【リレー談話室・JAの現場から】これからの中央会(上)インテリジェンスを磨く2019年8月3日
今年の5月に亡くなった農林年金理事長の松岡公明さんには全中時代によく叱られた。「お前は現場のことがわかっていない」「本を読んでない」と。そして、「講演会、原稿依頼は全て引き受けろ」「ネットワークを活かせ」と諭された。本人自身が実践していたことであり、その一つひとつに「魂」が入っており、素直に受け入れることができた。
ところで、総勢2500人を超える役職員で構成されるJA中央会は転機を迎えている。本年9月末までに、すべての中央会は、農協法に基づくJAへの総合指導機関からJAグループの代表、総合調整、経営相談を担う一般社団法人JA全中、連合会のJA県中央会に組織移行する。
中央会は総合指導機関として、総合JAの広範な事業・活動領域にコミットしてきた。監査権に基づく経営指導、行政への建議権による農政活動は中央会の二枚看板であったと思う。監査を通じてJAの財務を把握し、いざという時には合併を指導し、時と場合によっては県域・全国域の資本注入スキームをつくり、JAの経営継続を担保してきた。
農政については、いろいろな見方はあるが、要所を抑えてきたと思う。その背景には、政治へのコミットメントは別にして、中央会と行政官僚が農家を守るという目的意識を共有し、実務的なコミュニケーションを確保してきたことがある。昔はよく酒も飲んだ。官僚は農協法に基づく中央会の建議権を遵守・尊重してきたと思う。
しかしながら、これからの中央会にはこうした法に基づく権能はなく、まさに自主・自立の任意の組織へと移行する。もちろん現場は日々動いており、JAと行政と中央会の間では人や情報といった経営資源が常に行き来しており、9月末を境に何かが大きく変わる訳でもない。しかし、二つの権能があるとないとでは、その質感は次第に違ったものになってくるであろう。
仕事を安定的に進めていく上で制度・仕組みは必要不可欠である。個人のパフォーマンスに依存していては組織とはいえない。これからの中央会において、みのり監査法人と中央会の関係、組合員の意思に基づく農政活動のあり方を突き詰め、自主的な制度として仕組み化していくことが肝(きも)と感じている。ただ、両者とも簡単なことではない。気合と粘りで堅固な「城」を築いていきたい。
その上で、私自身、大切と感じているのは、中央会役職員の一人ひとりの知的な努力である。少子高齢化、インターネット、環境問題を起因として世の中は大きく変化している。10年後、農業、地域、自然環境は社会の最も大きなテーマとなり、多様な価値を生むであろう。協同組合としてのJAは、その中心に立つポテンシャルを秘めている。SDGs(持続可能な開発目標)がいい例である。17項目は、JA綱領でいっていることそのものである。
次代を読み、提案する力は、個人の良質な経験や読書、交流やディスカッションなどから育まれる。そして、それは組織的能力というよりは、個人に宿る資質のようなものである。今あるリアルな現場を起点とし、中央会役職員一人ひとりが時代の流れを考察し、世の中の動きを注意深く観察し、JAのあるべき姿を考え、提案すべきだ。これを「インテリジェンス」=図=と表現したい。
私の職務に引き寄せすぎているかもしれないし、当たり前すぎるかもしれない。にもかかわらず、これからの中央会は、そこで働く役職員一人ひとりが学び、成長する中にあると強く思う。これまでやってきたこと、日々の業務、オペレーションは大切である。ただ、それに没頭してはいけないし、逃げてもいけない。将来を読み、変えていくことにチャレンジする、新しいことを興すことが必要である。
冒頭に戻るが、松岡さんが説いてきた日々のベーシックな行動、心構えは、「インテリジェンス」を磨くために必要なことなのだ、と今あらためて思う。
松岡さんは故郷熊本の地に眠るが、その「魂」は全国の仲間が受け継いでいる。その教えを胸に、これからも全国の仲間と共に自身を磨いていきたい。
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