2020年-ウイルスと人間 JCA客員研究員 伊藤澄一【リレー談話室・JAの現場から】2020年12月22日
新たな共存を探る
JCA客員研究員 伊藤澄一
2020年は地球と人間にとって大きな節目になると思います。飛行機と人に運ばれパンデミックとなった新型コロナウイルスの災禍に、全世界が恐怖に駆られました。細菌の数十分の1、電子顕微鏡でやっと姿が見られる微細なウイルス。コロナウイルスとは何者であるのか、その本質がわからぬまま、2020年が終わります。
■人類の4つの課題
日本のコロナ第3波は深刻な社会不安をもたらしています。大都市圏さらに地方への感染急拡大、病院・高齢者施設でのクラスターの増加、通常医療の停止、重症者・死者の増加、保健所機能・医療体制崩壊の危機、失業者・自殺者(とくに女性)の急増などです。協同運動の仲間である旭川厚生病院での大きなクラスターの発生は、これらが現れた先行ケースだと思います。政府は欧米比較での死者数の低位あるいは新ワクチンに望みをかけて、五輪開催に向けた経済重視のアクセルを踏み続けています。それは「誰一人取り残さない」を標榜するSDGs運動とは真逆の、国民に自助を求め生活困窮を強いるサバイバルな対策のように見えます。
コロナ災禍に至るまでに、世界はいくつもの共通問題に悩んできました。それらは(1)核・原子力問題が軍事とエネルギーで赤信号を点し、(2)温暖化問題が地球環境の悪化と異常自然災害の発生を恒常化させ、さらに(3)著しい貧富の格差問題が人間の分断・対立と差別を助長しています。資本主義の過度な競争による地球と人心の荒れ野にやってきたのが、(4)コロナ災禍だと思います。豊かな国も貧しい国も、そこに暮らすすべての老若男女も等しくあのような人間の尊厳を著しく損なう死の恐怖に向き合っています。(1)から(4)の問題は、地球上に棲みかを得た人類が築いた現在の社会・経済、さらには政治・科学のシステム転換を迫っています。
■ウイルスは敵か
人間が闘う真の相手はコロナウイルスなのかどうか。コウモリを宿主として恐らく1万年は共存共生してきたというコロナウイルスが、なぜ人間を宿主としたのか。ウイルスになったつもりで想像してみます。ありとあらゆる地球資源が枯渇するまで経済を支配し科学を駆使して富を求める人間の強欲が、地球の辺境に棲む小動物やそこに共生するウイルスまでも駆逐する事態への強い警告がコロナ災禍なのではないか。新ワクチンの登場も、政治と科学による一方的な攻撃のように見えているでしょう。だから、ウイルスも生き延びようとして変異を遂げて、これからも登場してくるのではないか。どこかで存在を認め、相互不可侵の際をもてないだろうか。新ワクチンができても、満点はとれないかもしれません。一定の効果のもと、収束できればと思います。米中などが核武装を背景に共存条件を模索しているように、人間とウイルスの共存が考えられます。
天然痘と牛疫の根絶に貢献したウイルス研究の山内一也先生によると、20世紀はウイルス根絶を目指した時代で、21世紀は共生の時代だといいます。ウイルスは30億年前に地球上に現れ、人類の祖先が現れたのが20万年前。地球上の『生命の1年歴』に例えれば、1月1日の午前零時である46億年前に地球ができて、その後ウイルスが出現したのは5月の初め頃、人間が出現したのが大晦日の最後の数秒です。
老先生は、ウイルスにとってみれば人間はとるにたらない存在に過ぎない、人間とウイルスは敵とか勝ち負けの相手ではない、生命体としてのウイルスと人間の区分はつけがたいといいます。人間の遺伝子のヒトゲノムの4割はウイルスであり、完全に身の内のようなもの。100兆個ある人の腸内細菌にはおよそ1千兆のウイルスがいる、だから野生のウイルスとの共存共生を考え、我々の体内で一緒に生きてきたウイルスにも理解を深める時代がきていると説いています。
コロナ危機の収束を期する2021年。4つの問題さらには人間とウイルスとの関係性についても展望が拓けることを念願したい。
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