失敗の本質 (村社会とリーダーの不在)2017年7月4日
このコラムに文章を書かせていただくようになり今回で4回目になります。いろいろ指摘させていただきましたが、私にとっても農協は大事な組織ですので批判ではなく、農協という組織がもっとよくなってもらいたいがための意見であると理解してもらえればありがたく思います。
世の中にはいろいろな組織があります。しかし、完璧なものなどありえないし、大なり小なり間違ったことをやっていたり、やるべきことをやっていない、組織とはそういうものだと思っています。
しかし、農協にとって今目の前で起こっているICTをはじめ人工知能、ロボットの進化という技術革新、それによる社会環境の変化は、たとえば金融・共済事業で利益を出し他の部門に振り分けるという旧来の農協のビジネスモデルを否定するものです。この社会の動きから派生する課題に本気で対処しないと取り返しのつかない事になります。
社会の変化により組織も変わらなければいけない、生き残れないと思っていますが、人は同じことが永遠に続くと思ってしまう生き物です。これは人間の性であり、農協関係者の誰も企業のように農協がつぶれたり、大きなリストラをしたり、給料を大幅に下げたり、ポジションを剥奪するようなことはしないと思っているでしょう。ほとんどの人にとって他人ごとです。
ローマ帝国のシーザーの言うように、「人間は、見たい現実を見たい生き物」です。放っておいたら、見たいものしか見なくなる。見たい現実を見るというのは、もっと正確に言うと、見たい現実に従ってしか人間は行動できない、という事です。だから世の中の変化についていくということは、簡単ではないのです。ましてや組織となると、もっと不器用になります。経営者はそう思って経営をしなければいけないし、職員は仕事をしなければいけない。みんな変わりたくないのです。
※ ※ ※
なぜ変われないのか、それは農協組織の仕組み、リーダーの在り方にも大きな原因があるのではないでしょうか。農協の経営トップは「OBも含めた農協」という大きなコミュニティの総意に基づいてトップにいるような状況にあります。だからその人が昔からある事業に手を突っ込んだり、伝統的な事業から撤退する、といった事を言い出すと、OBを含めて周囲から総攻撃に遭います。「何を考えているのか」と。それは今のシャープ、東芝、パナソニックも同じです。
私にも経験があります、私共農協のシンボルだったAコープ事業を閉めようとしOBの大反対にあいました。担当していた職員が突然動かなくなったのです。反対勢力からの大きなプレッシャーがあったことが予想されます。私は外部からきた人間ですので、経営判断したことを実行するだけでしたが、職員には悪いことをしたと思っています。
よく考えてみれば長くAコープに従事した人も多く、その人たちには当時の楽しかったこと、仲間たちと取り組んだ仕事の思い出などががたくさんあります、それを否定してしまうのですから反対するのは当然といえば当然です。
しかし、農協が高度成長期から築いてきた村社会・過剰同質的な協同体モデルはもう通用しないのです。本気で改革をしないと、今の農協では日本の社会での存在を認めてくれないし、やがて滅んでいくしかありません。OBはよく「昔はよかった」と話をしますが、実は高度成長の頃はたいした意思決定はしていないのです。せいぜいタイミングが今年か来年かくらいの決定案件。しかし今は違います。
また多くの農協ではリーダーの人選は外で戦うためのルールではなく、仲間内のルール、パワーバランスで決められてしまっています。そして多くの場合、リーダーの選抜を誤りやすいのが現実です。
※ ※ ※
重要なのはリーダーの先見性です。放っておいたら10年後には総玉砕してしまいかねないのが現代です。そのためには普段から人よりものを考えていることが必要であり、あるいは人とは違う視点でものを考えるよう努力している、最低限、一定のレベルの勉強をしている、人よりもタフな経験をしている、そういう条件が必要になってきます。
チャンスを潰すリーダーの三つの特徴は、
(1)自分が信じたい事を補強してくれる事実だけを見る、
(2)他人の能力を信じず、理解する姿勢がない、
(3)階級の上下を越えて、他者の視点を活用する事を知らない
といわれています。
失敗するリーダーに共通するのは自分の自尊心や権威、プライドを守るために、目の前の事実や採用すべきアイデア、周囲の優れた意見を無視してしまう、自己の意見や思いこみに固執してしまう、また、たまたまその役職に就いたのに自分は優秀だと勘違いし、そう振舞ってしまいとんでもない結果になることです。
そしてリーダー自身が組織の限界になってしまいます。愚かなリーダーは「自分が認識できる限界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは、組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用します。世の中にはとんでもなく優秀な人が掃いて捨てるほどいます。「それを知っていますか、謙虚になってください、優秀な部下を使うのも能力の一つです」。
日本軍が負けた太平洋開戦史に「日本軍人は、思索せず、読書せず、上級者となるに従って反駁する人もなく、批判を受ける機会もなく、権威の偶像となった」とあります。そうならないようにしたいものです。
重要な記事
最新の記事
-
不測事態の食料確保、スマート農業法など3法案 衆院で審議スタート2024年4月25日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年4月25日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年4月25日
-
【注意報】ウメ、モモ、などに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 和歌山県2024年4月25日
-
【特殊報】キュウリに「キュウリ黄化病」府内で初めて確認 京都府2024年4月25日
-
電動3輪スクーター「EVデリバリー」JA豊橋に導入 ブレイズ2024年4月25日
-
ほ場作業の約9割を自動化するオートコンバイン「YH6135,A7135,A」発売 ヤンマー2024年4月25日
-
むらぐるみの共同労働【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第288回2024年4月25日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「農村は国の本」~焚書として消された丸本彰造著『食糧戰爭』が復刻された2024年4月25日
-
【JA人事】JA水戸(茨城県)新組合長に園部優氏(4月21日)2024年4月25日
-
【人事異動】フジタ(4月1日付)2024年4月25日
-
米麦水分計PB-Rを新発売 ケツト化学2024年4月25日
-
全国の小学校・児童館に横断旗を寄贈「7才の交通安全プロジェクト」こくみん共済 coop2024年4月25日
-
自然とふれあう農業体験 伊勢崎市で27日に開催 パルシステム群馬2024年4月25日
-
野菜の鮮度保持袋で物流2024年問題解決へ「JAGRI KYUSHU」に出展 ベルグリーンワイズ2024年4月25日
-
粉末化でフードロス解決に挑戦 オンラインセミナー開催 アグリフューチャージャパン2024年4月25日
-
長期保存食「からだを想う野菜スープ」シリーズ新発売 アルファー食品2024年4月25日
-
生産者と寄附者が直接つながる「ポケマルふるさと納税」が特許取得 雨風太陽2024年4月25日
-
焼けた香りや音に満足感「パンの食習慣」アンケート実施 パルシステム2024年4月25日
-
埼玉県産いちごの魅力を伝える「いちごソング」が完成2024年4月25日