【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第55回 田植え・稲刈り休みと子どもの仕事2019年6月6日
田植え休み・稲刈り休み、「休み」と言っても、夏休みや冬休みなどとは違う。授業がないのはいいが、遊んでいるわけにもいかない。何しろ手伝いや雇いの人などたくさん来るし、昼ご飯は田んぼで食べるので、家の中の雰囲気も日常とは違う。子どもたちも何か手伝わないわけにはいかないし、実際に手伝いを命じられる。とは言っても小学校に入りたてのころは田んぼに入って苗を植えるなどということはさせられなかった。田植えは泥の中に入って歩きながら腰を曲げながらの労働、幼い子ども、ましてや当時の貧弱な体格の子どもでは、体力的に難しかったからだろう。稲刈りもそうだつた。鎌で刈るのは危険だし、刈り取った稲をまるぐ(「束ねる」の山形語)のも難しかったからである。だから最初は補助的な雑用をさせられたものだった。たとえば自宅から田んぼまでの昼食・おやつの運搬や連絡、子守り等々、さまざまな雑用を果たすのが子どもの任務だった。
やがて「苗打ち」が子どもの仕事になってくる。田植えをしている田んぼに苗代から運ばれてくる苗の束を田んぼの中にいる植え手のところに畦から投げ入れるのである。途中で苗がなくなって植え手が困ったりしないようにどこに投げるかを考えて投げ、足りなくなった場合にはその要求に応じてすぐ投げるのである。投げても届かなかったり、とんでもないところに投げ入れてしまったりして植え手の人に迷惑をかけないようにとかなり緊張したものだった。
稲刈りでは「稲束運び」が仕事となる。大人たちの刈り取った稲束がずらっと田んぼに並ぶころ、父が稲の乾燥のための稲杭を3~4㍍おきくらいに田んぼに刺して歩く。その稲杭のわきに私たちは刈ってそのままにしてあった稲束を何束か持てるだけ持って運んで積み上げる。その稲束を父は天日で乾燥させるために稲杭に掛けていく。私の生家の地域は稲架(はさ)掛け乾燥ではなく、棒掛け乾燥だった。
それ以外の時間の子どもの仕事は田植えのときのような雑用や半ば遊びのイナゴ捕りだった。
小学校の後半になってからだったと思う。まず田植えを教わる。田んぼに入り、左手に持った苗の束を結んでいるわらを右手で解き、苗を右手の親指と人差し指・中指で2~3本つまんで取って、枠(また後で説明する)で印しをつけた場所の土に一定の適当な深さのところまで刺しこむ。本数はその年の苗のでき等で変わり、深さは浅からず(倒れないように)深からず(成長が遅れたりしないように)植えるように注意される。
稲刈りは、左手で稲の根元の方をつかみ、右手に稲刈り鎌を持って刈り取る。足を刈ったりしないような鎌の使い方を習う(鎌のぎざぎざの刃、あれで足などを刈ったてしまったらさぞかし痛いだろうと、最初はやはり怖かった)。そして3株刈って脚下に置き、さらに3株刈ってその上に置き、計6株の稲を束にする(この株数は年によって、稲のできぐあいによって異なるが)。そうやって刈り進んでいって、後で大人に束ねてもらう。
束ね方(結束のしかた)を習うのは、つまり一人前に稲刈りができるようになるのはその翌年だったと思う。けっこう難しいからだ。刈り取った稲束の上の方から束ね用の3~4本の稲稈を右手で取り、それを横にして稲束の真ん中よりちょっと下の方の上に置く。その稲稈をもったまま両手で稲をそっくり持ち上げながら、その稲をくるっと回して束ね用の稲稈を上に差し込んで結び、束ねる(注)。
とは書いてみたものの、今の説明ではわかりにくいだろう。私もどうすればうまく説明できるのかわからない。実際にやっているところを見ていただくしかない。
稲刈り=手刈りをしなくなってからもう半世紀、それでも私の目の前に稲をおかれて結束してみろと言われたら、私の手と指はひとりでに動いて束ねることができるはずだと思うのだが。いまだに私の身体にしみついているはずである。
田植え、稲刈りは二日もやると足腰が立たなくなるほど痛い。とくに大変なのが田植えだ。稲刈りだと稲まるき(結束)で腰を伸ばし、一息入れることができる。しかし田植えは向こうのあぜ道に着くまでずうっとかがんでいなければならない。しかも日が長いと来る。夕方、時々父がいう、「もう少し日が長ければなあ」。その気持ちはわかってもやはり早く日が暮れて終わりにしてもらいたかった。
こうした田植え、稲刈りが一週間から10日も続くのである。それだけではない、やがて草取りなど腰を曲げなければならない作業はさらに続く。若くして腰が曲がってしまうのもしかたのないことだった。
(注) 前年の稲わらを結束に使っている地域もあったが、私の生家の地域では稲穂=生籾のついたままのその年の稲稈を結束に用いていた。その結束用の稲稈の穂は、束ねられた稲の穂と同じ方向に向けられているのでいっしょに脱穀することがてきるし、稲わらの節約にもなる。うまいことを考えたものと思ったものだった。
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