就農者の700人を除く残りの93%はどのような仕事につくのか? 誤解を恐れずに言えば、他の学部の卒業生と余り変わらない。あらゆる業界に就職する。ひいき目に見れば、傾向として食料や農業関係、いわば食と農に関わる周辺関連産業に就職していくことが比較的多い。
こうした事実を冷静に考えてみると、わが国の農業は一体誰が担うのかという問題は、実のところ、教育や社会の制度とも関わる大きな問題であることがわかる。
さて、経済学に完全競争市場という「あり得ない」仮定の概念があるが、それと同じように、例えば、日本中の田んぼを1人で管理するスーパー農家が出現すれば、あとはそれで良しとするのであろうか? 限りなき規模拡大が目指す方向はまさにこの方向である。
もちろん、このようなことは実際には不可能だが、行きつく先に何が待ち受けているかは容易に想像がつく。「あり得ない」仮定の議論が意味を持つのは、その想定からどのような課題や結果が導き出されるかがわかれば、現実ではそれ以外の方法が取れるからだ。そうでなくては一つの方向だけでガンガンやるべきという暴論になる。確かに可能性はゼロではなく挑戦する勇気は認められる。ただし、普通はそれを無茶と言い、賢くはない。
それにしても、農学部を出ても農家になれない、あるいはなるとしても相当の決意をした上で高いハードルを越えなければならないとしたら、それはそれで、どこかが歪んでいる気がする。
注1: 農林水産省「農業関係の学校等からの就農状況」「担い手の育成・確保について(新規就農者への支援について)」、2014年5月29日、11頁。
注2:農林水産省「新規就農者の動向」「担い手の育成・確保について(新規就農者への支援について)」、2014年5月29日、9頁。
アドレスは、http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/H26/pdf/140529_04_01part1.pdf (2016年12月9日アクセス)
(図)出典:農林水産省「農業関係からの学校等からの就農状況」、2014年。
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